突然のラブストーリーの中で誰よりも貴方だけを想います


「うん…椛さんの事大好き」
その言葉が聞こえた瞬間私の心の中の物が全て崩れ落ちた。もうその場で泣きたかった。でも彼に迷惑を掛けるわけにはいかなかった。

「そうですか…きっと…彼女も貴方に好意があると思いますよ…でも急かしたらいけませんよ、ゆっくり着実に進展していきましょう…私は貴方達を応援していますから…何かあったら相談に乗りますからね…」
こう言うしか出来なかった。
「話はこれだけです…二人の幸せを誰よりも願っていますよ…」

そう言って走って家に帰る。もう私の初恋は完全に終わった。
 
なら今度は私が彼と彼女の幸せを願う番だ。でも好きな人の幸せ願うのは当然の事なのに。

胸の痛みが消えてくれない。でも彼の笑顔を見る度にこの痛みが和らいでいく気がした。

  
彼の笑顔は中学生の時と変わっていなかった。



  
中学生の頃、彼に初めて出会った。
最初の印象は暗くて酷く落ち込んでいた。それでも夜みたいに全てを包み込む優しさがある。
 
でも儚く消えてしまいそうで怖かった。あの日から彼に惹かれていった。
 
たまたま席が彼の隣になった時思い切って話しかけてみた。
 
「あの、おはようございます…」
彼は笑顔だけど寂しい様子で挨拶を返す
「おはよう…確か…吹雪さんだっけ?」
「え…あ、うん…」
 
覚えてたんだ。地味で根暗な女子の名前なんて価値ないのに。
「なんか…元気ないよね…大丈夫?話だけでも聞こうか?」
 
「ありがとう。まぁいろいろあってね…」
彼の苦笑いに心が痛む。
いつか話してくれるといいな…
 
「そっか…なら!昼休みとか少しでいいから話そうよ!」
「え?あ…うん…」
半ば強引に彼と約束する。
 
その日から楽しくない学校生活も彼との小さな約束のおかけで楽しみになる。いつもよりルンルンで校舎裏に向かう。
 
少し浮かれすぎて階段を踏み外しかけた。
その時左手に暖かい感触がする。
 
振り向くと彼が心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫?凄い嬉しそうだったけど…」
「それは…君と話せる…から…」
恥ずかしくて声が小さくなる。
「そっか…良かった…」
 
彼の少しの笑みに私もつられて笑ってしまう。
そして静かに彼の左手を強く優しく握って校舎裏に向かう。
 
校舎裏に着くとまるで二人だけの世界になったような静けさと木々のさえずりが辺りを奏でてる。

「美智也の悩み聞かせてほしいな…無理にとは言わないよ」
彼は少し俯いてから小さな声で話し始める

「引っ越して、好きな人と離れ離れになった。ようやく両想いだと気づいたのに…連絡先も交換出来ずに離れてしまった。今彼女が何をしてるのか…ずっと気になって眠れない。彼女に…会いたい」

