あれから数日——。
夏休みという非日常も終わり、再び登校を開始したあたしたちは、休み明け初日の全校集会に参加した。
校庭に集まった全校生徒を前に、壇上に上がった校長がニッコリと笑う。
「皆さんが今日、元気に登校してきてくれて、校長先生、とーってもうれしいです。夏休みを満喫できましたか?」
「「「はーい!!」」」
校庭じゅうから声があがる。
それを聞いた校長が満足そうに笑みを浮かべる。
「たいへん結構。さて、今日から新学期ということで、皆さんに新任の先生をご紹介します。拍手!」
ふぅん、と何気なくそちらを見たあたしとルナのあごが落ちた。
たくさんの拍手に出迎えられ、壇上に上がったのは、あたしたちの良く知る人物だったのだ——。
その日の授業が終わるや否や、ルナを連れだって猛然と保健室に突入したあたしは、開口一番言い放った。
「どういうことなのさ、アンコちゃん!」
「あらどうしたの? 怪我をしたのかしら。それとも体調が悪い? 寒気でもする?」
「アンコさん、冗談を言っている場合じゃなくて!」
「ノリが悪いなぁ、二人とも。もうちょっと面白いリアクションを期待していたのに。お姉さん、ガッカリだわ」
オレンジ色のジャージの上下に白衣を着たアンコちゃんが、椅子に座ったままため息をついた。
その仕草がなんとも芝居じみている。
「とりあえずそのジャージはないな。美人保健医が台無しだよ」
「な!? よそ行きのを着てきたのに!?」
「よそ行きのジャージって何さ」
実年齢はともかく、アンコちゃんは見た目は二十歳そこそこで、かなりの美人だ。
頭もいいし、様々な術も使え、妖怪退治の世界ではちょっとした有名人らしい。
なのに、なんでこんなに女子力が低いかな。
「で? なんでこんなことになってんの?」
机に置かれたポテトチップスの袋に手を突っ込もうとしたあたしの手が、何者かによって叩かれた。
「これはあちきのポテチでありんす。勝手に取らねえ。欲しいならひと言断ってからにしなんし」
「クウミさん!?」
そこにいたのは、小型犬くらいの大きさをした真っ白なキツネだった。
あまりにも整然とお座りをしていたので、置物かぬいぐるみかと勘違いしていたのだ。
「クウミさん? あなたまで、何をやっているんですか!?」
そこでアンコちゃんが、またも深いため息をついた。
「神社のあるお山がどうなったか知ってる?」
「お山? あー、うん、あれね。横が通学路になっているんだもん、嫌でも目に入っちゃうよ」
「おかげでわたしもお山に入れなくなっちゃったのよ」
「ごごご、ごめんなさい!」
「まぁいいわ。これから徐々に魔法乙女の力に慣れていきましょ」
アンコちゃんが苦笑いして肩をすくめる。
端的に言うと、あたしの最後の技『ゴールデンハンマー』のせいだ。
あの技は奪った妖力で花を咲かせるという魔法なので、あたしの思惑通りクウミさんが過剰に持っていた妖力が一気に吹っ飛び、あの周辺すべてをお花畑に変えた。
のだけれど。
散らした妖力が多すぎたので、現世側にも影響が出た。
つまり、夏も盛りだというのにお山全体で桜を咲かせちゃったのだ。
おかげでテレビ局やら新聞社やらマスコミが大勢駆けつけ、連日のように報道された。
そのせいで家に入れなくなったのだろう。
まったくもって面目ない。
甘々裁定をくだしたアンコちゃんに、クウミさんが異議を唱える。
「杏子は甘いね。大きな力を持つんだから、ちゃんとリスクも考えて、細心の注意を払って動くよう叩き込まなきゃ駄目だよ」
「クゥ、焦らずいきましょ。まだ彼女たちは小学生なんだから。とまぁそれはさておき。新たな魔法乙女の指揮とフォローをするには、ある程度近くにいたほうがいいだろうってことになってね」
あたしとルナは目を見合わせた。
いやいやいやいや。
「アンコさん、わたしたちブレスレットが壊れてもう魔法乙女にはなれないんです。忘れちゃいましたか?」
「そうだよ。そりゃあたしたちだって続けたかったよ? だってせっかく変身ヒロインになれたんだもん。でも、見事に割れちゃったしね」
それを見ていたクウミさんが、呆れた顔をする。
「甘い。甘うござりんす。オモチャのブレスレットが壊れたくらいで魔法乙女をやめられるわけねえざんしょ? 何を言っているのやら」
「そうそう。はい、これ」
アンコちゃんは白衣のポケットから何かを取り出すと、わたしたちの手のひらに置いた。
大人の女性がつけててもおかしくないくらい素敵なデザインをした、紅いバングルと蒼いバングルだ。
小学生がつけるにしては、おしゃれがすぎる!
