「クウミさん宛ての軟膏は確かにお預かりしました。行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気をつけて」
こうして今日も今日とてほこらから九尾の島へと転移したあたしたちは、一路、北を目指した。
目的地は玄武さまのほこら。
草ぼうぼうの野っ原を、ホバーボードに乗ってひたすら北へと進む。
ほら、あたしたち子どもじゃん? 遊びに対する適応力は大人に比べて高いじゃん? さすがに三回目ともなると多少はボードの扱いも上手になるわけよ。
最初はへっぴり腰で乗ってたけど、今じゃ自由自在。どうよ!
「ねぇルナ。このボードはアンコちゃんがデフォルトとして用意してくれたのよね?」
「そうね。歩きで移動するのは辛いでしょって。それがどうかした?」
「魔法は想いの力って言ってたじゃん? なら追加でさ……」
あたしはボードに乗りながら両手を真っ直ぐ前に出した。
イメージ、イメージ。精霊さんに正しくビジョンを伝えてあげて……。
あたしの思考を受け取った両手首の腕輪が、光を発しつつ高速回転を始める。
すぐ隣で疾走しているルナが興味津々といった表情であたしを見ている。
「出でよ、風はらむ衣!!」
次の瞬間、あたしの両手の先から前方上空に向かって巨大な光の布が現れ、風をはらんだ。
進行方向に風の力を受けたせいで、一気にホバーボードのスピードが跳ね上がる。
「うぅひゃほぉぉっぉぉお!! これ気持ちい……お? おぉ? あひゃぁぁぁぁああああ!!」
ヤバい! 足が浮いた。空を飛んじゃってる。制御不能!
「アサヒ!! 法具顕現、光のムチ!!」
すかさず右手に光のムチを出したルナが、ムチをあたしのお腹の辺りに巻きつけた。
おかげでどっか飛ばされることはなくなったけど、あたしは凧とルナとに引っ張られて宙づり状態。
「ぐえぇ。おなかが絞まるぅぅぅ! り、リバースしそう!!」
「やめなさい! カイトが大きすぎるのよ! わたしが抑えているあいだに、もうちょっと小さめな布をイメージしなさい!」
「ふほぉぉぉぉい」
おなかを絞められてあぶら汗を垂らしながらも小さめのカイトにすると、派手に浮くことはなくなった。たまにちょっと浮くくらい。
次第にコントロールにも慣れてくる。
でもスピードは前より格段に出ている。これなら目的地まで早く着けそう。
カイトが順調に進むようになったのを見届けたルナは、あたしのお腹からムチをはずすと、同じようにカイトを出現させた。
あたしの失敗を教訓にしているからか、実に優雅にカイトを操っている。
「へぇ。これはなかなか面白いわね」
「ズルいぞ、ルナ!」
「……何を言っているのよ、あんたは」
そうやっていつもより早く移動したあたしたちの前方に、やがて巨大な壁が見えてきたのでした。
◇◆◇◆◇
「これ?」
「これ」
「ウソでしょ?」
「でも、アンコさんの教えてくれた通りの場所よ?」
「……これが?」
あたしは視線を上に上にと伸ばした。
斜めどころじゃない。ほぼ真上。断崖絶壁。
頂上なんか遠すぎて、ここからじゃまったく見えない。
さすがにこんな崖の下から突風が吹くわけでもないから、カイトは当然使えない。
エレベーターでもあれば最高なんだけど、岸壁にあるのはちょっとした段差や点々と生えた木くらいで、あとは何にもない。
こんなの登れるのはヤギだけだよ。
「どうやって登れってのさ」
「地道にロッククライミングするしかないでしょ。とりあえず変身しましょう」
「正気!? あーもぅ!」
文句を言いつつも魔法乙女に変身したあたしとルナは、前方の岸壁に手をかけた。
確かに変身した状態なら握力も脚力も倍増しているから、多少のロッククライミングならできるはず。
変身状態だから万が一足を滑らせても魔法を使って絶壁に戻れるはず……魔法? それだぁ!!
