つまり私はシタ彼女

朝、目が覚めると隣にいるはずの(たから)がいなかった。
土曜日の午前8時、休日なのだからゆっくり寝ていても誰も文句は言わないし、私も言うつもりはない。なのに空っぽのダブルベッドの左側がどうしても許せなかった。



溜まったままの洗濯物に、油物とグラスをテキトーに置きっぱなしにしたシンク、締まりきったカーテン。



最初こそ「まったくもう」なんて言いながら全て片付けていたけれど、この状況にイライラするようになったのはいつ頃からだろうか。

社会人2年目、それは私も宝も同じ。
就職と同時に開始した同棲も2年目で、お互いの職場から中間の距離にあるからと選んだアパートの部屋はもう、馴染み深い2人の自宅だ。

顔を洗って身支度を整えてから洗濯機を回して、ベトベトのグラスを洗って、積み上げられたネット通販の段ボールを畳む。週明けの月曜日は燃えるゴミの日なので、今のうちからゴミを集めておいて月曜の忙しい朝に慌てないようにする。

なのにリビングのゴミ箱には、ペットボトルとお菓子の包み紙が分別することなく捨てられている。



こういう小さなことにいちいちイライラしてしまう自分が嫌だった。



今日の夕飯は何にしようか。その前に昼食はどうするのだろうか、相談しようにも宝がいない。

宝はおそらくここ数ヶ月続けているジョギングに出かけている、一緒に暮らすようになって体重が増えて、会社の健康診断の際にコレステロール値が同僚よりも悪くショックだったらしい。

美津樹(みつき)の作るご飯が美味しいから」

その時は褒められたと嬉しかったけれど、今になって「太ったのはお前のせい」と言われているようでムカつく。まるで私が栄養バランスも考えずテキトーに食事を用意しているみたいじゃないか。



お互いの休日が合った日だというのに、自分勝手でムカつく。



お互いフルタイムで働いているというのに、家事は全部私でムカつく。



将来のことも何も考えていなくて、ムカつく。



大きくため息をついて、ゴミ袋を乱暴に投げた。



*————-*—————*





大学2年の夏、サークルの合同合宿で訪れた田舎町の河川敷で花火を楽しんでいると、隣でバーベキューをしていた団体が声をかけてきた。私たちは女子7人と男子3人で、向こうは同年代の男子6人。
最初は警戒したものの、先にこちらの男子たちが向こうと打ち解けて一緒に花火をするようになった。

後方で花火の片付けをしていた私に、焼いたフランクフルトを3本持ってきたのが宝だった。



「えらいね、1人で片付けてて」

馴れ馴れしく話しかけてくる宝は、少しだけ酔っているようで頬が赤かった。

「誰もやらないからやるしかないだけです」

率直な印象として、関わりたくないというのが本音だった。

「ねぇ、食べな?俺が焼いたんだから美味いよ」

そう言って座るように促しフランクフルトを差し出した宝が、どうしようもなくチャラ男に見えて不快だった。だから初対面の印象は、私は最悪、宝は照れているんだと思ったと後から語っている。

その後ほどほどに酔ってきた仲間を介抱しながらその場を後にして、私たちは二日酔いのメンバーと真面目に合宿に取り組むメンバーとで仲違いをしてしまい、大学に戻った頃にはサークルが崩壊してしまっていた。



それからしばらくたった秋の初め、最寄りの駅で買い物をしていると、突然「あー!!!」と指をさして私に声をかける宝と再会した。

夏に出会ったときには色黒でタンクトップ姿、耳には大ぶりなピアスと明らかなチャラ男だった宝だが、そのときには髪は丁寧にセットされていてピアスもつけていなかった。
服装も落ち着いたシャツにネイビーのカーディガン、ピアスも外していて、爽やかな青年といった印象に変わっていた。

だからしばらく、あのとき会ったうちの1人だと思い出せなくて、名前も知らなかったから尚更「ナンパ?」と身をこわばらせていると、宝から「河川敷でフランクフルト焼いてた」とキーワードをくれた。



話してみたらお互い同い年で、宝は隣県の大学に通っていると言う。
会話をしているうちに好きなアーティストや志望する就職先が同じだとわかって打ち解けた。そこから「就活の仲間」というていで連絡先を交換し、お互いに就活のアドバイスや相談をし合っていて、そして宝から告白されて付き合うことになった。