危険すぎる恋に、落ちてしまいました。番外編2

カレーの香りって、どうしてこう……人の心をほどいてしまうんだろう。

湯気がふわりと立ち上がって、スパイスのあたたかさが部屋を満たしていく。

リビングの明かりはやわらかく、窓の外は夜の深い青。

そしてその中央で――

「美味しい〜〜!!」

悠真が、復活していた。
さっきまでソファで“人生のエンディング”みたいな顔をしていたのに、今は違う。

両手でスプーンを握りしめ、目をきらっきらさせて叫ぶ。

「美羽ちゃんの料理、世界で一番美味しいぃぃ!!」

「うわぁぁぁ生き返るぅぅ!これが愛妻カレーってやつぅぅぅ!!??」

「ちょっと悠真くん、声でかいよ?!」

美羽は苦笑いしながら、慌てて指を口元に当てた。

「ご近所さんに聞こえちゃうよ、悠真くん」

「聞かせたい!!」

悠真は本気の顔で言い切った。

「美羽ちゃんがどれだけ天才か!!世界中に!!」

その横で、椿がスプーンを置き、盛大に舌打ちした。

「……いちいちうるせぇよ」

「なんだよ椿ぃぃぃい!!」

悠真の復活は、胃袋だけではなく、闘争本能まで蘇らせたらしい。

悠真は立ち上がり、椿の背後に回り込み――

「こんな、こんな!!美味しい美羽ちゃんの愛妻料理が!!」

「毎日食べられるんだぞぉぉ!?羨ましいじゃないかぁぁあ!!このこのこのぉぉお!!」

「お、おい!やめろっ、悠真!!」

悠真は椿を羽交い締めにした。
椿は珍しく焦って、腕をばたつかせる。
ただでさえ体格差があるのに、悠真は警察官になってから妙に体が仕上がっている。

「ちょ、椿くん!落ち着いて!悠真くんも!ご飯こぼすって!!」

美羽は慌てて止めに入ろうとするが、
その光景があまりにもコントみたいで――思わず、あははっと笑ってしまった。


「……あははははっ」

その笑い声に、悠真が「ん?」と振り返る。

「美羽ちゃん笑った!?え、何今の可愛い!!」

「もう!天使じゃん!!」

「天使じゃない!!座りなさい!!」

美羽がぴしゃりと言うと、悠真は一瞬で正座に戻った。
犬より素直だ。

秋人がその様子を見て、口元に手を当ててくすりと笑う。

「椿、ほんとわかってないよね」

「こういうのを、幸せって言うんだよ?」

椿はじとっと秋人を見る。

「……お前、なんで上からなんだよ」

「だって椿、すぐ拗ねるから~」

「拗ねてねぇ」

「拗ねてる」

二人の会話は相変わらず、静かな火花が散っていた。

そこへ莉子がにやにやしながら顔を寄せる。

「ねえねえ美羽!」

「悠真くんにお弁当、毎日作ってあげたら??」

「は?」

椿の反応が、速すぎた。
椿は椅子を引く勢いで立ち上がり、眉間にしわを寄せる。

「そんなことさせるわけねぇだろ!」

「なんで悠真の弁当を美羽が作る話になってんだよ!!」

「え、怖っ~い!!」

莉子は、きゃっきゃとはしゃいでいる。
そして遼が笑いをこらえながら宥める。

「まぁまぁ、椿くん。そんだけ美羽ちゃんのご飯がおいしいんだよ」

「当たり前だ」

椿はふん、と胸を張る。
そして言い放つ。

「俺の奥さんなんだからな!!俺のもんだ!!」

「……っ!!?」

美羽の顔が、これでもかというくらい真っ赤になった。

「ちょっと!椿くん!?みんなの前で何言って――!!」

「きゃーー!!」

莉子が両手で口を押さえ、目を輝かせる。

「ラブラブじゃーん!!」

遼も肩を揺らして笑っていた。

「いや、もう夫婦だからね?」
「今さら照れるの可愛いね、美羽ちゃん」

「遼くんまで煽らないでぇぇ!!」