「そうだ、アンコちゃん。魔法って何なの?」
今朝の話だ。
あたしはアンコちゃんのVRゴーグルを顔から外しながら聞いてみた。
アンコちゃんのコレクションからレーシングゲームを借りてやってみたものの、一発で酔った。
もう、視界がぐわんぐわん揺れるったら。
あたしには合わないかもしれない。残念!
「なぁに? いきなり」
お茶をテーブルに置きながらアンコちゃんが笑った。
あたしがVRゴーグルを片づけている間に、ルナが会話を引き継ぐ。
「仙術とか修験道とかなら、術式を学んで修行するんだろうなって何となく想像がつくんですけど、魔法となるとどういう原理が働いているのかさっぱり分からないんですよね」
「そうね。基本は精霊とコンタクトをとって望む現象を起こしてもらうって形かな」
「魔法は精霊が起こしているってこと?」
「そう。でも必要なのは魂からの願い。だから、魂だけの分身状態になったあなたたちなら魔法を使えるわ。いい? 魔法はデタラメ。想いの力が理論も理屈も超えて魔法を――奇跡を生むのよ。覚えておきなさい」
「想いの力……」
「……アサヒ? そろそろ着くわよ」
「あ、ごめんごめん。ちょっと今朝のこと思い出してくぁぁぁぁあぁあ!!」
ルナに声をかけられホバーボードを降りたあたしの足が、まるで長時間正座の直後みたいに力を失った。
足がプルプル震えて倒れそうになるところを、慌ててそばにあった木にしがみつく。
一時間乗りっぱなしだったからね。
走って移動するよりは何千倍もマシだけど。
「アサヒったら、どこから声を出して……くぅぅぅぅぅぅ」
笑いながらボードから降りたルナも、足をガクガクさせている。
二人して笑いながら屈伸をする。
今のあたしたちは魂だけの状態で、この身体はアンコちゃんの作った分身――仮の姿だ。
理屈で考えるなら肉体的疲労なんか感じるはずがないのだけれど、魂が身体に引っ張られているってことなのかもしれない。
「んで? ここなの?」
「多分ね。ほら、下にほこらっぽいものもあるでしょ」
「どれどれ? ……あ、ほんとだ」
ちょっと進んだところに崖があり、そこから先がすり鉢状の坂になっていた。
底には水がなみなみと溜まっていて、葦の茂った水辺にほこらのようなモノも見える。
あたしたちは滑って転げないよう水で湿った坂を注意して下った。
目的のほこらは石づくりで、犬小屋程度の大きさのモノだった。
青龍さまを祀るには、ちょっとこじんまりとしすぎているかもしれない。
ほこらはコケで全体が緑がかっており、長いこと雨風にさらされたからか、表面がかなり削られていた。
そのせいで判別しにくいが、よくよく見ると、石には龍のような模様が刻まれているようだ。
「これで間違いないみたいね。じゃあアサヒ、さっそくお掃除を始めましょう。神風!」
二人して左手のひらをほこらに向けると、左手首のブレスレットが勢いよく回転し、開いた左手のひらの前にハンドボール大の球体が現れた。
水でできた球体だ。
そこから水をまとった風が巻き起こり、ほこらを直撃する。
まるで高圧洗浄機のように、水流の当たったところの汚れが落ちて、どんどんきれいになっていく。
便利ぃ!!
「ねね、これがあれば、年末の大掃除とかめっちゃはかどりそうだよね!」
「あっちで再現できればね。ふむ。目地の汚れもすっかり落ちたみたいだし、そろそろいいかしら」
「いいんじゃなーい? んじゃあルナ、例のモノお願い」
「オーケー。青龍さま、お目覚め下さい!!」
ルナは懐から達筆な筆文字が書かれたお札を取り出すと、龍の模様の上にペタリと貼った。
多少表面が濡れていてもあまり関係ないらしい。
すぐ術が発動し、墨で書かれた文字がぼんやりと光る。
このお札はスーパー魔女・アンコちゃんが持たせてくれたもので、なんでも自然界から精霊の力を取りこむ能力があるらしい。
長い放置期間にすっかり精霊力が衰えてしまった聖獣たちは、それぞれほこら近辺のどこかで眠りについている。
青龍の場合は、おそらく目の前の沼の底。
お札をほこらに貼ることで聖獣に精霊力が注がれ、力を得た聖獣が目を覚ます、という寸法だ。
とそこへ、あたしたちに向かってどこかから声がかけられた。
「お待ちなんし、お嬢さんたち!」
「そこまでだぜぃ!」
「そこまでですわ!」
振り返ると、崖の縁に誰かが立っていた。
それは、花魁姿の九尾――ならぬ六尾の妖狐・クウミだった。
一本しっぽが増えている!?
