いつの間にか日は昇っていた。朝日に照らされながら起きる日々が前まで憂鬱だったが彼女に会えるだけで喜びに変わってしまう。
あの日の手の温もりを忘れはしない。
目が覚めるとふと右手を見つめてしまう。まだ彼女の温もりを感じられる。
昨日までが夢のような感覚がする。まだ彼女が目の前にいるように錯覚してしまう。
スマホが振動する。少し気を引き締めてメールを確認する。
「おはよう!今日もお昼ごはん一緒に食べよ!」
彼女からの何気ないメールに心が躍る。
孤独の夜を耐えた末に見える美しい景色が窓の外に広がっている。
「うん。そうだね」
当たり障りのない返事をする。
「おはよう。今日の放課後話がある」
またスマホが音を立てる。確認すると吹雪さんからであった。
僕は頭の中で必死に考えた。なぜ彼女が僕の連絡先を知っているのだろう。教えた記憶がなくて困惑してしまう。
「分かった…場所は校舎裏でいい?」
朝ごはんはいつもより味がしっかりしている気がした。いつもの制服のばすなのに少し肌寒く感じていまう。カレンダーを見ると文化祭まで残り一週間とちょっとぐらいだった。
10月になってからいきなり寒くなった気がする。
「行ってきます」
家を出るとさらに寒い。冷たい風が容赦なく僕の指に吹き付ける。
「おはよう。今日は寒いね」
玄関には椛さんが寒そうに体をさすっている。僕に近づいて手を握ってくる。
「やっぱり…暖かい…」
いつも手を握ってくるのに今日だけ彼女の顔が火照っていた。
「早く行こ。遅刻するよ」
僕は彼女に促して学校に向かう。昼休みは楽しみだけど放課後は少し不安だ。
「今日の放課後吹雪に呼び出されたから、一緒に帰るなら少し待つことになるけどいい?」
彼女は少し顔を強張らせてさらに強く僕の手を握りしめる。
「分かった…」
彼女は不貞腐れた声で返事する。
学校について教室に入ると吹雪さんがこちらを見つめて笑顔で手を振っている。
「おはよう。どうしたの?」
僕が挨拶すると吹雪さんはこちらに近づいて耳元で囁く。
「今日…大事な話があるから…分かってるね…」
なんとも言えない彼女の表情に影が落ちる。
「うん…分かった」
「何話してるの?話すなら3人で話そうよ…」
僕に後ろから抱きついてくる。でもいつもよりどことなく遠慮気味であった。
そっと彼女の手に自分の手を重ねる。
その瞬間彼女がビクッとして慌てて僕から離れる。
「どうしたの?」
「な…なんでもない」
僕は彼女に余裕を見せていたが内心ドキドキしていて、彼女に距離を置かれてしまって嫌われたかもしれない恐怖も感じる。
昼休みになって僕は彼女と一緒にご飯を食べる。
「ねぇ…さっきはごめんなさい。その…美智也くんが嫌いじゃない…ただ…びっくりしただけ…それに…嬉しかった…」
彼女は恥ずかしそうに手で顔を覆う。指の隙間からこちらを見る姿はとても愛おしく鮮明に思えた。嫌われたかも、そんな些細な心配は不要だった。
「ねぇ…吹雪さんの事さ…好きなの?」
「違う…」
すぐに断言出来た。だって目の前の彼女がこれ以上ないぐらい大好きだから。
「そっか…なら良かった…」
彼女は不器用な形で手を絡めてくる。
屋上の花壇にはガーベラが1輪だけたくましく咲いている。その隣は黒いコスモスか枯れて花びらが散っていた。
カラスの鳴き声が響く頃僕は校舎裏の陰に佇んでいる。
吹雪さんは少し息を切らしている。
「ごめんね待たせちゃって」
「大丈夫だよ…それで話って?」
彼女は僕に近づいて壁際に追い込む。
「もう…回りくどい聞き方はしませんよ。彼女の事好きなのでしょう…」
「うん…椛さん大好きだよ…」
彼女は少し残念そうに息を吐く
「そうですか…きっと…彼女も貴方に好意があると思いますよ…でも急かしたらいけませんよ、ゆっくり着実に進展していきましょう…私は貴方達を応援していますから…何かあったら相談に乗りますからね…」
彼女の瞳は少し寂しそうでそれでも暖かい感情が滲み出ている。
「ありがとう…安心したよ…」
「話はこれだけです…二人の幸せを誰よりも願っていますよ…」
吹雪さんは優しい笑みを見せて校舎裏を後にする。
僕は彼女が消えた跡を少し眺めた後に教室で待っている椛さんの所へ向かう。
「ごめん!待った?」
僕の姿を見て彼女の表情はパァと明るくなる
「ううん…大丈夫…来てくれて安心した…」
ギュッと握られた手の中から数しれないほどの幸せ達が天の川を作っていた。