「つけてごらんなさい」
アンコちゃんに言われて恐る恐るバングルを両手につけたとたん、あたしたちの影から何かが飛び出した。
真っ白なネズミだ。
「呼ぶのが遅いんだよ!」
「モコ太!?」
「アサヒお姉ちゃん、会いたかったよぉ!」
「アヤちゃん!?」
あたしとルナ、それぞれの影から飛び出した白ネズミは、器用に身体を駆け上って頭の上に乗っかった。
あたしの頭の上のネズミは赤いマフラーを。ルナの頭に乗ったネズミは青いマフラーを巻いている。
「やっぱり魔法乙女とパートナーは常に一緒にいないとね。ちなみにそのバングル、以前のモノより格段にパワーアップしているから異界でなくても変身できるわよ」
「え!? ここで普通に変身できるんですか?」
「だって魔法乙女の戦場は異界だけじゃないもの。現世で変身できなきゃお仕事にならないじゃない。これからはここから出動するのよ」
「変身ヒロインきたぁぁぁああああ!!」
大興奮したあたしたちの動きがピタっと止まる。
「え? ちょっと待って。ここから……出動?」
「そうよ。だってお山のお家、使えなくなっちゃったもの」
「変身はいいとして、ここから現場までどうやって行くの? 電車やバスを乗り継いで? それはさすがに恥ずかしいなぁ」
「せめて車で送迎とかなりませんか?」
「どこのお嬢さまよ。ま、その辺もちゃーんと考えてあるから心配しなさんな」
アンコちゃんはニヤっと笑うと、保健室の壁に貼られた大鏡をコンコンと叩いた。
何年か前の卒業生によって寄贈された鏡だ。
「これが新たな転移の門よ。魔法乙女のお役目は現世にあだなす怪異を説得、ないし退治すること。この鏡を通れば、現世、異界、日本じゅうどこにだって行ける。助けを必要としている人のために、出動してくれる? 二代目さん」
「最っ高! じゃあルナ、行きますかぁ!」
「行きましょう、アサヒ!」
あたしたちは鏡に向かってポーズをとった。
「「願いかなえたまえ! 変身!!」」
こうして魔法乙女に変身したあたしとルナは、怪異によって困っている日本じゅうの人たちを救うべく、鏡に飛び込んだのでした。
おしまい
夏休みという非日常も終わり、再び登校を開始したあたしたちは、休み明け初日の全校集会に参加した。
校庭に集まった全校生徒を前に、壇上に上がった校長がニッコリと笑う。
「皆さんが今日、元気に登校してきてくれて、校長先生、とーってもうれしいです。夏休みを満喫できましたか?」
「「「はーい!!」」」
校庭じゅうから声があがる。
それを聞いた校長が満足そうに笑みを浮かべる。
「たいへん結構。さて、今日から新学期ということで、皆さんに新任の先生をご紹介します。拍手!」
ふぅん、と何気なくそちらを見たあたしとルナのあごが落ちた。
たくさんの拍手に出迎えられ、壇上に上がったのは、あたしたちの良く知る人物だったのだ——。
その日の授業が終わるや否や、ルナを連れだって猛然と保健室に突入したあたしは、開口一番言い放った。
「どういうことなのさ、アンコちゃん!」
「あらどうしたの? 怪我をしたのかしら。それとも体調が悪い? 寒気でもする?」
「アンコさん、冗談を言っている場合じゃなくて!」
「ノリが悪いなぁ、二人とも。もうちょっと面白いリアクションを期待していたのに。お姉さん、ガッカリだわ」
オレンジ色のジャージの上下に白衣を着たアンコちゃんが、椅子に座ったままため息をついた。
その仕草がなんとも芝居じみている。
「とりあえずそのジャージはないな。美人保健医が台無しだよ」
「な!? よそ行きのを着てきたのに!?」
「よそ行きのジャージって何さ」
実年齢はともかく、アンコちゃんは見た目は二十歳そこそこで、かなりの美人だ。
頭もいいし、様々な術も使え、妖怪退治の世界ではちょっとした有名人らしい。
なのに、なんでこんなに女子力が低いかな。
「で? なんでこんなことになってんの?」
机に置かれたポテトチップスの袋に手を突っ込もうとしたあたしの手が、何者かによって叩かれた。
「これはあちきのポテチでありんす。勝手に取らねえ。欲しいならひと言断ってからにしなんし」
「クウミさん!?」
そこにいたのは、小型犬くらいの大きさをした真っ白なキツネだった。
あまりにも整然とお座りをしていたので、置物かぬいぐるみかと勘違いしていたのだ。
「クウミさん? あなたまで、何をやっているんですか!?」
