転移の門を通ってすぐの、異界の野っ原――。
朝の九時。青い空。白い雲。遠くでトンビが飛んでいる。
いやぁ、実にのどかだね。……ここ以外は。
そう。あたし、ルナ、モコ太くん、アヤちゃんの四人が見守るなか、アンコちゃんとクウミさんがバチバチと火花を飛ばしていた。
白衣に緋袴、千早と、上から下までバッチリ巫女装束で身を固めたアンコちゃんと、絢爛豪華な花魁の衣装を着込んだクウミさんとが親の仇でも見るような表情でにらみ合っている。
それにしても、さすがに先代の魔法乙女だけあって迫力がハンパない。
空気が震える音が聞こえてきそうな気さえする。
口火を切ったのは、クウミさんのほうだった。
「まずは言い訳を聞こうじゃありんせんか、杏子」
「言い訳? なんの?」
「とぼけるんじゃありんせんよ! あちきをだまして異界へ封じ込めたことに対して、何か言うことはありんせんのかって聞いてんだい!!」
アンコちゃんの眉がピクっと動く。
心外といった表情でアンコちゃんが口を開く。
「……騙して? 私が? いつ? 私は確かに言ったわよ。その時がきたら迎えに行くから、それまでここで大人しくしていなさいと」
「五百年もとじこめといて言うセリフかい!!」
ドドォォォォン……。
空はピーカンなのに、いきなり遠くでカミナリが落ちた。
伝説級の妖怪にまでなってしまうと、感情の変化が天候にまで影響を及ぼすってことなのかな。
「まぁでも、五百年は長いよね」
「ちょっと待たせすぎよね」
「そこ、茶化さないの!」
クウミさんの顔が真っ赤になっている。
ヤカン乗せたらあっという間にお湯が沸きそうなレベル。
口の端がピクピク痙攣しているのは、爆発寸前なところを必死に我慢しているからだ。
「じゃあ聞かせていただきんすけど。……その時っていつさ」
「そのうちさ」
「おぶしゃれるんじゃありんせんよ!!」
ドドォォォォォォッォオオオオン……。
落雷、さっきより近いね。
「黙って聞いてりゃ言いたい放題……」
アンコちゃんが顔を上げ、クウミさんをにらみつけた。
あまりにもポンポン責め続けられて、さすがのアンコちゃんもキレたってことなのだろう。
「あんたそう言うけどさ! そんな状態のまま解放してやるわけにはいかないじゃないの!! 離れて辛いのは自分だけだと思ってたの? 私だってよ! なんで私が相棒契約を解除していなかったと思う? いずれ再び、一緒に冒険をしたかったからに決まっているじゃないのさ。わざわざほこらの近くに住んで、毎日のようにあんたのことを考えて涙して……」
「……きょ、杏子?」
なんかほだされてる?
だが、和やかになりそうな雰囲気をぶち壊したのは、意外にもルナだった。
「そしてゲームざんまい、遊んでいたと。けっこうソフトが充実していたわね」
「る、ルナ? おーい、ルナさん? その辺にしといたほうがいいよぉ」
「やっぱりウソでありんしたのかい!」
ドドドドドドォォォォォォォォン!!
