さらに翌日――。
アンコちゃんと更なる細かな打ち合わせをした後、あたしたちはほこらの前まで連れてこられた。
今日のアンコちゃんは、緑色のジャージの上下に白衣をはおっている。
絶妙にミスマッチ。
何度か深呼吸をして精神を落ち着けたあたしは、ほこらに向かって左手をかざすと、教わった呪言を唱えた。
「青龍・白虎・朱雀・玄武! 汝らが守護を持ちて、かの地への道を開け! 転移の門!!」
左手首のブレスレットが光を放ちつつ回転し始めると、ほこらの前に、光を放つ五芒星が現れた。
五芒星の周辺の空間が揺らぎ、そこにあちら側の風景—―草ぼうぼうの野っ原が映し出される。
「できた!」
「やるじゃない、アサヒ!」
「いいわね、アサヒちゃん」
ブレスレットは夏祭りでゲットしたものだ。
プラスティック製のおもちゃで、スイッチを入れると光る仕様だが、左右ともに内臓電池はとっくに切れている。
電池交換不可な使い捨てタイプだから二度と光らないはずなのに、今、ブレスレットがピンク色に光っている。
アンコちゃんの改造によるものだ。
「アサヒ、行こう」
「うん」
ルナが差し伸べた手を握ったあたしは、ともに揺らぐ空間――ポータルへと入った。
◇◆◇◆◇
そこは、昨夜見たあの草ぼうぼうの野っ原だった。
時間的に現世側とリンクしているようで、青い空に朝の太陽が浮かんでいる。
景色は変わったものの、特に身体に違和感はない。
「どう? 二人とも大丈夫?」
アンコちゃんが現世側から尋ねてくる。
「うん。でも、特に変化ないよ?」
「さっきまで着ていた服と同じですし……」
あたしの今朝の服装は、白のデザインTシャツにデニム地のベイカーショートパンツ。それに白のキッズスニーカー。
ルナはというと、白の半そでシフォンブラウスにグレージュのチュールスカート。それと、オーロラ色の入ったライトパープルのキッズスニーカー。
ルナは大人っぽいから、あたしと違ってお嬢さまっぽいファッションが似合うんだ、これが。
ふむふむと自分の状態をチェックしていて、さっきまでなかったものがあることに気がついた。
「「なにこれ??」」
同時に気づいたルナと、思わずハモる。
あたしたちの頭のてっぺんに、なんと猫耳が生えていた。
それだけじゃない。お尻には先っちょにリボンのついた長いしっぽが生え、首には鈴のついた首輪がついている。
恐る恐る触ってみたけれど、猫耳としっぽは確実に生えている。
「可愛いでしょ。それがあれば、自分が今、生身なのか分身なのかひと目でわかると思って」
「なーるほど」
ちなみにしっぽのリボンと首輪は色違い。あたしが赤でルナが青だ。
振り返ると、ポータルの向こう側――現世側のアンコちゃんのすぐ隣に、人が二人、横たえられていた。
それは、あたしとルナだった。
思わずギョっとする。
「うわ、本当にあたしたちだ」
「聞いてはいたけれど、こうして目の当たりにすると軽くショックね」
事前説明を受けたとはいえ焦る。
あたしたちを落ち着かせようというのか、アンコちゃんが大きくうなずいた。
「異界は本来生身で行くようなところじゃないの。長く滞在すると帰れなくなるわ。だからこうして分身で行ってもらうのよ」
アンコちゃんの講義に、あたしたちは真面目な顔でうなずいた。
「そんなわけで、ここのポータルを通るたびに瓜二つの分身が発生するようにしました。科学と魔法の融合ってヤツね。本体のほうは私がしっかり守っているから安心してミッションをこなしてきて」
「アンコちゃん、すごいね。何者なの?」
「んーー、修験者で巫女で魔女で科学者で……。自分でも分からないわ。ふふっ」
アンコちゃんが肩をすくめてみせる。
美人なうえに天才。でも女子力は小学生以下。うーん、色々と惜しい。
「今のあなたたちはオリンピアン以上の運動神経を持っている上に、私の施した細工によってブレスレットを通して魔法を使うことができる。そちらで活動するぶんには何の問題もないでしょう。ただし、エネルギー残量には注意して。ブレスレットの動力はあなたたちの生命力。光らなくなったら分身が動けなくなる。くれぐれも気をつけるのよ」
「「はい!!」」
ポータルが徐々に薄れて消え、手を振ってくれるアンコちゃんの姿も見えなくなった。
あとは、目的を果たして再びこちら側からポータルを開くだけだ。
「んじゃさっそくアレを出そう」
「アレね。オッケー」
「「ホバーボード!!」」
掛け声と同時に左のブレスレットについたボタンを押すと、目の前にスケートボードのような板が現れた。
原理は分からないけれど、微かに浮いている。
おっかなびっくり乗ってみると、スルスルっと動き出した。
スケートボード同様、重心の掛けかたで移動するみたい。
初めての経験だからちょっとふらつくけど、移動しだしたら安定するかな。
