アオハル・ミュージック 〜キミに届け、ココロの音〜



――友達なんていらない。


あの時から、ずっとそう思ってきた。


小学5年生のある出来事から、わたしはずっと友達をつくっていない。


涼森(すずもり) 風歌(ふうか)。中学2年生の14歳。

 
両親は共働きで夜遅くまで家に帰ってこないけれど、お小遣いは多めにもらっているからお金には困らない。


それどころか、好きなものは何でも買えるくらい。


わたしが好きなものを勝手に買っても、怒ったりしない。


何も言わない。


勉強や家事さえきちんとやればいい、ただそれだけ。


だからみんなの間で流行っている物はすぐに買える。


そんなわたしに周りの子達は「いいなぁ、風歌ちゃんは。欲しいもの、何でも買ってもらえて」なんて言うけど、わたしはあまり嬉しくない。


好きなものが買えるのは確かに嬉しいことだけど、わたしは、みんなの家みたいにごく普通に食事の時は家族全員で楽しくお喋りしながら食べたい。「ただいま」って家に帰ってきたら、「おかえり」って返してほしい。


そんな生活に、心から憧れているんだ。


小学4年生の時から、わたしにはとても仲良しな子がいた。


名前は、笹島(ささじま)千里(ちさと) ちゃん。


千里ちゃんとはホントに気が合って、すごく仲良しだった。


何をする時も、どこにいる時も、いつも一緒にいた。


だけど、いつからか、千里ちゃんの態度が冷たくなってしまった。


たぶん、わたしが欲しいものを自由に買える事が気に入らなかったんだと思う。


それに、わたしは親があまり家にいないせいか、「しっかりしてる」って言われることが多くて、学級委員を務めたり、先生に何か頼まれることもあった。


千里ちゃんはそういう所も気に入らなかったみたい。


本人に直接聞いたわけじゃないから、はっきりとはわからないけど。


いつのまにか千里ちゃんは、わたしのことをムシしたり、陰口を言うようになった。


いちばん仲良しだったはずの子にいじめられるなんて本当にショックだったし、辛かった。



それからわたしは友達を信じることが怖くなって、気がついたら無口で暗い子になっていた。


それでも、わたしはもう友達なんてつくりたくない。


もう、あんな苦しい思いをするのはイヤ。


大好きだった友達にいじめられることほど、辛いことってない。


だから、絶対に友達なんていらない。



***


下校のチャイムが鳴り響く教室。


みんな楽しそうに帰っていくけれど、この時間は、わたしの一番嫌いな時間。


千里ちゃんたちにいじめられるから。


「ぶーか、行くよ」


やっぱり今日もか。


わたしは千里ちゃんに腕を引っ張られて、人通りの少ないトイレに連れ込まれた。


「ほら、入って!」


千里ちゃんに思い切り押されて、わたしは思わずよろめいて、トイレの床に座り込んだ。


「やだぁ。キタナ~イ」


「わたしたちがきれいにしてあげる」

 
そう言って、千里ちゃんと千里ちゃんの友達が、バケツとモップを取り出した。


「ぶーか、超きれいにしてあげるからね~」


千里ちゃんが楽しそうな口調でそう言いながら、わたしに思い切り水をかけた。


そして、みんなでわたしの体をモップでこすり始めた。


「きゃはは。キタナ~イ」


みんなすごく楽しそうに笑ってる。


抵抗できずにとにかく必死で我慢していたら、校内に下校放送が流れた。


「そろそろ先生見回り来るし帰ろうか」


千里ちゃんがそう言うと、他の子達がバケツとモップを片付け始めた。


「じゃーね、ぶーか。と~ってもきれいになったよ~」


「あはは」


イヤミを言って、笑いながらトイレを出て行く。


わたしはみんながいなくなってからやっとの思いで立ち上がると、よろめきながら歩き始めた。


毎日毎日、こんな日ばかり。辛い。苦しい。でも、逃げない。


逃げたら負けることになるから。


ここで登校拒否をしたり、死を選んで自殺したら向こうの思い通りになっちゃう。


そうなるのは、絶対にイヤ。


どうせなら、気の済むまで相手のやりたいようにやらせておいた方がいい。


そう思って、必死に耐えてるけど。


毎日、サボらずに学校へ行ってるけど。


でも、本当はすごく辛い。


親には相談できない。友達もいない。


どうすることもできない。


誰か、お願い。わたしを助けて。


「………」


無言のままただ泣いているわたしを見て、その女の子は


「……いじめられてるの?」


と心配そうな声でわたしに訊いた。


その質問に黙ってうなずくと、


「いいところ知ってるの。おいでよ」


そう言って、女の子がわたしの腕を軽く引っ張りながら歩き始めた。


どこに行くつもりなんだろう……?


女の子が向かっているのは繁華街の方だ。


夕方以降は外見が派手な人やガラの悪そうな人たちも多いから、放課後や夜に生徒だけで出歩かないように先生たちから言われている場所だけど……。


もしかして、どこか危ないところに連れていかれる……?


不安に思っていると、女の子が「ここだよ」と言って足を止めた。


目の前には『ライブハウス COCORO』と書かれた看板と、地下へ続く階段がある。


「……ライブハウス?」


って、バンドの人たちがライブをやるところだよね?


不思議に思っていると、女の子が「足元気をつけてね」と言いながらそのまま階段を降りていく。