落雷で一瞬、視界が真っ白になった。
近いな、こりゃ。
「いいのよ。こういうのはトコトンやったほうがあとくされがなくなるってものよ」
「それで決定的な破局をもたらしたらどうすんのよ。ルナったら……」
「そこ! 外野、うるさい!」
アンコちゃんがビシっとあたしたちを指差す。
だって、ツッコミどころ満載なんだもん。
「魔法乙女には後継者ができんしたろう? ならあちきは必要ありんせん。どっちにしても用済みだ」
「何言ってるのよ。頼りない後輩たちに教えなきゃいけないことが山ほどあるんだから、まだまだ引退なんかできないわよ。ここを出たらアンタも手伝うの!」
「そんなの知ったことか! もう充分、もう充分でありんす。ならばやはり、主さんたちを倒して現世を残らず平らげるとしんしょう!」
言うが早いか、クウミさんは人間形態から巨大キツネへと変化した。
いや、デカい、デカい、デカい、デカい。
ホント小山。もう、学校の校舎レベルだよ。
クウミさんは大きく口を開くと、あたしたちに向かって燃え盛る巨大な火の玉を吐いた。
「「「きゃぁぁぁぁあああああ!!」」」
とっさのことに対処できずその場に立ち尽くしたあたしたちは、一瞬で炎に包まれた。
反射的に目をつぶるも、熱波があたしたちを飲みこむことはなかった。
熱くない。おそるおそる目を開く。
「ってあれれ? なんで?」
『ほっほ。間に合ったようじゃの』
『言うほど余裕はなかったですけどね』
「玄武さま! 青龍さま!」
気づくと、あたしたちを囲むように人間形態の聖獣さまたちが立っていた。
燃えさかる炎の柱の中にすっぽり入ってしまったあたしたちを護るかのようにバリアを張ってくれている。
『とはいえ、あんまりもたねぇぞ!』
『今の弱った私たちでは二撃目を防ぐのは無理よ。最後の力を振りしぼって炎柱を吹き飛ばすから、その隙に変身なさい、魔法乙女!』
「ありがとうございます、白虎さま! 朱雀さま!」
あたしとルナはうなずくと、すばやく変身ポーズをとった。
気合は充分。いくよ!
「「願いかなえたまえ! 変身!!」」
かけ声とともに大きく二回、柏手を打つ。
それを合図に両腕のブレスレットがうなりをあげて回転する。
直後、炎柱が吹っ飛び、聖獣さまたちの姿が薄れて消えた。
と同時に、二撃目の火の玉があたしたちを直撃するも、一瞬早くあたしたちを覆った魔法のフィールドがそれを弾き飛ばした。
変身中は無敵時間が発生しているから一切のダメージを負わない。
想い……っていうより思いこみの力、すごい!
とここで、あたしの隣にいたアヤちゃんが光と化してブレスレットに吸い込まれた。
「え? あれ? アヤちゃん? アヤちゃん!」
慌てる間もなくブレスレットから炎の龍が飛び出し、あたしの周囲をグルグルと激しく飛び回る。
火の粉があたしに降りかかるたびに、服がみるみる新たな服へと変化していく。
巫女の白衣、膝上二十センチの赤い袴、白のニーハイソックス、そして赤い鼻緒の草履と、いつもの格好になったところで、前ぶれもなく腰の後ろに大きな赤いリボンがブワっと生えた。
あたしは赤、ルナは青。
リボン本体は帯のお太鼓くらい大きいし、たれなんかふくらはぎに達するくらい長い。
「なに、このリボン! 可愛いけど、どうなってんの!?」
「アヤだよ、アサヒお姉ちゃん! 一緒にいさせて!」
困惑するあたしに向かってリボンが声を発した。
「アヤちゃん!? そうか、クウミさんの言ってたしっぽって、このことだったのね? そうと分かれば百人力だわ。あたしたちの力で、二人を仲直りさせてあげよう!」
「うん!」
そこに、直上から炎の龍が突っ込んできて、あたしと融合した。
分身の証たる猫耳としっぽ、首輪が消え、代わりにこめかみの位置に一対の龍のツノが生える。
あたしとルナの視線が交差する。
よし、二人そろって決めポーズ!!
「魔法乙女・アサヒ!!」
「魔法乙女・ルナ!!」
「「妖怪退治はおまかせあれ!!」」
バババババァァァァァアアアアアアン!!