あたしは両手のひらを開くと、手を正面の岸壁に向かって伸ばした。
「アサヒ?」
「法具顕現、移動光輪!!」
ブレスレットの回転とともに、あたしの手のひらの前に、お掃除ロボットサイズの光の輪が現れた。うん、イメージ通り。
ルナが首をかしげる。
「そんなのでどうしようっていうの?」
「これで登る。そぉれぇぇぇえ!!」
あたしは両手のひらを目の前の崖に近づけた。とたんに光の輪が崖に吸いつく。
まるで二頭の犬によってリードが引っ張られるかのように、あたしの手首が上に引かれ、そして足が浮き、そのままゆっくりと上に進んだ。
「ほら見て、ほら見て! よぉし、この魔法をワンコと名づけよう! わっはは!!」
五分ほどかかって途中に生えた木まで辿りついたあたしは、壁に寄りかかってふぅっと息をついた。
集中が途切れたからか、そこで光の輪が消える。
「これ、何回か繰り返せば上まで行けるかな。ルナ! おいでよぉ!!」
何十メートルも距離が離れたからその顔は分からないけど、ルナが一瞬光った。
程なくルナもあたしのところまで登ってくる。
ルナは要領がいいからね。あっという間にコツをつかんだみたい。
「ルナ、どう? いけそう?」
「あんたの発想力にはホント脱帽だわ。いけそうだけど、さすがに怖いわね。もう地面があんなに下にある」
「見ちゃ駄目だよ。集中力を切らさなければ上まで行ける。がんばろう!」
「そうね」
岸壁に貼りつきつつ二人して上を見たその瞬間――。
「ちょおぉぉぉぉぉっと待ちなぁぁぁあああ!」
「待つですよぉぉぉ!!」
「「だれ!?」」
それは、なんと壁に対して垂直に立つ、青い忍び装束と赤い忍び装束を着た園児たちだった。
って、待て待て待て待て。忍術、すごい!!
「「モコ太くん! アヤちゃん!!」」
「おはよう、アサヒ姉ちゃん、ルナ姉ちゃん。っと、違った違った。……魔法乙女よ、よくぞここまでたどり着いた! 野狐たちを倒して上がってくるがいい!」
「くるがいいよ!」
鉄鼠の兄妹・モコ太とアヤは、言うだけ言うと、平然と崖を走って上に行ってしまった。
見た目、園児の仮装にしか見えないのに、さすが忍者と言うべきか。
唖然として見送ったあたしたちの動きが止まる。
「……今、野狐たちって言った?」
「え? どこから?」
それは真下からだった。
いつの間にやら、わたしたちの直下の崖下に、何かの生き物がワラワラと集まってきているのが見える。
間違いなく野狐だろう。
崖下に集まった野狐たちは、見る間に、垂直に屹立する岩壁を登り始めたのでした。
「行ってらっしゃい。気をつけて」
こうして今日も今日とてほこらから九尾の島へと転移したあたしたちは、一路、北を目指した。
目的地は玄武さまのほこら。
草ぼうぼうの野っ原を、ホバーボードに乗ってひたすら北へと進む。
ほら、あたしたち子どもじゃん? 遊びに対する適応力は大人に比べて高いじゃん? さすがに三回目ともなると多少はボードの扱いも上手になるわけよ。
最初はへっぴり腰で乗ってたけど、今じゃ自由自在。どうよ!
「ねぇルナ。このボードはアンコちゃんがデフォルトとして用意してくれたのよね?」
「そうね。歩きで移動するのは辛いでしょって。それがどうかした?」
「魔法は想いの力って言ってたじゃん? なら追加でさ……」
あたしはボードに乗りながら両手を真っ直ぐ前に出した。
イメージ、イメージ。精霊さんに正しくビジョンを伝えてあげて……。
あたしの思考を受け取った両手首の腕輪が、光を発しつつ高速回転を始める。
すぐ隣で疾走しているルナが興味津々といった表情であたしを見ている。
「出でよ、風はらむ衣!!」
次の瞬間、あたしの両手の先から前方上空に向かって巨大な光の布が現れ、風をはらんだ。
進行方向に風の力を受けたせいで、一気にホバーボードのスピードが跳ね上がる。
「うぅひゃほぉぉっぉぉお!! これ気持ちい……お? おぉ? あひゃぁぁぁぁああああ!!」
ヤバい! 足が浮いた。空を飛んじゃってる。制御不能!