しまった、こっちの動きが筒抜けだったか! 何とか見つからずに済ませようと思っていたけど甘かったみたい。どうする? どうする?
焦るあたしの目が、ふとクウミの両脇にクギづけになった。
なんと崖上に見える人影は、三人ぶんだった。
中央に妖狐クウミ。そしてその両隣に、あたしたちより更に小さい男の子と女の子が立っている。
見た感じ五、六歳の幼稚園児くらいで兄妹のように見えるが、その服装はというと……。
「……忍者?」
「っぽいわね。誰かしら。手下? 可愛い!」
「ね、可愛いね」
ルナと小声でクスクスと笑う。
男の子は紺の上着に裾が詰まった紺の袴。それに、脚絆に足袋に草鞋と、全体的に紺色で統一しているが、どう見ても忍び装束だ。
女の子は同じ構成で色が赤。
身長百センチちょいしかないお子さまたちだからか、幼稚園主催の仮装パーティで精一杯着飾りました、といった感じがしてなんとも愛らしい。
だが、どうやらこちらの会話は筒抜けだったようだ。
男の子が怒りに目を吊り上げる。
「可愛いとは何ごとか! 聞いて驚け! おいらは筧モコ太。こっちは妹のアヤ。はるか昔、真田忍軍として活躍した忍ネズミだ。妖怪・鉄鼠として蘇った今は、クウミさまに拾われて、お世話係をさせてもらっているのさ!!」
「お世話してるんだったら!!」
鉄鼠の兄妹が胸を張る。
ほー、ネズミの妖怪が人間に変化しているってわけね、なるほどなるほど。
ふむ。敵に名乗られちゃった以上、あたしたちだって名乗りぐらいあげなくっちゃね。だってあたしたち、スーパーヒロインだもん。
以心伝心。ルナと目を合わせ、同時にうなずいた。
「「願いかなえたまえ! 変身!!」」
あたしたちはかけ声とともに大きく二回、柏手を打った。
それを合図に両腕のブレスレットがうなりをあげて回転する。
次の瞬間、ブレスレットから炎の龍が飛び出し、あたしの周囲をグルグルと激しく飛び回った。
飛び散った火の粉が身体に降りかかるとそこに新たな布地が発生し、あたしの服がみるみるうちに新たな服へと変化していく。
あたしの周囲を回っているのは炎の龍だけど、ルナのほうは水の龍だ。
こちらも、水しぶきがルナの身体にかかるたびに、布地が足されていく。
そうして出来上がったのは――。
上は巫女装束の白衣で、下は膝上二十センチのミニ袴。袴だからミニスカートじゃなくってキュロットだけど。
ちなみに袴の色は、あたしが赤でルナが青だ。
そして、足先が足袋のような形状をした白のニーハイソックス。
最後は草履だけど、鼻緒も、あたしが赤でルナが青と色違いになっている。
全体的に見ると、ミニスカ巫女って感じかな。
最後に高く上がった炎の龍が直上から突っ込んできて、あたしと融合した。
その証拠のように猫耳としっぽ、首輪が消え、代わりにこめかみの位置に一対の龍のツノが生える。
とここで、二人そろって決めポーズ!!
「魔法乙女・アサヒ!!」
「魔法乙女・ルナ!!」
「「妖怪退治はおまかせあれ!!」」
バババババァァァァァアァアアアアアン!!!!!!
変身で消費しきれなかったぶんの魔力――炎龍と水龍の力があたしたちの身体からあふれて飛び散った。
偶然かもしれないけど、連発する花火のエフェクトのようにも見える。
ちょっとこれ、カッコよくない!?