あふれる魔力が花火のように派手派手しく飛び散る。
完全体になったからか、花火の内容がいつもより多い気がするんだけど、まぁヨシとしよう。
「よし。二人とも、あとはまかせた」
「ちょ、ちょっとアンコさん、丸投げですか!?」
言うだけ言ってとっとと避難したアンコちゃんを見て、さすがにルナが慌てる。
まぁ確かにね。大人って! って思わないじゃないけど、ここは一つ、ポジティブシンキングで行こうじゃないのさ。
「ルナ? ここは真打登場ってヤツだよ。二代目の実力を見せつけてやろうじゃないのさ!」
「アサヒ、あんたって子は……。あっはっは! その案、乗った!!」
不安一転、ルナが楽しそうに、あたしにウィンクを飛ばす。
上空から睨めつけてくる巨大クウミさんに向かって、あたしたちは不敵な笑みを浮かべたのでした。
朝の九時。青い空。白い雲。遠くでトンビが飛んでいる。
いやぁ、実にのどかだね。……ここ以外は。
そう。あたし、ルナ、モコ太くん、アヤちゃんの四人が見守るなか、アンコちゃんとクウミさんがバチバチと火花を飛ばしていた。
白衣に緋袴、千早と、上から下までバッチリ巫女装束で身を固めたアンコちゃんと、絢爛豪華な花魁の衣装を着込んだクウミさんとが親の仇でも見るような表情でにらみ合っている。
それにしても、さすがに先代の魔法乙女だけあって迫力がハンパない。
空気が震える音が聞こえてきそうな気さえする。
口火を切ったのは、クウミさんのほうだった。
「まずは言い訳を聞こうじゃありんせんか、杏子」
「言い訳? なんの?」
「とぼけるんじゃありんせんよ! あちきをだまして異界へ封じ込めたことに対して、何か言うことはありんせんのかって聞いてんだい!!」
アンコちゃんの眉がピクっと動く。
心外といった表情でアンコちゃんが口を開く。
「……騙して? 私が? いつ? 私は確かに言ったわよ。その時がきたら迎えに行くから、それまでここで大人しくしていなさいと」
「五百年もとじこめといて言うセリフかい!!」
ドドォォォォン……。
空はピーカンなのに、いきなり遠くでカミナリが落ちた。
伝説級の妖怪にまでなってしまうと、感情の変化が天候にまで影響を及ぼすってことなのかな。
「まぁでも、五百年は長いよね」
「ちょっと待たせすぎよね」
「そこ、茶化さないの!」
クウミさんの顔が真っ赤になっている。
ヤカン乗せたらあっという間にお湯が沸きそうなレベル。
口の端がピクピク痙攣しているのは、爆発寸前なところを必死に我慢しているからだ。
「じゃあ聞かせていただきんすけど。……その時っていつさ」
「そのうちさ」
「おぶしゃれるんじゃありんせんよ!!」
ドドォォォォォォッォオオオオン……。
落雷、さっきより近いね。
「黙って聞いてりゃ言いたい放題……」
アンコちゃんが顔を上げ、クウミさんをにらみつけた。
あまりにもポンポン責め続けられて、さすがのアンコちゃんもキレたってことなのだろう。
「あんたそう言うけどさ! そんな状態のまま解放してやるわけにはいかないじゃないの!! 離れて辛いのは自分だけだと思ってたの? 私だってよ! なんで私が相棒契約を解除していなかったと思う? いずれ再び、一緒に冒険をしたかったからに決まっているじゃないのさ。わざわざほこらの近くに住んで、毎日のようにあんたのことを考えて涙して……」
「……きょ、杏子?」
なんかほだされてる?
だが、和やかになりそうな雰囲気をぶち壊したのは、意外にもルナだった。
「そしてゲームざんまい、遊んでいたと。けっこうソフトが充実していたわね」
「る、ルナ? おーい、ルナさん? その辺にしといたほうがいいよぉ」
「やっぱりウソでありんしたのかい!」
ドドドドドドォォォォォォォォン!!
