冷徹御曹司による甘やかな執愛契約婚

「――ねえ、どういう事なの!? 説明もなしに――なんて、それで納得しろとでも?」

 店の外に出てすぐ、大きな女性の声が聞こえて立ち止まる。少し離れた場所に向かい合っている男女が見えるので、その二人が言い争っているのだと分かった。
 カップルの痴話喧嘩だろうか? 人様の恋愛に首を突っ込む気は無いので、そのまま横を通り過ぎてしまおうと思っていたのだけれど。

「……それに何の問題が?」

 どうやら感情的になっているのは女性だけのようで、男性は冷静に返していたがそれは逆効果なのではないか? そのまま喧嘩カップルを通り過ぎつつ、そんな事を考えていたら……

「――ふっ、ふざけてるの!? 私を馬鹿にするのもいい加減にして!」

【パアン!!】

 と気持ち良いほどの音を立て、女性が男に見事な平手打ちをお見舞いしていて。二人の事情は分からないが、あんな言い方をすれば相手が激昂するのも仕方ない気がする。
 とはいえ、私は赤の他人だから見知らぬ顔をして過ぎ去ろうとしたのだけど。 

「もう二度と連絡してこないで! アンタなんてパパに言いつけてやるんだから!」

 まさかトドメに女性が持っていたカップのコーヒーをぶっかけるなんて、これは流石に予想外だった。

「「「……」」」

 その現場に居合わせた自分とその辺りにいた通行人の間で、それはもう何とも言えない空気が流れる。
 しかも一番騒いでいた女性はそのままタクシーを呼び止め去っていってしまい、コーヒーをかけられた男性は濡れたままそこに立ち尽くしていて。
 だけどその高そうなスーツにコーヒーの染みがついていくのが見過ごせなくて、つい声をかけてしまった。