道が悪くガタガタ揺れるバスの中。
友木だけに聞こえる声で呟く。
「お前さ…。なんで、アイツを同じ班にしたんだよ」
今更、聞いても遅いことはわかっている。
八つ当たりに近い。
「逆に、翼はこのままで良いの?」
微妙に挑発するような口調だった。
「何が言いたいんだよ」
友木は横目で、周囲に視線を向ける。
通路を挟んで斜め後ろ。
視線の先には、羽村の姿があった。
羽村は固い表情でバスの進行方向を見つめていた。
胸元まで伸ばした髪はいつもまっすぐ整えられている。
「この先、羽村さんのこと良いって思う男子いっぱいいると思うけどなー」
「だから、何が言いたいんだよ」
「羽村さんって、不思議じゃない?煩くはないけど、話せば楽しいし。可愛いけど、誰かに見てほしいってタイプでもなさそうだし」
「つまり?」
答えを急いでいた。
バスを降車したら、うやむやになりそうで。
「翼は、羽村さんにジロジロ見られていたのが気に喰わなかったんだよね?」
「というか、なんで見てくんのかなって謎だった」
それに…。
羽村の視線は、似てたから。
また、勝手に脳みそが記憶を呼び起こす。
自分だけが、だだっ広い氷の上に立っていて、会場中の注目が注がれる。
コーチが見守る視線。
観客の祈るような視線。
ジャッジの見定めようとする視線。
羽村に見られる度、リンクにいるときだけ感じられていた緊張感や、期待感、高揚感を思い出してしまっていた。
「翼、なんで見られてたかわかんないの?」
友木は目を丸くして尋ねてくる。
「さすがに、それは恋愛偏差値が低すぎるだろ~」
「は?」
友木は「うーん」と額に手を当てた。
そして、誰に言うでもなく
「羽村さん。ごめん」
と勝手に懺悔する。
俺は、こいつの心の機微がわからない。
「本来は、外野が勝手に推測したことをバラすのってどうかと思うんだけど…」
「前置きが長すぎる。早く言えよ」
バスの進行方向には、宿泊施設らしき屋根が見えていた。
「翼とは、友達だし。今回は言うわ」
「うん…。わかったから早く言え」
友木は、耳もとまで顔を寄せてくる。
声をひそめて、ほぼ空気のような声だった。
「多分、一目惚れってやつだと思う…」
頭がフリーズして、しばらく言葉が出なかった。
白とベージュで塗られている、宿泊施設が見えたとき。
ようやく、「なに言ってんだよ」とつっぱねた。
くだらなすぎて、瞬時に返答が用意できなかった。
友木のことは、もうちょっと大人だと思っていた。
だが、案外、年相応らしい。
恋愛だのなんだの、随分と高校生らしい青春馬鹿の考えだ。
真面目に問いただしたことが、馬鹿らしくなってきた…。