彼の壮絶な過去の話を聞いた私はどう答えたらいいか分からなくなる。でも一つ分かることは彼が恋煩いになっていること。

「それは…辛かったよね…」 
 適切な励ましなのか分からないけど少しでも彼が元気になってほしいから、彼に提案する

「美智也くんは最近この辺りに引っ越してきたんだよね…」
「うん。そうだね…」
彼は悲しさを隠すように顔を伏せる。
 
「だったら私がこの街の良い所沢山教えるね!良かったら…今度の休み、一緒に出かけない?」
 
私の話を聞いた彼は顔をゆっくり上げで私に初めて無邪気な少年のような笑みを見せてくれた。
「ありがとう!君とお出かけしたい!」
 
それでも胸の棘が抜けてないのかもしれない。まだ悲しそうな感じがする。
「なら14日の6時に駅で待ち合わせね」
「うん、分かった……え?どこいくの?」
 
いつもの春の日差しがほんのり暖かく感じられた。
帰り道いつも一人のはずなのに隣には彼がいる。それだけで笑みが溢れてしまう。

私は思わず彼の手を握ろうとする。しかし途中で辞めてしまう。彼には他に好きな人がいるから。
 
分かれ道で寂しそう彼の手を離す。
「また明日」
彼は和やかな表情で手を振る。
「うん…また明日」
 
家に帰ると慌ただしい足音が聞こえる。
「おかえり!」
 
いきなり抱きついてきたのは私の事を溺愛しているお姉ちゃんだった。
「ねぇ!なんかソワソワしてるね。良いことあったの?!」
「うん…良い事あったよ」
 
お姉ちゃんは私の頭をワシャワシャ撫でる
「良かったね!久しぶりに可愛らしい表情見られてお姉ちゃん嬉しい!」
「もう…私も子供じゃないんだから…」
 
そんな事を言いながら私は満更でもない表情をしてしまう。
部屋に入って今日の授業で出された課題をしようとする。でもお出かけの事しか考えられなくて集中出来ない。
 
課題が終わった頃には外は真っ暗になっていた。
ふと気になってベランダに出るとキラキラ光る星が空を照らしている。
 
幻想的や綺麗では表せない程の景色が私の瞳に映っている。星空を綺麗だなんて思える日が来るなんて考えた事無かった。彼に出会えて良かった。
 
夜は優しい、けど時々寂しいと感じる。もっと彼の事を知れたらもっと彼に寄り添えるかもしれない。

次の日の朝。まだ約束の日では無いことにげんなりする。
「はぁ…」

思わずため息を吐いてしまう。それでも学校に行くだけで彼に会える。

その事を考えると不思議と胸がふんわりとした何かに包まれる。
無意識に胸がときめいて彼の事しか頭に入らなくなる。
「ふふ…」
自然と笑ってしまう。こんなに無邪気に笑えたのは初めてかもしれない。
全て彼と話し始めたのがきっかけかもしれない

学校に向かうまでの足取りは入学式よりも軽くなっていた。

教室に入ると外を眺めている彼が目に入る
「美智也くん、おはよう」
彼に挨拶するとくるっとこちらを向いて笑顔で挨拶する
「吹雪さん、おはよう。昼休みに話あるから、校舎裏来てほしい」

「え、うん…分かった!」
まさか彼からそんな事を言われるとは思っていなかった。この頃から胸のドキドキが抑えられなくなっていた。

昼休みにスキップしながら鼻歌を謳う。校舎裏に着くと彼が壁に寄りかかりながら待っていた。そしてゆっくりとこちらを向く

「吹雪さん…今日も少し話そっか…」
「うん……うん!」
声が少し裏返ってしまう

「明日のお出かけでどこ行くの?それが少しだけ気になって…」
「それは…まぁ灯台だよ!綺麗な海だよ!」

「灯台?楽しみ!」
彼の可愛らしい反応に微笑みが隠せない。クールなイメージのある彼から想像つかないギャップがあってさらに惹かれてしまう。

私は頭の中で否定する。彼を好きになってはいけない。彼には幼馴染の彼女の存在がある。私が入り込める隙間も余裕もない。

それに誰かの幸せを奪いたくないからだ。私が幸せになるぐらいなら幸せに恵まれない人が幸せになる方がいいに決まっている。

家に帰るといつものようにお姉ちゃんが出迎えてくれる。うっとうしいぐらいに
「おかえり!うん?あれぇなんかニヤけてない?前より良いことあった?」

お姉ちゃんのそんな所だけは無駄に鋭い。

「明日…友達とお出かけする」
その事をぼそっと話すとお姉ちゃんはパァと新しいおもちゃを買って貰った子供のような表情をする。
「誰?!まさか男子と?!ついにすっちゃんにも友達か…」

謎に感慨深く頷くお姉ちゃんに私は少しだけ口を緩む。
「あ!笑った!えへへ…可愛い…」

その言葉に顔を真っ赤に染める。
「恥ずかしい……」

私はそう言って自分の部屋に入る。明日何を着ていこうかな…どんな髪型にしようかな…ニヤケが止まらなくなる。

クローゼットの中を見てどうしようか悩んでるうちに1時間ぐらい過ぎていた。

そして当日しっかり起きて、髪型を整える。いつもはポニーテールだが、今日は髪を結ばすにしてお姉ちゃんから借りた髪飾りを付ける。

「よし!」
鏡を見てチェックする。お姉ちゃんにも見てもらい、恥ずかしい程褒められて顔を真っ赤にしながら家を出る。

駅に着くともう彼が待っていた。
「おはよう!ごめんね待たせた?」
「待ってないよ。その髪飾り可愛いね。似合ってるよ。」
「そ、そうかな?ありがとう」
 
このやり取りを思い出して今も時々ニヤけてしまう。

電車は朝早いからなのか人が少なく二人きりになれて嬉しい反面、彼と離れ離れになった彼女に申し訳なく思う。

私よりきっと彼女がこの場にいたほうが彼だって幸せだろう…

気づけば、私はいつの間にか静かに眠ってしまった。

「ねぇ…起きて」
彼に体を揺さぶられて目を私は目を覚ます。
「あ…私寝てた?」
「凄いぐっすり寝てたよ。やっぱり緊張して眠れなかったの?」

 
「あはは…昨日中々寝付けなくてね…美智也くんは何時に寝たの?」
彼も私と同じで緊張して眠れなかったかもしれない。

「僕は8時に寝たよ」
凄く健康にいい生活だった。

目的の駅で降りてそこからバスに揺られて灯台の最寄りのバス停まで行く。

綺麗な海と朝の太陽が美しく優しく辺りを色鮮やかにしていた。
バスを降りると新鮮な空気と潮の匂いが混じり合っている。

「綺麗…」
彼はこの景色に見惚れている。少しでも彼の気が紛れれば嬉しいなと思ってしまう。

「綺麗でしょ。ここに来ると私は悩みとか無くなるんだ。」
彼の痛みは私には分からない。だから私は彼を助けたい。謎の痛みに悶え苦しむ彼と小学校の自分が重なって見えたから。

