跳べない君と、はねない私

ゆっくり、ドアをあけると、教室に顔だけ出して覗きこむ。

「……えっ!」

条件反射で声が漏れてしまった。



翼くんがいる。

完全に、思いがけないタイミングで、油断していた。

自席でスマホを触っていた翼くんが、こちらへ振り向く。

そして、険しい表情を向けてくる。


やっぱり、めちゃくちゃ嫌われてるじゃん。


逃げ出したいけど、目が合った手前、無言で立ち去るのはないよな……。

「友木くんってもう帰った?」

「いや、トイレ行ってるから、待ってるけど」

よく見ると、友木くんの机の上には、まだリュックが残されている。



…ていうか。

会話してる! 会話してる!

翼くんと会話してる!


この、興奮が顔に出てしまわないように、ぎゅっと口を結んだ。

翼くんがスマホを机に置く。

無意識にスマホに目がいってしまう。


iPhone15Proっぽい。
多分そうだ!iPhone15Proだ!


こんなときなのに、推しが使っている機種を知れたことに、狂喜乱舞してしまう。


今はそんなこと考えてる場合じゃない…。

私の内心とは裏腹に、教室内には気まずい沈黙が流れている。


しかも、翼くんは何故か私から目をそらさない。

とりあえず、これ以上ここにいたらボロが出る。

「じゃあ、明日にしよーかな~」

我ながら、わざとらしい。
明らかに演技がかっている。

「なんで?すぐ戻ってくるでしょ」

ですよねー。

そうなりますよね…。

「じゃあ、待ってようかな~」

仕方なく、教室に入る。

時間を稼ぐべく、わざとゆっくり動く。



友木くん、早く帰ってきて…。

こんな短時間で、何か起こりはしないと思うけど!



ーガタッ

願いもむなしく、急に、翼くんが立ち上がる。

「聞きたいことあるんだけど」

そう切り出した、翼くんの表情を伺う。

相変わらず、眉間にシワが寄っている。

これは…。

課題の範囲を聞いてくるような雰囲気…ではないよな。

「何…かな?」

必死に笑顔をつくるけど、口元がこわばってひきつってるのがわかった。



「なんで、いつも見てくんの?」

ードンッ

スクールバッグの取っ手が手から滑り落ちる。

もろに、動揺が表面化した。

「え、見てるかなぁ」

意味がないとは思いつつも、とぼけて首をひねる。

翼くんの目力から逃れるようにスクールバッグを拾い上げる。

「見てくるじゃん。体育のときもすげぇ見られたけど」

ジリジリと翼くんに詰め寄られ、後退りする。
が、すぐに壁に阻まれてしまう。

逃げれない…。

「何?その目…。なんで、いつも見てくるの?」

近すぎる距離感に、息がつまる。

翼くんの真剣な眼差しを向けられて、目がそらせない。

全部なかったことにしたい。

入学式から、リセットしたい。

そんなこと、いくら思ってもしょうがないのに。

頭に浮かぶのは、今どうするかじゃなくて後悔ばかりだった。