僕は松井美智也《まつい、みちや》
高校2年生だ
長い夏休みがようやく明けたのにまだ暑さは残っており汗で肌がベタつく
夏なんてなくなってほしい
記憶だけでも曖昧になってしまったらいいのに
僕は一際目立つような容姿も才能もない
ただのS市の高校に通うごく普通の高校生だ
「おっはよ!久しぶり!」
「……なんだ白鷺かびっくりさせんなよ…」
笑いながら白鷺初夏《しらさぎ、はつか》僕の肩に手を乗せる
「久しぶりに会えて嬉しい!」
「たったの一ヶ月だろ」
「一ヶ月は長いよ!凄く寂しかったんだよ!」
フグみたいに頬をプクっと膨らませる姿が凄く可愛らしい
「そういえば、彼女出来たの?」
僕はキョトンとする。そんな様子を見て彼は少し期待外れな表情をする
「え?この前校門前で誰かと話してなかった?」
あの出来事を見られてたのか
「あれは……ただ迷子になってる人を案内した…それだけだから…」
「人助けって事か……悪いな変に勘違いして」
「全然大丈夫。気にしてないよ」
彼は僕の親友、白鷺初夏
幼馴染で仲もいい
いつも元気で暗い話雰囲気を明るくしてくれる
夏休みの間白鷺は部活の合宿で忙しかったらしい
「夏休みの間みっちゃんは寂しくなかったの?」
「少しだけ…」
気恥ずかしくてこれしか言えない
こんな事をあまり言うことがないからだ
「そっか…少しだけか…」
白鷺は少し残念そうに呟く
僕は申し訳なくなって恥ずかしいけど僕の本心を伝える
「でも君の事は凄く大切だと思ってるよ!」
「…………ならいっか!」
いつもの笑顔に戻って安心する
「あ!そういえば今日転校生が来るらしいよ!」
「え…そうなの?」
噂は聞いていたが本当だったのが驚きだった
朝のホームルームでいつも以上にクラスメイトたちはざわついている
そりゃ…転校生が来るから当たり前か…
僕は特に興味ないので外の景色を眺めている
夏休み前まで無かった席が隣にあるのでなんとなく転校生が隣になる予感がして気が気じゃない
夏の陽だまりの陰に佇む僕の気持ちに気づく人なんているわけない
今はそう思っていた
その時先生と見知らぬ少女が教室に入ってくる
黒髪ロングのいかにも清楚な雰囲気を醸し出している
身長は僕より低いぐらいで155センチぐらいだと思う…多分…
何より一目を惹くのは美しい顔立ちだ
みんなは彼女の容姿に目を奪われている
目が合うと彼女は何か察したようにこちらを見つめてる
僕は再び外に目を向ける
少しだけ顔が熱くなったような気がした
「みんな静かに!今日は転校生の紹介をする」
みんながしんと静まると転校生が自己紹介する
「椛晶華です。みなさんこれからよろしくお願いします」
彼女は緊張してるのか笑顔がだいぶ崩れている
「席は一番後ろの席だ」
案の定、僕の隣の席だった
彼女の優雅な立ち振る舞いは一つの絵画のように悠々としている
席に着くと僕を見つめて笑顔に挨拶する
「よろしくね!確か美智也くんだよね」
「え?なんで知ってるの?」
彼女は僕の名前を知っていた
しかも名前の方を
「あ!ごめんなさい!いきなり………えっと………教室の前の紙に書いてあったから……」
「あぁ…なら知ってるか…」
まぁ…美智也って漢字読むの難しくないもんな
「私達一回ね………会ったことあるんだよ」
そんな言葉に驚愕する。どこでいつ会ったのだろうか…
「え?いつ?」
声は自然と震え混乱する心を抑えようと必死だ
「中学三年の夏の時だよ…」
そんな事を言われるとさらに心が混乱していまう
「詳しいことは今日の放課後話すから…校舎裏に来てほしいな…」
「うん…分かった」
彼女の約束を果たすために校舎裏で待っている
ずっと考えても思い出せない
彼女は勘違いしてるのかもしれない
そう考えると彼女に申し訳なくなる
数分待つと彼女は走ってきたのか息を切らしてる
「ごめんね…自分から呼んで待たせちゃって」
彼女の謝罪にこちらも早く来てしまって申し訳なく思う
「いいよ…気にしてないから。それに大変だったでしょ…」
きっと男子に沢山アプローチされてたのだろう
「大丈夫だよ!……それで話しが……その……」
少しの戸惑いのあと彼女が言葉を切り出す
「貴方にずっとずっとずっと…会いたかったの!」
「え…………え?」
思わず聞き返してしまう
唐突な出来事に全てがついていけない
「うん!ずっと貴方の事を想ってたの!朝も昼も夜もずっと」