「久しぶりに海に来たけど…やっぱり心が癒されるよ…」
彼の柔らかい表情を見て思わずドキッとしてしまう。駄目なことなのは分かってるのに。

「あ!魚だ!」
「え?どこ?」
海を見渡してみるがそれらしき影は見られなかった。いや、彼の目良すぎだろ。

灯台にはカップルと思わしき人達がちらほらいた。私達と他の人からしたらカップルに見えたかもしれない。

それが少しだけ嬉しくて、でも罪悪感に押しつぶされそうだった。

灯台を登って展望台から辺りを見渡す。私は絶句した。世界はこんなにも美しい事を初めてしった。彼もこの景色をうっとりと眺めている。

海に星空が落ちたようにキラキラ輝いている。そして彼のように透き通った青色に染められた海。
全てどうでもよくなるぐいの景色だった

灯台を降りて気づけば正午を過ぎていた。
彼と記念にツーショットを撮る。
この写真が私にとって一番笑顔だったかもしれない。

「ねぇ…」
「うん?どうしたの」
「今日は…本当に楽しかった!ありがとう!楽になったよ!」
彼の本当の笑顔を見れて私は思わず涙を流す。作り笑いでも苦笑いでもない、彼の心の底からの笑顔が私のなによりも宝物であった

「ごめん!大丈夫?」
「私も楽しかったよ…ありがとう!」
笑顔でいれたら幸せ。そう思えた出来事であった。

「彼女と会えるといいね。私は二人の幸せを心の底から願っています」
「ありがとう…本当に」
自分の初恋とか今はどうでもよくなった。ただ彼が笑顔で幸せでいること。それが一番の愛だと気づいた。

そして本当の愛を教えてくれた君に言いたいことがある
「私は…美智也くんの事大切な人だと思ってるよ。絶対に忘れないよ!」

「僕も絶対忘れないよ…数少ない大切な親友の一人だから」

私に新しい希望を見つけられるには十分過ぎる言葉だった。
彼の笑顔は隣にいなくても輝きは私にちゃんとどいてる。過去も今も。きっと彼は気づいてないと思うけど

あの日からより一層友達として仲良くなった。私が落ち込んでる時も寄り添ってくれた。誰かが困ってたら優しく手を差し伸べる。私は少し彼女の気持ちが分かったかもしれない。こんな人が愛されないわけない。

でも、運命は非情なものであった。
月日は流れる中学生三年の梅雨。湿気や雨によってうねる髪飾りなんとか整える。
 
私は今日も彼に会えると浮かれていた。学校に向かう途中に何か人だかりが出来ていた。
よく見ると車が大きく破損していて何か血のようなものが道路を赤く染めていた。

あまりにもショッキングな場面に私は早歩きでその場を立ち去った。少し気分が落ち込んだが彼にそんな姿見せるわけにはいかない。そう思い込んでいつも通りの表情で教室に入る。

彼の姿は無かった。いつもなら机で本を読んでいるか外を眺めているはずなのに。

連絡は朝の挨拶しか来てなかった。

おかしい。そう思って友達の白鷺君に連絡する。
「美智也くんに何かあったの?」

その返事はあまりにも冗談にはたちが悪いものであった。

「美智也が事故に遭った。今救急車で病院に運ばれた」

私は手の力が抜けてスマホを落としてしまう。周りの視線が集まるのを気にせずに雨の中朝の人だかりが出来ていた場所まで全力で走る

規制線が張られていて近づこうにも近づけなかった。ただ彼の友達の白鷺君が呆然と交差点の一つの場所を眺めていた。

恐る恐る彼を尋ねる
「何があったの?」

彼はただ口を動かすだけだった
「信号無視の車が猛スピードで来て…お、俺を庇って…車に…」

考えたくなかった。あの大破した車が脳裏によぎる。その場に膝から崩れ落ちる。
私の乾いた笑い声が交差点に響く
次第に笑い声はだんだん泣き声に変わって涙が溢れ出す

「美智也くん、美智也くん、」
何度名前を呼んでも届くはずない。なのに何度も呼んてしまう。

その日から色鮮やかだった世界が一瞬にして色が無くなり、真っ白な雪景色に変えてしまった。

私は学校を休んで白鷺君と一緒に彼がいる病院まで行くことにした。

彼は手術室にいるらしい。待合室で彼の無事を祈る事しか出来ない自分がどれだけ無力なのか思い知らされる。

彼の手術が成功したことを聞いて安心して一晩中泣いてしまう。そして彼のベットの側からずっと離れないでずっと寄り添ってた。

彼の手は私の手の温もりでは足りないぐらい冷たくなっている。
こんなはずではなかったのに。

彼が入院して3日ついに彼が目を覚ました。
「うん?ここは…」
「美智也くん?!大丈夫?痛い所とかない?」
彼は無垢な瞳でこちらを見つめている。
「誰?」
その言葉が全ての終わりを告げた。