時を縫う英雄譚

朝日が海に反射する。

港湾地区の崩壊は、公安の手によって一夜で収まっていた。

まるで何も起きなかったかのように、綺麗になった街並みが、朝日によって輝いて見えた。

だけど、透の瞳には、それが苦しく見える。

ただ一つだけ違うのは、透の手の中にある赤い針だった。

フォールの針。

透はそれをじっと見つめていた。
握るたびに、微かにフォールの温もりが残っていた。


「……兄さん」


声に出してみる。
めずらしいな、なんて答えてくれる気がして。
だけど、当然返事はなかった。

それに応えるように、冷たい潮風だけが吹いていった。