落雷で一瞬、視界が真っ白になった。
近いな、こりゃ。
「いいのよ。こういうのはトコトンやったほうがあとくされがなくなるってものよ」
「それで決定的な破局をもたらしたらどうすんのよ。ルナったら……」
「そこ! 外野、うるさい!」
アンコちゃんがビシっとあたしたちを指差す。
だって、ツッコミどころ満載なんだもん。
「魔法乙女には後継者ができんしたろう? ならあちきは必要ありんせん。どっちにしても用済みだ」
「何言ってるのよ。頼りない後輩たちに教えなきゃいけないことが山ほどあるんだから、まだまだ引退なんかできないわよ。ここを出たらアンタも手伝うの!」
「そんなの知ったことか! もう充分、もう充分でありんす。ならばやはり、主さんたちを倒して現世を残らず平らげるとしんしょう!」
言うが早いか、クウミさんは人間形態から巨大キツネへと変化した。
いや、デカい、デカい、デカい、デカい。
ホント小山。もう、学校の校舎レベルだよ。
クウミさんは大きく口を開くと、あたしたちに向かって燃え盛る巨大な火の玉を吐いた。
「「「きゃぁぁぁぁあああああ!!」」」
とっさのことに対処できずその場に立ち尽くしたあたしたちは、一瞬で炎に包まれた。
反射的に目をつぶるも、熱波があたしたちを飲みこむことはなかった。
熱くない。おそるおそる目を開く。
「ってあれれ? なんで?」
『ほっほ。間に合ったようじゃの』
『言うほど余裕はなかったですけどね』
「玄武さま! 青龍さま!」
気づくと、あたしたちを囲むように人間形態の聖獣さまたちが立っていた。
燃えさかる炎の柱の中にすっぽり入ってしまったあたしたちを護るかのようにバリアを張ってくれている。
『とはいえ、あんまりもたねぇぞ!』
『今の弱った私たちでは二撃目を防ぐのは無理よ。最後の力を振りしぼって炎柱を吹き飛ばすから、その隙に変身なさい、魔法乙女!』
「ありがとうございます、白虎さま! 朱雀さま!」
あたしとルナはうなずくと、すばやく変身ポーズをとった。
気合は充分。いくよ!
「「願いかなえたまえ! 変身!!」」
かけ声とともに大きく二回、柏手を打つ。
それを合図に両腕のブレスレットがうなりをあげて回転する。
直後、炎柱が吹っ飛び、聖獣さまたちの姿が薄れて消えた。
と同時に、二撃目の火の玉があたしたちを直撃するも、一瞬早くあたしたちを覆った魔法のフィールドがそれを弾き飛ばした。
変身中は無敵時間が発生しているから一切のダメージを負わない。
想い……っていうより思いこみの力、すごい!
とここで、あたしの隣にいたアヤちゃんが光と化してブレスレットに吸い込まれた。
「え? あれ? アヤちゃん? アヤちゃん!」
慌てる間もなくブレスレットから炎の龍が飛び出し、あたしの周囲をグルグルと激しく飛び回る。
火の粉があたしに降りかかるたびに、服がみるみる新たな服へと変化していく。
巫女の白衣、膝上二十センチの赤い袴、白のニーハイソックス、そして赤い鼻緒の草履と、いつもの格好になったところで、前ぶれもなく腰の後ろに大きな赤いリボンがブワっと生えた。
あたしは赤、ルナは青。
リボン本体は帯のお太鼓くらい大きいし、たれなんかふくらはぎに達するくらい長い。
「なに、このリボン! 可愛いけど、どうなってんの!?」
「アヤだよ、アサヒお姉ちゃん! 一緒にいさせて!」
困惑するあたしに向かってリボンが声を発した。
「アヤちゃん!? そうか、クウミさんの言ってたしっぽって、このことだったのね? そうと分かれば百人力だわ。あたしたちの力で、二人を仲直りさせてあげよう!」
「うん!」
そこに、直上から炎の龍が突っ込んできて、あたしと融合した。
分身の証たる猫耳としっぽ、首輪が消え、代わりにこめかみの位置に一対の龍のツノが生える。
あたしとルナの視線が交差する。
よし、二人そろって決めポーズ!!
「魔法乙女・アサヒ!!」
「魔法乙女・ルナ!!」
「「妖怪退治はおまかせあれ!!」」
バババババァァァァァアアアアアアン!!
あふれる魔力が花火のように派手派手しく飛び散る。
完全体になったからか、花火の内容がいつもより多い気がするんだけど、まぁヨシとしよう。
「よし。二人とも、あとはまかせた」
「ちょ、ちょっとアンコさん、丸投げですか!?」
言うだけ言ってとっとと避難したアンコちゃんを見て、さすがにルナが慌てる。
まぁ確かにね。大人って! って思わないじゃないけど、ここは一つ、ポジティブシンキングで行こうじゃないのさ。
「ルナ? ここは真打登場ってヤツだよ。二代目の実力を見せつけてやろうじゃないのさ!」
「アサヒ、あんたって子は……。あっはっは! その案、乗った!!」
不安一転、ルナが楽しそうに、あたしにウィンクを飛ばす。
上空から睨めつけてくる巨大クウミさんに向かって、あたしたちは不敵な笑みを浮かべたのでした。



