拳よりも、強いもの〜俺たちはいつも『曇天』の中に光を掴んだ

ヤンチャだった頃の話

中学時代の悠矢は、
「強い」という言葉で片づけられるのが嫌いだった。

強い、というより、
止まれなかった。

何かを言われたら前に出る。
睨まれたら、睨み返す。
考える前に体が動く。

それで何度も問題になったし、
何度も呼び出された。

本人は、
それを武勇伝だとは思っていなかった。

ただ、
引く理由を知らなかっただけだ。



愁也は、
その頃から静かなやつだった。

同じ中学にいたが、
クラスも違えば、
交わる理由もなかった

目立たない。
騒がない。。
でも、
なぜか視線だけは合う。

廊下の端で、
悠矢が誰かと揉めている時。

愁也は、
遠くからそれを見ていた。

止めに来るわけでもない。
煽るわけでもない。

ただ、
逃げ道を見ている目だった。



二人が初めて言葉を交わしたのは、
放課後の校舎裏だった。

悠矢は、
一人で三人相手にしていた。

勝ち負けは、どうでもよかった。
ただ、引かなかった。

その時、
後ろから低い声がした。

「今、行ったら面倒になる」

悠矢が振り返ると、
そこに愁也が立っていた。

「誰だよ」

「関係ない」

それだけ言って、
愁也は顎で示す。

「でも、
 今なら帰れる」



不思議な言い方だった。

助けるでもなく、
命令するでもなく、
選択肢を置いただけ。

悠矢は、
一瞬だけ迷った。

その隙を見て、
相手が引いた。

喧嘩は、
それで終わった。



「……なんで言った」

帰り道、
悠矢が聞く。

「別に」

愁也は、
ポケットに手を突っ込んだまま答える。

「殴るなら、
 もっといい場所がある」

悠矢は、
思わず笑った。

「変なやつ」

「よく言われる」



その日から、
二人は少しずつ言葉を交わすようになった。

一緒に何かをするわけじゃない。
つるむほど近くもない。

でも、
喧嘩が起きそうな場所に、
なぜか愁也はいた。

そして、
悠矢が前に出ると、
後ろに立っていた。



まだ、
相棒という言葉はなかった。

我捨楽という名前も、
当然なかった。

ただ、
悠矢はその頃から薄々気づいていた。

(こいつが後ろにいると、
 変に考えなくていい)

それは、
楽になる感覚だった。



中学時代。
ヤンチャだった頃の話。

この頃の二人は、
まだ何も捨てていない。

だからこそ、
まだ本当の意味では、
楽しめていなかった。