冷徹御曹司による甘やかな執愛契約婚

「……あの、よければこれ使ってください」

 店の外に出るからと自分のバッグを持って出てきたので、そこから使っていないタオルを取り出して男性へと差し出す。こうしている間にもコーヒーがポタポタと男性のスーツに落ちて、どんどんシミになっていくので内心ハラハラしてしまっていた。
 貧乏性だと言われればその通りだけど、母と二人あまり金銭的に恵まれなかったのでそう考えてしまうのは仕方ない。

「……どうも」

 差し出したタオルを手に取って髪を拭い始めたのをみてホッとしたが、今度は別の意味でギョッとしてしまう。髪をかき上げた時に見えたその男性の顔が、あまりにも綺麗だったから。
 中性的な美形と言えば良いのか、まるで物語に出てくる王子様のようだと思えるほどで。つい見惚れそうになって慌てて視線を外すと、少し離れたところから声が聞こえて。

「――ゆう! お前、どうしたんだよ!? 彼女と話をしてくるって、いつもでも戻ってこないと思ったら」

 この男性の知り合いだろう、珈琲まみれの彼をみてかなり慌てているようだけど。それならば私がいつまでもここにいる必要はないだろうと考えて、もう一度その男性に声をかける。

「……あ、じゃあ私はこれで。そのタオルはそのまま捨ててもらって構わないので」
「お姉さん、コイツが迷惑かけてすみませんでした。ほら、俺たちも早く行くぞ!」
「……ああ」

 後から来た男性に急かされているが、彼は何故かまだ私をじっと見ているようで。それがちょっと気になったけれど、母たちをあまり待たせるのも悪いと思ってそのまま店内へと戻った。

「ずいぶん遅かったけれど、どうかしたの?」
「……ええと、そんな事より二人の馴れ初めなんかも聞きたいな? 仲通(なかどおり)さんから見たお母さんの初対面の印象とか、どうだったのかなあって?」

 痴話喧嘩に遭遇して、ついお節介な事をしちゃってました……とは言えず。また惚気られると分かっていながら、話題を二人の馴れ初めに戻していく。

碧羽(あおば)はまた、そうやって――」

 そうして、先ほどの出来事なんてすっかりさっぱり忘れてしまっていたのだった。