魔法乙女(マジカル☆メイデン) ~最果ての魔女と九尾の島~

「え、やだ、こわい。……ここ、開く? あ、開いた。入れるっぽいな。えっと……うきゃぁぁあぁあああああああああ!!」

 部屋に入ると、またもやアンコちゃんが、暗い室内でVRゴーグルをかけてゲームをやっていた。
 呆れ顔のルナと顔を見合わせる。

「ホラーゲーム……かな」
「多分ね。あーもう、うるさいな!」

 ルナがアンコちゃんのかぶっていたVRゴーグルを躊躇(ちゅうちょ)なく外した。
 ルナが子どもにしては背が高いのか、アンコちゃんが大人にしては背が低いのか、あっさりとVRゴーグルを外されたアンコちゃんが呆然(ぼうぜん)とあたしたちを見る。
 続いて壁掛け時計を見た。

「え? もうそんな時間?」 

 朝九時五分。予定の時間を五分すぎている。

「一応、ノックして待ったんだよ? でもまるで反応ないし、試しにドアノブを握ってみたら抵抗なく回ったし。せめてカギはかけようよ。不用心じゃん」

 言いながら部屋を横切って窓のところまできたあたしは、かかっていたぶ厚いカーテンをバっと開いた。
 太陽の光が一気に部屋を照らし、舞ったほこりを写し出す。

 今朝のアンコちゃんは、青いジャージの上下。
 なんでアンコちゃんの部屋着はダサジャージしかないんだろう。
 それに、あんこちゃん自身もそうだけど、この部屋はどう見ても二十歳(はたち)そこそこの女子の部屋じゃない。
 
 部屋は和室。
 濃い茶色のちゃぶ台に、黒い持ち手のついた和ダンス。なんと家具調のブラウン管テレビの上には黒電話まで置かれている。
 これ、オブジェ? 現役? どっち!?

 室内は全体的にレトロ感満載で、昭和初期の空間に迷い込んだような気分になる。
 だったらそれを貫けばいいのに、部屋の隅だけが異質な雰囲気を(かも)しだしている。

 古そうな濃い茶の和机なのに、置かれているのは最新式のタワー型パソコンと四十五型の特大湾曲モニターだ。
 隣に置かれた飾り棚なんか見るからに年代物なのに、最新式のゲーム機が無造作に突っ込んである。

「今飲み物持ってくるね。そこ座って待ってて」

 アンコちゃんはVRゴーグルをその辺に放り投げると、キッチンに入った。 
 すぐおぼんに人数ぶんのコップと麦茶ポットを乗せて戻ってくる。

「ほら、ここ基本誰も入ってこられないから、用心する必要がないのよ。ごめんね、時間すっかり忘れていたわ」
「まさかアンコちゃん、徹夜(オール)でゲームしていたの? 恐怖系のゲームを? 不健康だなぁ。お肌に(さわ)るよ?」
「私これでも八百歳よ? お肌を気にする年齢じゃないわね」
「はっぴゃ、え!?」

 アンコちゃんがカンラカンラと笑う。
 冗談なのか本当なのか、さっぱり分からない。

 そうやって笑っているけど、アンコちゃんはかなりの美人だと思う。ジャージを部屋着にするセンスはちょっとアレだけど。
 色あせたチェック(がら)のビニールクローゼットの中身を無遠慮(ぶえんりょ)にチェックしていたルナが振り返る。

「見て、アサヒ。ここにある服、どれもこれもセンスが昭和で止まっているわ。でもアンコさんだって街を歩くことくらいあるでしょ? 実年齢はともかく見た目は二十歳くらいなんだし、ナンパとかされない?」
「されないわね。映画やカラオケ、お茶のお誘いなんかはしょっちゅう受けるけど」
「それをナンパって言うんだよ、アンコちゃん」

 あたしは中身が空になったコップをちゃぶ台に置きながら言った。
 アンコちゃんがポカンとした顔をしている。
 うん、自覚なしっと。

「えっと、で? 今日はどこ行く? 白虎(びゃっこ)にする? それとも朱雀(すざく)? 玄武(げんぶ)でもいいよ」
「コンビニ選びじゃないんだから……。では白虎さまで」
「白虎、白虎っと……。あ、これだ。どうぞ」

 和ダンスからお札を一枚取り出したアンコちゃんが、ルナに手渡した。
 受け取ったルナが、お札を大事そうに懐にしまう。
 その様子を見ていたアンコちゃんがポツリとつぶやいた。

「そういえばあの子たち、元気だった?」
「あの子たち? 鉄鼠(てっそ)の兄妹のこと?」
「そうそう。会ったのね、やっぱり」
「元気だったよ。二人ともしっかりしていたから、あの子たちがいればクウミさんも大丈夫でしょ」
「……なぜクウミの話を?」
「むしろそっちが聞きたいかと思って」
「別に……」

