私は家に帰って真っ先に部屋に入る。
彼から初めて手を握ってくれた。嬉しくて涙が溢れてくる。何か言いたげだった彼の表情を思い出してしまう。彼は嘘をつくとき目を逸らす癖がある。彼の本心が聞きたい。本当はあの時何が言いたかったのか。
気づけは悲しい過去の事など忘れていた。
目を瞑ると過去の出来事が蘇ってくる。
いい思い出も悪い思い出も。
その時だけ思い出のアルバムを見ようと思えた。
中学2年生の夏に私は初めて友達が出来た。
それまで特別仲のいい人はいなかった。でも彼だけは特別だった。彼以外の人にわざわざ話す必要なんてなかったなからだ。
でも彼女はよく私に話しかけて来た。最初は怪訝な表情を見せていた。でも気づけは仲の良い関係になっていた。
素直に笑顔を見せたり他愛もない話もするようになった。
それから楠さんと仲良くなれた。
楠琥珀《くすのき、こはく》彼女の本質が見えてきて凄く明るくて元気な人だった。仲良くなるほどお互いに心の底から笑い合っていた。
私の暗い雰囲気も彼女の笑顔によって全て吹き飛んでしまう。まるで彼のような存在だった
それから海に行ったり夏祭りに行ったりクリスマスパーティーをしたり沢山の思い出を半分に分けることができた。
私は捻くれていて周りの人は私に関わろうとする人はいなかった。けど楠さんはそんな私に優しく接してくれた。
それが凄く嬉しかった。彼以外にも私を大切にしてくれる人がいる事に嬉しかった。
だから私も変わろうとした。
苦手だった勉強にも力をいれた。
そして気づいたら学年でも上位の成績を取れるようになれた。
それでも両親は私に無関心であった。
私の存在なんて無いように振る舞う両親の態度に心が痛む。
雫が落ちて水たまりに波紋を広げる
雨の日は憂鬱だな。そう思っていた。でもこの出来事によって憂鬱な空も愛しく思えた。
ある日放課後になると突然雨が降ってきた。
なんとかなる。そう思い込んで走り出す。
でも冬のあどけなさが残る3月の雨は思ったよりも冷たかった。
私は道中にある公園に雨宿りする事にした。
髪は濡れて寒くて肩が震えている。
カバンからタオルを出して髪の水気をとる。
幸いな事にカバンの中は濡れてなかった。
ため息をついていると後ろから足音がした。
振り向くと見覚えのある人がこちらを見つめていた。それでも確信は出来ずに恐る恐る尋ねた。
「あの…何か用ですか…」
「傘忘れたの?」
彼は自分の持っていた傘を差し出してくる
私はどうしたらいいかわからずに彼の差し出された傘を受け取る
彼は満足そうに笑顔を向けて立ち去っていく
「待って!」
そう口にした瞬間目の前から彼の姿が消えていた
ようやく出会えたのに…
そして今もずっとあの日の事を引きずってしまう
「美智也くん……会いたいな…」
もし彼にまた会えたら…
毎日そう思ってしまう
夜に佇む彼に愛情の花束をプレゼントしてあげたい。私の想いを簡単に伝えれたらいいのに
そんな淡い脆い期待はいつしか絶望に変わってしまった
気づけば私は高校2年生になっていた
それでも私はまだ、彼のことを一番に想っている
ずっと好きで好きでしょうがない。心が疼いてしまって痛くて苦しくてやるせない気持ちが私の首を絞めてくる。呼吸ができなくなる前に早く彼に会いたい。
でもあの日から会えたことがない。あの瞳もおぼろげになって私の記憶から消えてしまいそうで怖かった。
その日から毎日曇った笑顔の無い表情で日々を過ごしてしまう
夏休み初めすぐに楠さんが尋ねてくる
「あらぁ…うちの晶華に悩み事?」
急に私の顔を覗いてくる
「え?どうしたの急に?」
「見たら分かるよ。なに悩んどるん?」
この事を言っていいのか分からない
それでもこの事を話して彼女の反応がどうなるのか私は興味を持つ
「恋煩いみたいな?」
彼女はいままでにないほど驚いた表情で私の瞳を見つめてくる
「え?晶華に好きな人いたんだ!」
そんなに驚くことなのだろうか…私も恋愛ぐらいはするし彼に私の初恋を捧げてしまった
「うん……本当に好きなんだ………あんな風に接してくれた人は初めてだったし……親は私に無関心だったから…」
「名前はしっちょるん?」
「………松井美智也くん。凄くかっこよかった」
「あらまぁ…もう目が恋する乙女みたいになっちょるやん…」
