奇跡と呼ぶには

「んで、どーしたの?かしこまっちゃって」

撮影終わり、連れてこられた会議室。
痛いほど張り詰めた空気を変えようとしたのは、同じくメンバーの本田凪咲(ほんだ なぎさ)だった。

「私、アイドルやめようと思う」

俯いた音葉の表情は見えない。
彼女が、何を思っているのか。

「...うそ、でしょ」

今にも泣きそうな顔で言うのは高瀬真白(たかせ ましろ)。
彼女の整った顔と相まって、ドラマのワンシーンのようにさえ感じる。

「ねえ、嘘だよね?なんかのドッキリ?」

「...」

「なんか言ってよ!!!」

「陽奈っ」

陽奈が掴みかかる勢いで身を乗り出すから、流石に危ないと止めに行く。

「莉愛は黙ってて!!」

陽奈より身長が低い私・上原莉愛(うえはら りあ)はすぐに払われてしまう。

「ひーな、落ち着きな。顔に怪我したらどうすんの」

こんな時、凪咲は本当に大人だ。

「...ごめん、陽奈」

「音葉も急にやめるなんてどうしたの?理由も分かんないのに、はいそうですかなんてならないよ」

「嫌ってくれていいよ。もう決めたから」

「音葉。答えになってない」

「今までありがとう。」

しあわせになってね
部屋から出ていく音葉が呟いたそれを聞いたのは、きっと私だけだった。