危険すぎる恋に、落ちてしまいました。番外編2

翌朝。

朝の光が、カーテンの隙間からすっと差し込んでいた。
冬の終わりと春の手前、その境目みたいな淡い光。
白い天井に、レースの影がゆらゆら揺れている。
時計のカチカチと時を刻む音。
それに混ざってキッチンの方から
コーヒーの香りが、部屋いっぱいに漂って――

(……うそ……)

美羽は布団の中で丸まったまま、目を見開いていた。

(朝……来た……?)
(私……生きてるよね……?)

昨夜の記憶が、ふわっと蘇る。

椿の声。抱き上げられた感覚。ドアが閉まる音。

それから――それから――

「うぁあああああああ!!」

美羽は布団の中で、声にならない悲鳴を上げた。
顔が熱い。耳まで熱い。首の後ろまで熱い。
まるで全身が、爆発寸前のケトルだ。

(ムリムリムリムリ!!)

(私、今日……椿くんにどんな顔して会えばいいの!?)

布団を頭まで引き上げる。
そして“存在を消す”という、人生で最も無意味な技を繰り出した、そのとき――

(……あれ?)

美羽は、ぴたりと固まった。
音がしない。

コーヒーの香りだけが、置き去りのまま漂っている。

ゆっくり、布団から顔を出す。
――リビングには、誰もいなかった。

「……え?」

美羽は重たい上半身を起こし、部屋を見回す。
椿の姿はない。
カップもない。
あるのは洗われたマグと、きっちり畳まれたタオルと、完璧すぎる静けさ。
そして、テーブルの上に置かれていたのは――

【美羽へ】

きれいな字で書かれたメモ。
美羽は恐る恐る手に取る。

朝飯は冷蔵庫。
仕事行ってくる。
今日はゆっくりしてろ。

――椿

「……」

美羽の頭が、すこし遅れて理解した。

「……そっか!!」
顔が一気に緩む。

「椿くん……もう仕事行ったんだ!!」

それを口にした瞬間、胸の奥がふわっと軽くなる。
よかった。
よかった……のに。

美羽はひとり顔を真っ赤にした。

(私、昨日の夜……)


"……っ美羽…"

昨晩の椿を思い出そうとしただけで、脳内が爆発しそうになる。

「きゃぁぁぁぁ!!」

美羽は枕に顔を押し付けた。
そしてしばらくじたばたした。

ばたばたばた。

新妻の朝は、戦場だった。