「なっ……!?」
彰が目を丸くして声の主を見る。
私も驚いて横を向くと、ついさっきまでスポーツ新聞を広げて顔を隠していた大柄な男が、バサリと新聞を畳んで立ち上がるところだった。
仕立ての良いダークスーツ。神経質そうに整えられた前髪の奥で、鋭い三白眼が獲物を射抜くように彰を見下ろしている。
「お、折原さん!? なんでここに……!」
「お前のような奴が一人でまともに交渉できるわけがないだろうと踏んだ。保護者同伴だ」
折原さんは悪びれる様子もなく言い放つと、私の隣にどかと腰を下ろし、長い足を組んだ。
「ちょっと、誰だよあんた。僕と彼女の個人的な話に割り込まないでもらえるかな」
ペースを乱された彰が、露骨に不快そうな顔で折原さんを睨みつける。しかし、折原さんは微塵も動じない。懐からスッと一枚の名刺を取り出し、テーブルの上を滑らせた。
「彼女の代理人を務める弁護士の折原だ。
個人的な話? 冗談を言うな。先ほどあなたが口にした『資金繰り』『追加の融資』『返済の遅延』。これは立派な金銭トラブルであり、法的介入の余地が十二分にある」
「べ、弁護士……?」
彰の顔から、さっきまでの余裕ぶった笑みが綺麗に剥がれ落ちた。
「さて、高見彰さん。先ほどの質問に答えていただこう。事業が軌道に乗るという根拠となる財務状況の開示、ならびに、前回彼女から借り入れた10万円の使途を証明する領収書の提示を求める。できないとは言わせない。まさか『経営者』ともあろう者が、帳簿もつけずに他人から金を引っ張っているわけではないだろう?」
「そ、それは……会社の機密事項で……」
「なるほど、機密ね。では質問を変えよう。あなたが代表を務めるという『株式会社インテグラルソフト』だが、昨夜、法人登記を確認したところ存在しなかった。これはどういうことだ?」
「っ……!」
彰の顔が、今度は目に見えて蒼白になった。
私は思わず京一を見た。昨夜? 法人登記?
ちょっと待って、この人、私が今日会うって言っただけで、そこまで調べてたの……!?
「架空の法人を名乗り、返済の意思も能力もないのに現金を要求する。これは詐欺罪を構成する要件を完璧に満たしている。
ちなみに、あなたが今腕に巻いているそのロレックス、型番は116500LNのデイトナと見受けられるが、パチモンの出来としては三流だな。ベゼルの刻印が甘すぎる」
「〜〜〜っ!!」
逃げ道を完全に塞がれ、見栄まで粉々に打ち砕かれた彰は、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「お、覚えてろよ!!」
捨て台詞とも呼べないような情けない悲鳴を残し、彰は店から逃げるように走り去っていった。
残されたテーブルには、冷めきったコーヒーと、呆然とする私。



