雨が降っていた。
細く、音も立てず、糸のように街を濡らす雨。
透は傘を差さずに歩いていた。
濡れても構わない。
何かを感じなくなる方が、ずっと怖い。
頬が冷たく感じるたび、現実に縫われている気がした。
校門の前で、芽吹が待っていた。
もちろん公安の制服ではない。
だが、立ち姿がイインチョーとはどこか違っていた。
「今日は直帰しよっか」
「監督の命令?」
「……わたしの判断だよー」
芽吹は、言葉を選んだ。
それだけで、答えは十分だった。
暁ヶ浜・第三区画。
再開発予定地。
人の流れが途切れた、縫い忘れられた場所。
警戒線の奥で、空気が歪んでいる。
「あれ、虚影?」
「いや、発生前兆だね」
芽吹は端末を操作しながら言う。
「まだ“事象”じゃない。
だから、公安は、経過観察してる」
透は、その言葉を噛み砕いた。
「……放置?」
「正確には、
まだっていう選択ね」
その瞬間だった。
奥の路地から、子どもの泣き声がした。
高くて、細くて、まだ小学生低学年独特の声。
透の視界が、反転する。
路地の壁。
アスファルト。
空気の層。
――縫い目だらけだ。
未成熟な虚影。
だが、近い。
「イインチョー、あれ……」
「まって、確認してる」
芽吹は、既に把握していた。
「あれは…
細く、音も立てず、糸のように街を濡らす雨。
透は傘を差さずに歩いていた。
濡れても構わない。
何かを感じなくなる方が、ずっと怖い。
頬が冷たく感じるたび、現実に縫われている気がした。
校門の前で、芽吹が待っていた。
もちろん公安の制服ではない。
だが、立ち姿がイインチョーとはどこか違っていた。
「今日は直帰しよっか」
「監督の命令?」
「……わたしの判断だよー」
芽吹は、言葉を選んだ。
それだけで、答えは十分だった。
暁ヶ浜・第三区画。
再開発予定地。
人の流れが途切れた、縫い忘れられた場所。
警戒線の奥で、空気が歪んでいる。
「あれ、虚影?」
「いや、発生前兆だね」
芽吹は端末を操作しながら言う。
「まだ“事象”じゃない。
だから、公安は、経過観察してる」
透は、その言葉を噛み砕いた。
「……放置?」
「正確には、
まだっていう選択ね」
その瞬間だった。
奥の路地から、子どもの泣き声がした。
高くて、細くて、まだ小学生低学年独特の声。
透の視界が、反転する。
路地の壁。
アスファルト。
空気の層。
――縫い目だらけだ。
未成熟な虚影。
だが、近い。
「イインチョー、あれ……」
「まって、確認してる」
芽吹は、既に把握していた。
「あれは…