何かの勘違いではないかそう思ってしまう
だってこんな僕には勿体ない程良い人に好かれる要素が僕にないから。
「勘違いとかじゃ?僕に才能とか容姿も普通だし…取り柄も無いよ…」
「絶対違う!!貴方のその瞳が私を変えて照らしてくれた!その瞳は絶対忘れてないの!貴方を見た時から胸のドキドキが収まらなかったの!だからきっと勘違いとかありえない!あの日の事は忘れてないから」
「あの日の事?」
何かあったのだろうか……このとこを話したかったのか…
「雨の中雨宿りしてた私に傘を貸してくれた…」
全く心当たりがない
「そんな事か……」
「そんな事じゃないよ!あの時の出来事のおかげで今の私があるから……変わる理由を君が作ってくれた。このキーホルダーも凄く大切にしてた…ずっとずっと錆びつかないように」
僕の記憶は曖昧に思い出される。今日見た夢もあの日の出来事に似てた気がする
「あ……中学三年の夏ぐらいだっけ?」
適当に誤魔化す
「うん!そうだよ。よかった…覚えてくれてた…」
風に揺られて僕の心も揺らぐ
「私は…美智也くんと友達になりたい!駄目かな……」
潤んだ瞳で見つめてくる彼女に僕は思わず目を奪われてしまう
そんな僕の表情を感じ取ったのか照れながら距離を詰めてくる
「その様子だといいって事ですよね!」
目をキラキラさせながらさらに距離を詰めてくる
「まぁ…うん嫌ではないし…」
それに知りたいし。彼女の全て気になってしまう
妙に僕の心が彼女の存在を許している。いつもならここで一線を引くはずなのに
「なら決定ね!連絡先交換しよっか!」
僕は彼女にスマホを差し出す。友達が増える喜びとその一方でなにか問題が起きないか不安になってしまう
「ありがとう!これからよろしくね!」
彼女の満面笑顔に僕は心を奪われる
僕の心の中はいつも空虚で何もない砂漠だったのに水が注がれ緑が芽生えて鳥のさえずりが聞こえるそんな絶景が出来上がってしまった
「こちらこそよろしくお願いします…」
その日は彼女と一緒に帰ることになった
昼下がりの帰り道はいつもと違うので心が落ち着かずソワソワしてしまう
「あの…流石に引っ付きすぎでは?周りの目線とかもあるし…」
そんな僕の不安にお構いなしに肩を寄せてくる
「恥ずかしがり屋さんなんだね……可愛い……もっと近づこうかなぁ」
「辞めてくれ。心臓が持たない…」
その時ハッとする
なぜ心臓がドキドキしてるのだろう
こんなに異性と近づいて会話することがなかったからだろうか
それでも過剰な反応だと思う
それにしても凄くモヤモヤする
僕はそんな事を必死に考えている中彼女は僕の腕に目を細めて猫のようにスリスリしてる
「いい匂い…」
さらにドキドキしてしまう
変に意識してしまってなにを話せばいいか分からなくなってしまう
家に着くと、どっと疲労が押し寄せる
自分の部屋に入りそのままベットに倒れ込む
「これが…恋?」
いや違う…こんな簡単に、恋をするのかな…
どんな小説やアニメを見ても必ず好きになる過程があるはずなのに
いきなり恋なんて…あるわけない
そう自分に言い聞かせる
「一目惚れ?」
自分に問うように呟く
初めて胸がはち切れそうなぐらいドキドキした
どうしたらいい…彼女ともし仲良くしたら今後どんな関係になっていつか幸せの感情に気づく事が僕でも出来るのかな…
その後風呂に入って一息つく
「不思議だな……」
あんな出来事を彼女はまだ覚えていたなんて
些細な出来事だったのに…
でも案外可愛らしい一面も彼女にはある
道に迷ったり。人目を気にせず泣いたり
どことなく彼女を知りたいと思う
「愛……好き………それとも………友情…」
今は友情でいいやって思ってしまう
僕は恋なんてするわけない
「そういえば…どこかで会ったような…」
曖昧な記憶を辿ってみるがなにも思い出せない
でも気のせいだと思えないほど胸がモヤモヤする
ため息をつきながら体をタオルで拭く
ゆっくりして寝ようと思ってもモヤモヤがそれを邪魔する
こんなにも美しい世界が一つの小さな感情と希望によって見えなくなる
いつもより部屋が暗く感じる
カーテン隙間から月明かりが差し込み部屋を照らしていた
ベランダに出ると儚く今にも散って消えてしまいそうな星達が空を世界を照らしていた
夜風がそっと吹くように消えてしまう幸せ
手を伸ばしても絶対に届かない星空には僕の一等星が顔を出していた