「うっはは、おもしろ!! ルナ、バランスとれる?」
「なんとかね。これならそのうち慣れるでしょ。行くわよ」
「オッケー!」
あたしとルナはうなずくと、東に向かって疾走し始めた。
◇◆◇◆◇
思った以上にスピードが出て、あたしたちは車と並走できるくらいの勢いでヒョイヒョイ進んだ。
こちとら自転車しか移動手段がない小学生よ? 自力で漕ぐ必要のない移動手段を入手しちゃって、テンションが爆上がりだよぉ。
「風が気持ちいいね!」
「そうね。さすがに立ちっぱなしは疲れるけど」
「走ったほうが疲れない?」
「そういうわけではないんだけど、同じ体勢を維持しているからだと思う。ちょっと休憩しましょ」
「ほいほーい!」
重心移動でホバーボードの速度を落としたそのとき。
あたしたちに向かって何かが走ってきた。
「キツネ!?」
見た目は大柄なキツネといった感じだけれど、尻尾が二本ある。
下っ端妖狐—―野狐だ。
ホバーボードを急上昇させて野狐の突進を避けたあたしは、ルナに向かって叫んだ。
「ルナ、野狐だ! 避けて!!」
ターゲットをルナに定めたのか、野狐がルナめがけて頭から突っ込んでいく。
走って逃げようとするルナを生い茂る木々が邪魔をする。
眼前の木を駆け登ったルナが別の木に飛び移って野狐をやり過ごすと、突進してきた野狐の頭突き一発で直径二十センチもある木があえなくへし折れた。
「すっご!」
「見た目によらず、破壊力があるのね。なら!」
飛び降りるルナのブレスレットが高速回転する。
ターゲットを見失って立ち尽くす野狐の真後ろに着地したルナは、野狐の背中を軽くタッチした。
次の瞬間、野狐の背中で静電気のような光が走った。
「ギャン!!」
よほど痛かったのか、野狐は一瞬その場で跳びはねると慌てて逃げていった。
バチィ! ってすごい音がしたもんねぇ……。
あたしはルナに近寄った。
「今のなに? 電撃?」
「魔法のね。妖狐が逃げ帰るくらいの威力はあるみたいだけど、クウミさんとは極力戦いを避けたほうがいいでしょうね。なにせ九尾っていえば伝説クラスの妖怪だし」
「そうだね。そこは慎重に、ほこらの復活を最優先でいこ。最終戦闘はアンコちゃんにおまかせってことで」
「そうしましょう」
こうしてささやかながらも初勝利をした高揚感に包まれつつ、あたしたちは更なる東へと向かって移動を再開したのでした。
アンコちゃんと更なる細かな打ち合わせをした後、あたしたちはほこらの前まで連れてこられた。
今日のアンコちゃんは、緑色のジャージの上下に白衣をはおっている。
絶妙にミスマッチ。
何度か深呼吸をして精神を落ち着けたあたしは、ほこらに向かって左手をかざすと、教わった呪言を唱えた。
「青龍・白虎・朱雀・玄武! 汝らが守護を持ちて、かの地への道を開け! 転移の門!!」
左手首のブレスレットが光を放ちつつ回転し始めると、ほこらの前に、光を放つ五芒星が現れた。
五芒星の周辺の空間が揺らぎ、そこにあちら側の風景—―草ぼうぼうの野っ原が映し出される。
「できた!」
「やるじゃない、アサヒ!」
「いいわね、アサヒちゃん」
ブレスレットは夏祭りでゲットしたものだ。
プラスティック製のおもちゃで、スイッチを入れると光る仕様だが、左右ともに内臓電池はとっくに切れている。
電池交換不可な使い捨てタイプだから二度と光らないはずなのに、今、ブレスレットがピンク色に光っている。
アンコちゃんの改造によるものだ。
「アサヒ、行こう」
「うん」
ルナが差し伸べた手を握ったあたしは、ともに揺らぐ空間――ポータルへと入った。
◇◆◇◆◇
そこは、昨夜見たあの草ぼうぼうの野っ原だった。
時間的に現世側とリンクしているようで、青い空に朝の太陽が浮かんでいる。
景色は変わったものの、特に身体に違和感はない。
「どう? 二人とも大丈夫?」
アンコちゃんが現世側から尋ねてくる。
「うん。でも、特に変化ないよ?」
「さっきまで着ていた服と同じですし……」
あたしの今朝の服装は、白のデザインTシャツにデニム地のベイカーショートパンツ。それに白のキッズスニーカー。
ルナはというと、白の半そでシフォンブラウスにグレージュのチュールスカート。それと、オーロラ色の入ったライトパープルのキッズスニーカー。
ルナは大人っぽいから、あたしと違ってお嬢さまっぽいファッションが似合うんだ、これが。
ふむふむと自分の状態をチェックしていて、さっきまでなかったものがあることに気がついた。
「「なにこれ??」」
同時に気づいたルナと、思わずハモる。
あたしたちの頭のてっぺんに、なんと猫耳が生えていた。
それだけじゃない。お尻には先っちょにリボンのついた長いしっぽが生え、首には鈴のついた首輪がついている。
恐る恐る触ってみたけれど、猫耳としっぽは確実に生えている。
