君がいてくれて。

翌日。朝早くに面会に来てくれたのはおばあちゃんだった。
「先生の方からお話は聞いたよ。お母さん達はまた仕事で来れないみたいだけれどおばあちゃんがついてるからね。」
「うんっ。おばあちゃん、ありがとう。」
そう言いながらも心のどこかではお母さんとお父さんへの寂しさを感じる。
もういつから会っていないんだろう……。
きっと仕事が忙しいんだよねっ……。
いつも寂しさを紛らわせるようにこの一言を心の中で繰り返していた。
「ごめんねぇ……。おばあちゃんしか会いに来れなくて……。またお母さん達にも声掛けて見るからね。」
「……いいのっ。きっとお母さんもお父さんも忙しいんだよねっ。ただでさえ病気の事で迷惑かけちゃってるからそんな申し訳ないことできない……。」
「優花ちゃん……。」
その後、おばあちゃんは先生とお話があると言って面会の部屋から出て行った。
ちゃんと考えてみれば心臓移植なんてお金がかかるし脳死と判断された人から移植するもの。
これは自分1人じゃ決めきれない大きな事だ。
「でもやらなかったら死んじゃうんだよね……。」
どちらも選べない……。
きっとこの事を樹くんに相談しても悩ませてしまうだけ。
……せめて紘くんに……。
そう思っていると昼過ぎ。樹くんは検査で来れないらしく紘くんが1人で会いに来てくれた。
「優花…!」
「紘くん……!来てくれたの……?」
「うん。樹は検査で来れないけどね。優花が目覚めたって聞いてから一回も会いに来れてなかったからさ。……それでどうだったの?先生から何か聞いた?」
「あ……えっと……。」
これはほんとに紘くんに言っていいことなんだろうか……。
言わない方がいいかな……。
私がそう思って黙り込むと紘くんははっとした表情になって少し暗い笑顔になった。
「言いにくいこともあるよ。大丈夫。無理して言わなくて。」
「いやっ、違うの。……実は……あまり心臓の状態が良くなくて。もう治療法がないって言われた。」
「……え……?」
紘くんのそんな小さな声が聞こえたあと、また部屋は
沈黙に包まれる。
「あとは心臓移植しかないんだって。」
「え、いやちょっと待って、そんな急に?」
「……うん。」
私がそう返事をすると口を開けたまま紘くんは固まってしまった。
急に言われても困るだけだよね……。
「それ、樹には……。」
「まだ言ってないの。というか言わないでおこうと思う。きっと樹くんのことだから心配させちゃうもんっ…。」
「……ははっ。優花らしいや……。」
乾いた笑いと少し暗い声に私が声を詰まらせると紘くんは下を向いて目頭を押さえた。
「優花はさ……樹の事が好きなんじゃない……?」
「え?」
「好きな人の事は困らせたくない。優花の気持ちは今そうなんじゃないかな。」
「……。分からない……。」
そう言って自分の手を握りしめると紘くんは優しい笑顔を浮かべて立ち上がった。
「僕の方こそ、急にこんな事言ったら困らせるだけだよね。……また会いに来るよ。樹と一緒に。」
「あっ、うんっ。ありがとう……!」
手を振って面会室を出て行く紘くんに手を振り返して
力が抜けるように腕を下ろす。
「私が樹くんの事を好きなの……?」
そんな私が自分の気持ちに気づけるのはまだ先の話かもしれない。