疎まれ令嬢の一途な政略婚


「……アイツから聞いた話と随分違うな」

 私の前で正座したまま真面目に考え込んでいる様子の男性は、おそらくイケメンと呼ばれるであろう容姿をしていた。
 サラサラとした黒髪は、彼が不思議そうな表情で顔を傾けるたびに柔らかく揺れる。爽やかなフレグランスの香りも、清潔感のあるこの男性に良く似合っていると思った。
 顔ももの凄く整っているので、女性からのアプローチも少なく無いはず。
 そして座っていても分かる姿勢の良さ、きっと背もかなり高いのでしょう。

 ……今のこの状況で理解出来ないのは、この人の口から出た「聞いていた話」と「随分違う」という言葉の意味なだけで。

 今日の見合いの席でしきりに首を傾げる「未来の旦那様」の様子に、私はただ困惑して何を話せばいいのか分からない。
 彼がさっき言った【アイツ】というのはたぶん私の歳の離れた兄のことで、今回の結婚話を私に勧めてきた張本人でもある。勧めたといえば聞こえはいいが、実際には私に拒否権など有りはしなかったのだけれど。
 兄の頭の中だけでなく現実でもきっと、数ヶ月後に私はこの男性の元にこの身一つで嫁いでいるに違いない。

「君を形だけの妻にしてしまう事になるが、俺との結婚に合意してもらえるだろうか?」

 だって……ほらね? こうやって私の未来をきめてしまうのはいつだって、私じゃない他の誰かなのだもの。