ふと見ると、鉄鼠の妹・アヤちゃんが目を輝かせ、小っこい手で夢中になって拍手している。
気を良くしたあたしたちは、お子ちゃまに向かって華麗にウィンクをしたのでした。
今朝の話だ。
あたしはアンコちゃんのVRゴーグルを顔から外しながら聞いてみた。
アンコちゃんのコレクションからレーシングゲームを借りてやってみたものの、一発で酔った。
もう、視界がぐわんぐわん揺れるったら。
あたしには合わないかもしれない。残念!
「なぁに? いきなり」
お茶をテーブルに置きながらアンコちゃんが笑った。
あたしがVRゴーグルを片づけている間に、ルナが会話を引き継ぐ。
「仙術とか修験道とかなら、術式を学んで修行するんだろうなって何となく想像がつくんですけど、魔法となるとどういう原理が働いているのかさっぱり分からないんですよね」
「そうね。基本は精霊とコンタクトをとって望む現象を起こしてもらうって形かな」
「魔法は精霊が起こしているってこと?」
「そう。でも必要なのは魂からの願い。だから、魂だけの分身状態になったあなたたちなら魔法を使えるわ。いい? 魔法はデタラメ。想いの力が理論も理屈も超えて魔法を――奇跡を生むのよ。覚えておきなさい」
「想いの力……」
「……アサヒ? そろそろ着くわよ」
「あ、ごめんごめん。ちょっと今朝のこと思い出してくぁぁぁぁあぁあ!!」
ルナに声をかけられホバーボードを降りたあたしの足が、まるで長時間正座の直後みたいに力を失った。
足がプルプル震えて倒れそうになるところを、慌ててそばにあった木にしがみつく。
一時間乗りっぱなしだったからね。
走って移動するよりは何千倍もマシだけど。
「アサヒったら、どこから声を出して……くぅぅぅぅぅぅ」
笑いながらボードから降りたルナも、足をガクガクさせている。
二人して笑いながら屈伸をする。
今のあたしたちは魂だけの状態で、この身体はアンコちゃんの作った分身――仮の姿だ。
理屈で考えるなら肉体的疲労なんか感じるはずがないのだけれど、魂が身体に引っ張られているってことなのかもしれない。
「んで? ここなの?」
「多分ね。ほら、下にほこらっぽいものもあるでしょ」
「どれどれ? ……あ、ほんとだ」
ちょっと進んだところに崖があり、そこから先がすり鉢状の坂になっていた。
底には水がなみなみと溜まっていて、葦の茂った水辺にほこらのようなモノも見える。
あたしたちは滑って転げないよう水で湿った坂を注意して下った。
目的のほこらは石づくりで、犬小屋程度の大きさのモノだった。
青龍さまを祀るには、ちょっとこじんまりとしすぎているかもしれない。
ほこらはコケで全体が緑がかっており、長いこと雨風にさらされたからか、表面がかなり削られていた。
そのせいで判別しにくいが、よくよく見ると、石には龍のような模様が刻まれているようだ。
「これで間違いないみたいね。じゃあアサヒ、さっそくお掃除を始めましょう。神風!」
二人して左手のひらをほこらに向けると、左手首のブレスレットが勢いよく回転し、開いた左手のひらの前にハンドボール大の球体が現れた。
水でできた球体だ。
そこから水をまとった風が巻き起こり、ほこらを直撃する。
まるで高圧洗浄機のように、水流の当たったところの汚れが落ちて、どんどんきれいになっていく。
便利ぃ!!
「ねね、これがあれば、年末の大掃除とかめっちゃはかどりそうだよね!」
「あっちで再現できればね。ふむ。目地の汚れもすっかり落ちたみたいだし、そろそろいいかしら」
「いいんじゃなーい? んじゃあルナ、例のモノお願い」
「オーケー。青龍さま、お目覚め下さい!!」
ルナは懐から達筆な筆文字が書かれたお札を取り出すと、龍の模様の上にペタリと貼った。
多少表面が濡れていてもあまり関係ないらしい。
すぐ術が発動し、墨で書かれた文字がぼんやりと光る。
このお札はスーパー魔女・アンコちゃんが持たせてくれたもので、なんでも自然界から精霊の力を取りこむ能力があるらしい。
長い放置期間にすっかり精霊力が衰えてしまった聖獣たちは、それぞれほこら近辺のどこかで眠りについている。
青龍の場合は、おそらく目の前の沼の底。
お札をほこらに貼ることで聖獣に精霊力が注がれ、力を得た聖獣が目を覚ます、という寸法だ。
とそこへ、あたしたちに向かってどこかから声がかけられた。
「お待ちなんし、お嬢さんたち!」
「そこまでだぜぃ!」
「そこまでですわ!」
振り返ると、崖の縁に誰かが立っていた。
それは、花魁姿の九尾――ならぬ六尾の妖狐・クウミだった。
一本しっぽが増えている!?