 部屋を沈黙が占める。
 お茶を飲み終わったあたしたちは立ち上がった。

「あ、行く? 待って、用意するから」
「あたしたちだけで行けるから大丈夫だよ」
「そ? じゃ……がんばって」

 妖狐クウミのことを思い出してナーバスになっているっぽいアンコちゃんを置いて、あたしたちは部屋を出た。
 太陽がまぶしい。多分、今日も一日カンカン照りだ。
 ほこらに向かって坂を上りながらルナと話す。

「……クウミさんを無力化できればいいんだよね、きっと」
「相手は九尾のキツネよ? 首尾よく四聖獣が復活したとして、どれだけ力を抑え込めるか。だいたいさ、わたしたちはあのキツネのターゲットになっちゃっているのよ? 敵よ? そんなのの心情(しんじょう)おもんぱかってどうするのよ」
「そりゃそうだけどさ。アンコちゃんの様子を見ている限り、ただの知り合いじゃないような気がするんだよね。ひょっとしたら昔は仲が良かったのかなって。だったらその状態に戻してあげたいじゃん?」
「優しすぎるわよ、アサヒ。さ、ミッションよ。気持ちを切り替えてちょうだい」
「ほーい」

 ほこら前に転移の門(ポータル)を出現させたあたしたちは、再び九尾の島へと渡ったのでした。

 ◇◆◇◆◇

 ということで、今日の行き先は西にあるという白虎さまのほこらだ。
 あたしも何となくでしか知識がなかったけれど、風水(ふうすい)では四聖獣が各方位を(つかさど)っている、なんて言われている。
 四聖獣っていうのは青龍、白虎、朱雀、玄武のことで、それぞれ東西南北を守っていると。

 九尾のキツネとして猛威をふるった空魅(クウミ)は、はるか五百年前、当時の術者たちが総動員してその力を奪い、この島に封じ込めた。
 その際、術者たちはクウミの力を抑えるべく四つの方位に聖獣のほこらを設置したのだ。

 でもさすがに五百年も経つとクウミの力は戻ってきて、それと反比例するかのように聖獣は力を失った。
 だもんで、今回あたしたちが、ほこらを復活させるために島を走り回っているってわけ。

 昨日復活させた青龍は東。今回のターゲットの白虎は西だから、昨日とは真逆の方向に向かっている感じ。
 そうしてホバーボードで草ぼうぼうの野っ原を走っていると、徐々に景色が変化してきた。
 山に入ったのだ。
 そして道がなくなった――。

「これ、ホバーボードで進むの無理っぽくない?」
「そうねぇ。とするとここからは歩くしかないわけだけど……」
「うっそでしょー」

 目の前に見えるは完全に獣道(けものみち)
 いや、そもそもが無人島なのだから道なんかあろうはずもない。
 有妖怪島だけど。

「分身の能力を信じて進みましょ。さいわい、スニーカーを履いていることだし、何とかなるでしょ」
「うえぇぇぇ。ルナの鬼ぃぃぃぃ」
 
 仕方なくあたしたちはホバーボードを消すと、そこから獣道を走った。
 丈高い木が何本も生えた森を抜け、川をも越え、ひたすら進む。
 アンコちゃんが『オリンピアン以上の運動神経』って言っていたけど、納得。
 パルクール並みの身軽さで藪をヒョイヒョイ抜けていく。 
 
「なんとか行けそうかも!!」
「その調子、その調子!!」

 はげましの声をかけつつ元気に山を登ったあたしたちは、一時間ほどかかってちょっとした広場に出た。

 奥に広がる竹林。
 アンコちゃんからの情報が正しければ、多分ここが目的地だ。
 だが案の定、竹林への侵入を防ぐかのように、三人の人影――ならぬ妖怪影があった。
 妖狐クウミだ。

 中央が花魁姿(おいらんすがた)の妖狐クウミ、その右側に黒い忍び装束(しょうぞく)を着た鉄鼠(てっそ)モコ太が、クウミの左側に赤い忍び装束を着た鉄鼠アヤが立つ。
 園児兄妹が相変わらず可愛い!!

 クウミは懐から扇子(せんす)を出すと、あたしたちに見えるようバっと広げた。
 金地に赤と、ずいぶんと派手派手できらびやかな扇子だ。 

「おーーっほっっほ! ようここまで辿り着きんした。だがこれ以上は……あー、待ったほうがようござりんすか?」
「そうして……くれると……助かります」
「お願い……。息が……」

 その場に膝をついたあたしたちは、必死になって息を整えた。
 やっぱさ、いくらスーパーパワーを得たって、獣道を一時間も走りっぱなしだったらそりゃ疲れるよね。
 妖狐クウミはそんなあたしたちの姿を見ながら、大きくため息をついたのでした。