時を縫う英雄譚

医務室。 

カチ
カチ
カチカチカチ

時計が狂ったように進む。
芽吹は椅子に座り、透の手を握っていた。


「……起きて」


時計の音が速くなる。

カチカチカチカチカチ

透の指が動いた。
 

「…あぁ…」


ゆっくりと目を開く。

「芽吹…」


周りを見る。
そこには機械があっただけで、フォールの姿はない。
 

「フォールは?」
 

芽吹は答えられなかった。
透が起き上がる。


「…兄さんはどこだ」


沈黙。
芽吹の瞳が揺れる。


「……戻ってない」

芽吹の、大粒の涙がこぼれ落ちる。
透の顔から血の気が引く。

おぼつかない足で駆け、屋上は出る。

そのとき。港の空で、最後の光が弾けた。
その光が消えるとともに、時空の歪みはなくなった。

透は全てを理解した。
理解したくなくない。分かりたくない。

透は頭を抱えて、膝から崩れ落ちる。

声にならない叫びが、空を突き破る。

冷たいコンクリートに、小さなシミができた。