しまった、こっちの動きが筒抜けだったか! 何とか見つからずに済ませようと思っていたけど甘かったみたい。どうする? どうする?
焦るあたしの目が、ふとクウミの両脇にクギづけになった。
なんと崖上に見える人影は、三人ぶんだった。
中央に妖狐クウミ。そしてその両隣に、あたしたちより更に小さい男の子と女の子が立っている。
見た感じ五、六歳の幼稚園児くらいで兄妹のように見えるが、その服装はというと……。
「……忍者?」
「っぽいわね。誰かしら。手下? 可愛い!」
「ね、可愛いね」
ルナと小声でクスクスと笑う。
男の子は紺の上着に裾が詰まった紺の袴。それに、脚絆に足袋に草鞋と、全体的に紺色で統一しているが、どう見ても忍び装束だ。
女の子は同じ構成で色が赤。
身長百センチちょいしかないお子さまたちだからか、幼稚園主催の仮装パーティで精一杯着飾りました、といった感じがしてなんとも愛らしい。
だが、どうやらこちらの会話は筒抜けだったようだ。
男の子が怒りに目を吊り上げる。
「可愛いとは何ごとか! 聞いて驚け! おいらは筧モコ太。こっちは妹のアヤ。はるか昔、真田忍軍として活躍した忍ネズミだ。妖怪・鉄鼠として蘇った今は、クウミさまに拾われて、お世話係をさせてもらっているのさ!!」
「お世話してるんだったら!!」
鉄鼠の兄妹が胸を張る。
ほー、ネズミの妖怪が人間に変化しているってわけね、なるほどなるほど。
ふむ。敵に名乗られちゃった以上、あたしたちだって名乗りぐらいあげなくっちゃね。だってあたしたち、スーパーヒロインだもん。
以心伝心。ルナと目を合わせ、同時にうなずいた。
「「願いかなえたまえ! 変身!!」」
あたしたちはかけ声とともに大きく二回、柏手を打った。
それを合図に両腕のブレスレットがうなりをあげて回転する。
次の瞬間、ブレスレットから炎の龍が飛び出し、あたしの周囲をグルグルと激しく飛び回った。
飛び散った火の粉が身体に降りかかるとそこに新たな布地が発生し、あたしの服がみるみるうちに新たな服へと変化していく。
あたしの周囲を回っているのは炎の龍だけど、ルナのほうは水の龍だ。
こちらも、水しぶきがルナの身体にかかるたびに、布地が足されていく。
そうして出来上がったのは――。
上は巫女装束の白衣で、下は膝上二十センチのミニ袴。袴だからミニスカートじゃなくってキュロットだけど。
ちなみに袴の色は、あたしが赤でルナが青だ。
そして、足先が足袋のような形状をした白のニーハイソックス。
最後は草履だけど、鼻緒も、あたしが赤でルナが青と色違いになっている。
全体的に見ると、ミニスカ巫女って感じかな。
最後に高く上がった炎の龍が直上から突っ込んできて、あたしと融合した。
その証拠のように猫耳としっぽ、首輪が消え、代わりにこめかみの位置に一対の龍のツノが生える。
とここで、二人そろって決めポーズ!!
「魔法乙女・アサヒ!!」
「魔法乙女・ルナ!!」
「「妖怪退治はおまかせあれ!!」」
バババババァァァァァアァアアアアアン!!!!!!
変身で消費しきれなかったぶんの魔力――炎龍と水龍の力があたしたちの身体からあふれて飛び散った。
偶然かもしれないけど、連発する花火のエフェクトのようにも見える。
ちょっとこれ、カッコよくない!?
ふと見ると、鉄鼠の妹・アヤちゃんが目を輝かせ、小っこい手で夢中になって拍手している。
気を良くしたあたしたちは、お子ちゃまに向かって華麗にウィンクをしたのでした。