「アサヒ!! 法具顕現、光のムチ!!」
すかさず右手に光のムチを出したルナが、ムチをあたしのお腹の辺りに巻きつけた。
おかげでどっか飛ばされることはなくなったけど、あたしは凧とルナとに引っ張られて宙づり状態。
「ぐえぇ。おなかが絞まるぅぅぅ! り、リバースしそう!!」
「やめなさい! カイトが大きすぎるのよ! わたしが抑えているあいだに、もうちょっと小さめな布をイメージしなさい!」
「ふほぉぉぉぉい」
おなかを絞められてあぶら汗を垂らしながらも小さめのカイトにすると、派手に浮くことはなくなった。たまにちょっと浮くくらい。
次第にコントロールにも慣れてくる。
でもスピードは前より格段に出ている。これなら目的地まで早く着けそう。
カイトが順調に進むようになったのを見届けたルナは、あたしのお腹からムチをはずすと、同じようにカイトを出現させた。
あたしの失敗を教訓にしているからか、実に優雅にカイトを操っている。
「へぇ。これはなかなか面白いわね」
「ズルいぞ、ルナ!」
「……何を言っているのよ、あんたは」
そうやっていつもより早く移動したあたしたちの前方に、やがて巨大な壁が見えてきたのでした。
◇◆◇◆◇
「これ?」
「これ」
「ウソでしょ?」
「でも、アンコさんの教えてくれた通りの場所よ?」
「……これが?」
あたしは視線を上に上にと伸ばした。
斜めどころじゃない。ほぼ真上。断崖絶壁。
頂上なんか遠すぎて、ここからじゃまったく見えない。
さすがにこんな崖の下から突風が吹くわけでもないから、カイトは当然使えない。
エレベーターでもあれば最高なんだけど、岸壁にあるのはちょっとした段差や点々と生えた木くらいで、あとは何にもない。
こんなの登れるのはヤギだけだよ。
「どうやって登れってのさ」
「地道にロッククライミングするしかないでしょ。とりあえず変身しましょう」
「正気!? あーもぅ!」
文句を言いつつも魔法乙女に変身したあたしとルナは、前方の岸壁に手をかけた。
確かに変身した状態なら握力も脚力も倍増しているから、多少のロッククライミングならできるはず。
変身状態だから万が一足を滑らせても魔法を使って絶壁に戻れるはず……魔法? それだぁ!!
あたしは両手のひらを開くと、手を正面の岸壁に向かって伸ばした。
「アサヒ?」
「法具顕現、移動光輪!!」
ブレスレットの回転とともに、あたしの手のひらの前に、お掃除ロボットサイズの光の輪が現れた。うん、イメージ通り。
ルナが首をかしげる。
「そんなのでどうしようっていうの?」
「これで登る。そぉれぇぇぇえ!!」
あたしは両手のひらを目の前の崖に近づけた。とたんに光の輪が崖に吸いつく。
まるで二頭の犬によってリードが引っ張られるかのように、あたしの手首が上に引かれ、そして足が浮き、そのままゆっくりと上に進んだ。
「ほら見て、ほら見て! よぉし、この魔法をワンコと名づけよう! わっはは!!」
五分ほどかかって途中に生えた木まで辿りついたあたしは、壁に寄りかかってふぅっと息をついた。
集中が途切れたからか、そこで光の輪が消える。
「これ、何回か繰り返せば上まで行けるかな。ルナ! おいでよぉ!!」
何十メートルも距離が離れたからその顔は分からないけど、ルナが一瞬光った。
程なくルナもあたしのところまで登ってくる。
ルナは要領がいいからね。あっという間にコツをつかんだみたい。
「ルナ、どう? いけそう?」
「あんたの発想力にはホント脱帽だわ。いけそうだけど、さすがに怖いわね。もう地面があんなに下にある」
「見ちゃ駄目だよ。集中力を切らさなければ上まで行ける。がんばろう!」
「そうね」
岸壁に貼りつきつつ二人して上を見たその瞬間――。
「ちょおぉぉぉぉぉっと待ちなぁぁぁあああ!」
「待つですよぉぉぉ!!」
「「だれ!?」」
それは、なんと壁に対して垂直に立つ、青い忍び装束と赤い忍び装束を着た園児たちだった。
って、待て待て待て待て。忍術、すごい!!
「「モコ太くん! アヤちゃん!!」」
「おはよう、アサヒ姉ちゃん、ルナ姉ちゃん。っと、違った違った。……魔法乙女よ、よくぞここまでたどり着いた! 野狐たちを倒して上がってくるがいい!」
「くるがいいよ!」
鉄鼠の兄妹・モコ太とアヤは、言うだけ言うと、平然と崖を走って上に行ってしまった。
見た目、園児の仮装にしか見えないのに、さすが忍者と言うべきか。
唖然として見送ったあたしたちの動きが止まる。
「……今、野狐たちって言った?」
「え? どこから?」
それは真下からだった。
いつの間にやら、わたしたちの直下の崖下に、何かの生き物がワラワラと集まってきているのが見える。
間違いなく野狐だろう。
崖下に集まった野狐たちは、見る間に、垂直に屹立する岩壁を登り始めたのでした。



