内定をもらった企業は違ったけれど同業他社で、宝は就職を機に私の住む街へ引っ越すことになりそれならばと同棲をすることになった。
ウキウキで家具を買い、使いやすい家電を2人で選んで、私の両親にも挨拶をして、宝の両親も1人じゃないことに安心してくれて、良いスタートを切った。
なのに、どうして今はこんなにも苦しいんだろう。
「このハンバーグしょっぱくない?」
良い出来だと思って、わざとレタスを下に敷いて盛り付けたハンバーグに対し、宝はそう言った。
濃い味付けが好きだと言ったのは宝だし、ハンバーグだって好みのはず。安かったからという理由で買ったとは言え、ひき肉を捏ねて成形し丁寧に作ったハンバーグを貶されるのは、イライラする。
「ちょっと塩胡椒入れすぎたかな」
「うん、まぁ良いけど」
文句を言いつつ食べる手は止めない。
最近気がついたけれど、何かにつけてチクチクと言われるようになっている。
洗濯物が若干湿っている気がするとか、お米の炊き具合がしゃばいとか、買い物に出かけたら時間をかけすぎだとか、美容院に行ってもそれしか切ってないのにそんなに料金がかかったのかとか。
とにかく気に入らないらしい。
その度に私の心に棘が刺さるから、引き抜こうとして取り繕ってみるもののより深くえぐらえる。
「なんて言うかさ、美津樹ってもっと頑張ればうまくいくのにな。もったいないよ」
ほら、また、深々と刺さる棘に耐えて笑顔を作って見せる。
まるで笑顔という仮面をつけているようだ。
でもその仮面が、ガラスのように割れやすいことを知っているから、心の棘に気づかないふりをして今日も笑う。
*—————*—————*
実は会社でも仕事がうまくいっていない…営業と事務作業と、2年目ということで新入社員の教育係にもなり毎日がぎゅうぎゅうに詰まっている。
先輩からは急かされるし、後輩には厳しく対応できなくて舐められるし、上司はいびり大好きなお局だし。
だからこそ自宅では、大好きな人に癒されたいのに。
「木下先輩、この資料の付箋部分なんですけれど…ちょっと理解できなくて」
「あぁ…ごめんね、説明するからちょっと待っててもらえる?」
「え〜、この後アポがあって今じゃないと困ります」
「そ、そっか…えっとね、私が言いたかったのは先方に説明するときに専門用語を多用しないでほしいなってことで」
「え、でも専門的な知識は必要じゃないですか」
「必ずしも相手がそれを知っているとは限らないでしょ?
後は会話に英単語を挟みすぎないことかな、ほら…特に年配の人を相手にするときはリスケとかインタラクティブとかそういうのは避けて…」
「あ、はい。僕のやり方が気に入らないってことですね。了解です〜」
ムカつく。
みんな、ムカつく。
こっちはいつだって笑顔で接しているのに、どうしてみんな応えてくれないのだろう。
誰にでも平等に、公平に、他人には優しくって小学校で習わなかったのだろうか。
誰もいない資料室で缶コーヒを飲むことが、唯一の休息時間。
埃っぽいなとか静かだなとかぼーっとしながら、微糖の缶コーヒーを飲むと頭が冴える気がして、気づけばここで昼休憩の半分を過ごすことが日課になっていた。
スマートフォンを確認すると、通知も何もきていない。
1年前なら宝から「今日は何時に帰れる?」とか「帰りに食材買って行くよ!何が必要?」とかメッセージが休憩時間のたびに送られてきていたのに、今じゃ何も。
『もっと頑張ればうまくいくのにな、もったいない』
その宝からの言葉が頭にこだまする。
自分に苛立っているのか、宝に苛立っているのか、誰に苛立っているのかもうわからないくらいにはイライラしている。
「あ゛ーもうっ!みんなムカつく!」
ちょっと大きめの声でそう口に出すと、資料室の奥の戸棚からバサバサと何かが落ちる音がした。