「もう!琥珀ったら…………でも…実際恋しちゃってるし…」
「その人と、どんな関係?」
「それは―――だよ………それにあの日以降会えてないし…」
「いつか会えたらいいね」
「本当に会いたいな…」
そして高校2年生になって夏休みの終わりぐらいに突然両親から告げられる
「転校することになった」
私は理解出来ずにポカンとしてる
そしてようやく理解出来て驚いて答える
「え?!転校?!!どこに?!」
お父さんがとても言いにくそうに答える
「S市にある夏山高校だ…場所は離れてるから」
お母さんは怪訝な表情で私をみつめる
「まぁ…仕方ない事よ」
その事を楠さんに話すと彼女は私の手を握りながら懇願する
「そんな…私は晶華ともっと一緒にいたい!」
初めて彼女の涙を見た。私も泣きそうになる
でも悲しさを我慢して応える
「ごめんね…でも私も貴方ともっと一緒にいたい」
そう言った
けど運命には逆らえず楠さんとは疎遠になってしまった。
また大切な人と離れてしまった。
今は時々連絡し合うぐらいの関係になった
引っ越して夏山高校の近くに住んでいる
夏休みの間に一応学校までのルートを確認するために外に出てついでに散歩していた
自分なりには理解してたはずなのに途中で道に迷ってしまう
「どうしよ…」
軽く辺りを散歩する予定だったので家の鍵ぐらいしか持っていない
私は家に帰ろうとするが何度も何度も同じ場所をループしていてまるで私が彼に想っている感情のようにグルグルと回っている
私は恐怖を感じてしまい涙目になってしまう
泣く恥ずかしさよりこのまま誰にも気づかれずに彷徨ってしまう方が辛かったからだ
「ねぇ…どうしたの?」
その声を聞いて不思議と涙が乾いてしまう。顔を上げると私はこの光景が信じられずに目を見開く
彼が私の目の前に立っている
ずっと会いたかったはずなのにいざ会ってしまうと夢心地がして足が震えてしまう
「泣いてるけど…なにかあった?話聞くよ」
私を照らすその笑顔には純粋な優しさが溢れ出していた
ずっと会いたかった、彼が私の目の前にいる
恥ずかしかったけどなんとか会話を続ける
「その…最近ここに引っ越してきたばかりで…散歩してたら道に迷ってしまって…」
彼は共感しながら頷き独り言のように呟く
「確かに…ここらへんの道複雑だもんね」
ふと彼の格好を見ると夏山高校の制服を着ている
まさかこれから一緒の学校に通えるのかな…
「あの…その…嫌なら断ってもいいのですが…夏山高校まで道案内してもらえませんか…」
「全然いいよ!案内するからついてきて」
軽々と了承してくれた彼に感謝してもしきれない
また彼に惹かれてしまう
10分ぐらい歩くと小道から抜けて大通りに出る目の前には夏山高校がある
「着いたよ。ここが夏山高校」
校門前まで行って彼に頭を下げる
「ありがとうございます!案内してもらえて凄く助かりました!」
「全然気にしないで。帰りは迷子にならないようにね」
彼の言葉に私は思わず笑ってしまう
私の笑顔に彼の口が少し緩んだ表情を私は見逃さなかった
でも私は一つ疑問に思う
「確か…明日が登校日ですよね?なんで学校に来たのですか?」
「用事があってね。それじゃ気をつけて」
彼は小走りで校舎へと消えてゆく
気づけば道に迷っていた恐怖も涙も全て吹き飛んで消えてなくなっていた
「ようやく……また出会えた…」
反射的にそう呟きたくなる
自然と目から涙が一つ二つ頬を伝って地面に滴る
私と同じ夏山高校の生徒であると分かってドキドキして胸の高まりを抑えられない
同じクラスならいいな…
まさか会えるなんて思わなかった。まだほんのり感じる。あの日の温かさを感じる
涙の跡を拭き何事もなかったように家に帰る
「待っててね……美智也くん」
私の独り言は巡り巡ってきっと彼に届くはずだ
そして、緊張していた転校初日
教室に入ると真っ先に目に映ったのは他の誰でもない彼だけだっただった
さらに胸の鼓動が速まった
でも彼は外の景色を見ていて私の事を見てくれてない
この事実が胸に刻まれてモヤモヤする煙が私の心を包み込む
でも同級生で同じクラスメイトになれるなんて夢にも思わなかった
この瞬間から私の恋の火種が炎の渦のように熱く永遠に途切れない大きな感情に変わっていった