そこでアンコちゃんが、またも深いため息をついた。
「神社のあるお山がどうなったか知ってる?」
「お山? あー、うん、あれね。横が通学路になっているんだもん、嫌でも目に入っちゃうよ」
「おかげでわたしもお山に入れなくなっちゃったのよ」
「ごごご、ごめんなさい!」
「まぁいいわ。これから徐々に魔法乙女の力に慣れていきましょ」
アンコちゃんが苦笑いして肩をすくめる。
端的に言うと、あたしの最後の技『ゴールデンハンマー』のせいだ。
あの技は奪った妖力で花を咲かせるという魔法なので、あたしの思惑通りクウミさんが過剰に持っていた妖力が一気に吹っ飛び、あの周辺すべてをお花畑に変えた。
のだけれど。
散らした妖力が多すぎたので、現世側にも影響が出た。
つまり、夏も盛りだというのにお山全体で桜を咲かせちゃったのだ。
おかげでテレビ局やら新聞社やらマスコミが大勢駆けつけ、連日のように報道された。
そのせいで家に入れなくなったのだろう。
まったくもって面目ない。
甘々裁定をくだしたアンコちゃんに、クウミさんが異議を唱える。
「杏子は甘いね。大きな力を持つんだから、ちゃんとリスクも考えて、細心の注意を払って動くよう叩き込まなきゃ駄目だよ」
「クゥ、焦らずいきましょ。まだ彼女たちは小学生なんだから。とまぁそれはさておき。新たな魔法乙女の指揮とフォローをするには、ある程度近くにいたほうがいいだろうってことになってね」
あたしとルナは目を見合わせた。
いやいやいやいや。
「アンコさん、わたしたちブレスレットが壊れてもう魔法乙女にはなれないんです。忘れちゃいましたか?」
「そうだよ。そりゃあたしたちだって続けたかったよ? だってせっかく変身ヒロインになれたんだもん。でも、見事に割れちゃったしね」
それを見ていたクウミさんが、呆れた顔をする。
「甘い。甘うござりんす。オモチャのブレスレットが壊れたくらいで魔法乙女をやめられるわけねえざんしょ? 何を言っているのやら」
「そうそう。はい、これ」
アンコちゃんは白衣のポケットから何かを取り出すと、わたしたちの手のひらに置いた。
大人の女性がつけててもおかしくないくらい素敵なデザインをした、紅いバングルと蒼いバングルだ。
小学生がつけるにしては、おしゃれがすぎる!
「つけてごらんなさい」
アンコちゃんに言われて恐る恐るバングルを両手につけたとたん、あたしたちの影から何かが飛び出した。
真っ白なネズミだ。
「呼ぶのが遅いんだよ!」
「モコ太!?」
「アサヒお姉ちゃん、会いたかったよぉ!」
「アヤちゃん!?」
あたしとルナ、それぞれの影から飛び出した白ネズミは、器用に身体を駆け上って頭の上に乗っかった。
あたしの頭の上のネズミは赤いマフラーを。ルナの頭に乗ったネズミは青いマフラーを巻いている。
「やっぱり魔法乙女とパートナーは常に一緒にいないとね。ちなみにそのバングル、以前のモノより格段にパワーアップしているから異界でなくても変身できるわよ」
「え!? ここで普通に変身できるんですか?」
「だって魔法乙女の戦場は異界だけじゃないもの。現世で変身できなきゃお仕事にならないじゃない。これからはここから出動するのよ」
「変身ヒロインきたぁぁぁああああ!!」
大興奮したあたしたちの動きがピタっと止まる。
「え? ちょっと待って。ここから……出動?」
「そうよ。だってお山のお家、使えなくなっちゃったもの」
「変身はいいとして、ここから現場までどうやって行くの? 電車やバスを乗り継いで? それはさすがに恥ずかしいなぁ」
「せめて車で送迎とかなりませんか?」
「どこのお嬢さまよ。ま、その辺もちゃーんと考えてあるから心配しなさんな」
アンコちゃんはニヤっと笑うと、保健室の壁に貼られた大鏡をコンコンと叩いた。
何年か前の卒業生によって寄贈された鏡だ。
「これが新たな転移の門よ。魔法乙女のお役目は現世にあだなす怪異を説得、ないし退治すること。この鏡を通れば、現世、異界、日本じゅうどこにだって行ける。助けを必要としている人のために、出動してくれる? 二代目さん」
「最っ高! じゃあルナ、行きますかぁ!」
「行きましょう、アサヒ!」
あたしたちは鏡に向かってポーズをとった。
「「願いかなえたまえ! 変身!!」」
こうして魔法乙女に変身したあたしとルナは、怪異によって困っている日本じゅうの人たちを救うべく、鏡に飛び込んだのでした。
おしまい