驚いてそちらに目をやると、そこには同じ部署の先輩、一條先輩が埃まみれで立っていた。
ウキウキで家具を買い、使いやすい家電を2人で選んで、私の両親にも挨拶をして、宝の両親も1人じゃないことに安心してくれて、良いスタートを切った。
なのに、どうして今はこんなにも苦しいんだろう。
「このハンバーグしょっぱくない?」
良い出来だと思って、わざとレタスを下に敷いて盛り付けたハンバーグに対し、宝はそう言った。
濃い味付けが好きだと言ったのは宝だし、ハンバーグだって好みのはず。安かったからという理由で買ったとは言え、ひき肉を捏ねて成形し丁寧に作ったハンバーグを貶されるのは、イライラする。
「ちょっと塩胡椒入れすぎたかな」
「うん、まぁ良いけど」
文句を言いつつ食べる手は止めない。
最近気がついたけれど、何かにつけてチクチクと言われるようになっている。
洗濯物が若干湿っている気がするとか、お米の炊き具合がしゃばいとか、買い物に出かけたら時間をかけすぎだとか、美容院に行ってもそれしか切ってないのにそんなに料金がかかったのかとか。
とにかく気に入らないらしい。
その度に私の心に棘が刺さるから、引き抜こうとして取り繕ってみるもののより深くえぐらえる。
「なんて言うかさ、美津樹ってもっと頑張ればうまくいくのにな。もったいないよ」
ほら、また、深々と刺さる棘に耐えて笑顔を作って見せる。
まるで笑顔という仮面をつけているようだ。
でもその仮面が、ガラスのように割れやすいことを知っているから、心の棘に気づかないふりをして今日も笑う。
*—————*—————*
実は会社でも仕事がうまくいっていない…営業と事務作業と、2年目ということで新入社員の教育係にもなり毎日がぎゅうぎゅうに詰まっている。
先輩からは急かされるし、後輩には厳しく対応できなくて舐められるし、上司はいびり大好きなお局だし。
だからこそ自宅では、大好きな人に癒されたいのに。
「木下先輩、この資料の付箋部分なんですけれど…ちょっと理解できなくて」
「あぁ…ごめんね、説明するからちょっと待っててもらえる?」
「え〜、この後アポがあって今じゃないと困ります」
「そ、そっか…えっとね、私が言いたかったのは先方に説明するときに専門用語を多用しないでほしいなってことで」
「え、でも専門的な知識は必要じゃないですか」
「必ずしも相手がそれを知っているとは限らないでしょ?
後は会話に英単語を挟みすぎないことかな、ほら…特に年配の人を相手にするときはリスケとかインタラクティブとかそういうのは避けて…」
「あ、はい。僕のやり方が気に入らないってことですね。了解です〜」
ムカつく。
みんな、ムカつく。
こっちはいつだって笑顔で接しているのに、どうしてみんな応えてくれないのだろう。
誰にでも平等に、公平に、他人には優しくって小学校で習わなかったのだろうか。
誰もいない資料室で缶コーヒを飲むことが、唯一の休息時間。
埃っぽいなとか静かだなとかぼーっとしながら、微糖の缶コーヒーを飲むと頭が冴える気がして、気づけばここで昼休憩の半分を過ごすことが日課になっていた。
スマートフォンを確認すると、通知も何もきていない。
1年前なら宝から「今日は何時に帰れる?」とか「帰りに食材買って行くよ!何が必要?」とかメッセージが休憩時間のたびに送られてきていたのに、今じゃ何も。
『もっと頑張ればうまくいくのにな、もったいない』
その宝からの言葉が頭にこだまする。
自分に苛立っているのか、宝に苛立っているのか、誰に苛立っているのかもうわからないくらいにはイライラしている。
「あ゛ーもうっ!みんなムカつく!」
ちょっと大きめの声でそう口に出すと、資料室の奥の戸棚からバサバサと何かが落ちる音がした。
驚いてそちらに目をやると、そこには同じ部署の先輩、一條先輩が埃まみれで立っていた。