「可愛いでしょ。それがあれば、自分が今、生身なのか分身なのかひと目でわかると思って」
「なーるほど」
ちなみにしっぽのリボンと首輪は色違い。あたしが赤でルナが青だ。
振り返ると、ポータルの向こう側――現世側のアンコちゃんのすぐ隣に、人が二人、横たえられていた。
それは、あたしとルナだった。
思わずギョっとする。
「うわ、本当にあたしたちだ」
「聞いてはいたけれど、こうして目の当たりにすると軽くショックね」
事前説明を受けたとはいえ焦る。
あたしたちを落ち着かせようというのか、アンコちゃんが大きくうなずいた。
「異界は本来生身で行くようなところじゃないの。長く滞在すると帰れなくなるわ。だからこうして分身で行ってもらうのよ」
アンコちゃんの講義に、あたしたちは真面目な顔でうなずいた。
「そんなわけで、ここのポータルを通るたびに瓜二つの分身が発生するようにしました。科学と魔法の融合ってヤツね。本体のほうは私がしっかり守っているから安心してミッションをこなしてきて」
「アンコちゃん、すごいね。何者なの?」
「んーー、修験者で巫女で魔女で科学者で……。自分でも分からないわ。ふふっ」
アンコちゃんが肩をすくめてみせる。
美人なうえに天才。でも女子力は小学生以下。うーん、色々と惜しい。
「今のあなたたちはオリンピアン以上の運動神経を持っている上に、私の施した細工によってブレスレットを通して魔法を使うことができる。そちらで活動するぶんには何の問題もないでしょう。ただし、エネルギー残量には注意して。ブレスレットの動力はあなたたちの生命力。光らなくなったら分身が動けなくなる。くれぐれも気をつけるのよ」
「「はい!!」」
ポータルが徐々に薄れて消え、手を振ってくれるアンコちゃんの姿も見えなくなった。
あとは、目的を果たして再びこちら側からポータルを開くだけだ。
「んじゃさっそくアレを出そう」
「アレね。オッケー」
「「ホバーボード!!」」
掛け声と同時に左のブレスレットについたボタンを押すと、目の前にスケートボードのような板が現れた。
原理は分からないけれど、微かに浮いている。
おっかなびっくり乗ってみると、スルスルっと動き出した。
スケートボード同様、重心の掛けかたで移動するみたい。
初めての経験だからちょっとふらつくけど、移動しだしたら安定するかな。
「うっはは、おもしろ!! ルナ、バランスとれる?」
「なんとかね。これならそのうち慣れるでしょ。行くわよ」
「オッケー!」
あたしとルナはうなずくと、東に向かって疾走し始めた。
◇◆◇◆◇
思った以上にスピードが出て、あたしたちは車と並走できるくらいの勢いでヒョイヒョイ進んだ。
こちとら自転車しか移動手段がない小学生よ? 自力で漕ぐ必要のない移動手段を入手しちゃって、テンションが爆上がりだよぉ。
「風が気持ちいいね!」
「そうね。さすがに立ちっぱなしは疲れるけど」
「走ったほうが疲れない?」
「そういうわけではないんだけど、同じ体勢を維持しているからだと思う。ちょっと休憩しましょ」
「ほいほーい!」
重心移動でホバーボードの速度を落としたそのとき。
あたしたちに向かって何かが走ってきた。
「キツネ!?」
見た目は大柄なキツネといった感じだけれど、尻尾が二本ある。
下っ端妖狐—―野狐だ。
ホバーボードを急上昇させて野狐の突進を避けたあたしは、ルナに向かって叫んだ。
「ルナ、野狐だ! 避けて!!」
ターゲットをルナに定めたのか、野狐がルナめがけて頭から突っ込んでいく。
走って逃げようとするルナを生い茂る木々が邪魔をする。
眼前の木を駆け登ったルナが別の木に飛び移って野狐をやり過ごすと、突進してきた野狐の頭突き一発で直径二十センチもある木があえなくへし折れた。
「すっご!」
「見た目によらず、破壊力があるのね。なら!」
飛び降りるルナのブレスレットが高速回転する。
ターゲットを見失って立ち尽くす野狐の真後ろに着地したルナは、野狐の背中を軽くタッチした。
次の瞬間、野狐の背中で静電気のような光が走った。
「ギャン!!」
よほど痛かったのか、野狐は一瞬その場で跳びはねると慌てて逃げていった。
バチィ! ってすごい音がしたもんねぇ……。
あたしはルナに近寄った。
「今のなに? 電撃?」
「魔法のね。妖狐が逃げ帰るくらいの威力はあるみたいだけど、クウミさんとは極力戦いを避けたほうがいいでしょうね。なにせ九尾っていえば伝説クラスの妖怪だし」
「そうだね。そこは慎重に、ほこらの復活を最優先でいこ。最終戦闘はアンコちゃんにおまかせってことで」
「そうしましょう」
こうしてささやかながらも初勝利をした高揚感に包まれつつ、あたしたちは更なる東へと向かって移動を再開したのでした。