そして緊張を隠しながら自己紹介をする
「椛晶華です。よろしくお願いします!」
私の事覚えてるのだろうか…
きっと忘れてるあんな私を覚えてるなんて絶対無い。そして私の席は彼の隣になった
「よろしくね!美智也くん」
「え…なんで知ってるの?」
しまった
彼にとっては初対面かもしれない
いや…初対面ではないのかもしれないけど
いきなり相手に下の名前で呼ばれたら混乱するかもしれない
会えたのが嬉しすぎでうっかりしていた
なんとか頭の中で言い訳を探す
「ほら!教室前の紙に書いてあったから…」
彼は納得したように頷く
良かった変だと思われずに済んだ
私の憧れでもあって私が一目惚れして恋をした人が目の前にいる。どうしても縁を持ちたい
その為に放課後校舎裏に呼び出した
「私と友達になってくれませんか!」
正直断られてもおかしくないと思った
けど彼は私の様子に目が奪われてる感じだったので勢いで連絡先を交換する事が出来た
その日の夜は彼に電話をして寝落ち電話したかったが断られてしまった
少し、しょんぼりして気分転換にベランダに出る
涼しい風が夜を駆け巡る
星空が空を彩っている
私の心には誰にも負けない愛が渦巻いている
空には流れ星が泳いでいる
この景色を彼と共有したい
そう思う素晴らしい景色だった
それから数日後経って彼の友達とも仲良くなれて学校にも馴染めいけた
教室に入ると私は真っ先に彼の所に行く
「美智也!おはよう!」
「おはよう……今日も元気だね」
彼と話す時
彼が私を見つめる時
彼の側にいられる時
私と彼だけの景色が広がっていく。色とりどりの花達が彩っている
春も夏も秋も冬も枯れることない気持ちが私の全てを彩っていく
「そうかな?君が側にいるからだよ」
美智也くは外に目を向ける
「教室から見える景色綺麗だよね…特にあの海」
私は彼の事をずっと瞳に映していたいけど彼が美しいと言う景色が気になって彼から目を逸らす
窓から見える景色はいつも見える青空に
「こんな日は日向ぼっこしたいかも」
そんな美智也くんの言葉に私は思わずフッと笑ってしまう
「確かに心地いいかもね」
一週間経過して彼とは毎朝毎晩取っている
最近は寝落ち電話もしてくれるようになった
最近は純粋な笑顔も増えてきた気もする
だんだんと彼に近づくことが可能になってる
私の一番星は彼しかいない
「もしもし……今日はどうだった?」
彼の声一つ一つが愛おしい
「うん…今日も楽しかったよ…美智也くんのおかげだよ」
「そんな…大袈裟だよ…」
「そんな事ないよ、美智也くんがいなかったら学校にも馴染めなかったかもしれないし。友達だってあんな簡単に出来なかったよ」
少しの沈黙の後彼が口を開く
「そういえばさ、僕の友達が最近幼馴染と付き合ったらしい」
「え?!そうなんだ!今頃幸せだろうなぁ…」
もし美智也くんと幼馴染だったら今頃付き合えてたのかな…
「いいなぁ……もし…美智也くんが幼馴染だったらなぁ…」
そんな言葉に彼はクスッと笑う
こんな風に笑う事もあるんだ…
彼の魅力がまた一つ増えてどんどん彼を知りたいと思う
「そうだね…その世界線もありだね」
私は小さなあくびをする
「うん?眠い?」
彼にはお見通しだったようだ
「うん…少しだけ眠い…」
「もう寝なよ…おやすみ…いい夢見てね」
「うん…おやすみ…美智也くんもいい夢見てね」
私は電話を切る
私の部屋は一気に暗い雰囲気になって時計の進む音しか聞こえなくなった
寂しさと切なさが心で膨らんでゆく
夜の灰が辺りを締め付けて私の心に漂う
この一週間で彼と凄く仲良くなれた
この気持ちは日に日に大きくなってゆく
彼の事が誰よりも好きだ
甘えたいような頼られたいような
矛盾する気持ちのせいで心がズキズキするような痛みに襲われる
ずっと前から初恋を彼に奪われた時からずっと彼を愛してる
でも好きとは言えない。言った所で何も変わるはずない
それに言わないほうがこの関係が崩れなく済む
こんなにも胸が抉られるような苦しみや痛みどうしようもない感情を恋だけで片付けたくない
一つのアルバムが目に映るとまた視界がぼやけてしまう
もし彼がずっとあの頃のように健気でいてくれたなら
もう全て失っても構わないからあの頃の彼に会わせて欲しい
流れ星が私の頬を伝い床に煌めく
