君がいてくれて。

12月に入って一段と気温が下がってきたある日。
星川先生にしっかり防寒着を着て暖かくしていくことを条件に許可をもらって私と樹くん、紘くんの3人で中庭に遊びに行くことになった。
「雪で遊ぶなんていつぶりだろ…。」
「だね!紘、寒いから行かないとか言いそうだったのに意外と来る派なんだね。」
「うん。まあ、雪は好きだし。」
私の先を歩く2人はそんな話をしていて私はその2人を眺めながら微笑んだ。
ふと窓の方に目を向けると空からふわふわと雪が降ってきている。
「あっ、2人とも…!また雪降ってきたよ…!」
「え!ほんと!?紘!行くよ!」
「え!?ちょ、ちょっと!手引っ張らないで!」
走り出した2人に私も何とかついて行く。
中庭に着くとすぐにドアを開けて樹くんは雪景色の中に飛び込んで行った。
「ははっ…、樹元気だな…。」
「そうだねっ…。星川先生が最近は樹くん、調子がいいって言ってたし治療も頑張ってたもんね。」
「うん。」
雪をすくい上げて上に向かって撒き散らした樹くんを見て私と紘くんは顔を見合わせて微笑んだ。
「ほら〜!2人ともおいでよ〜!」
「はいはい!…僕たちも行こっか。」
「うん!」

「おらっ!」
「ちょっと!後ろから狙うのずるいって!」
雪合戦をしている2人の横で私は雪だるまを作るべく雪玉をずっと丸めて転がしていた。
「よしっ…。」
1つ目の大きな雪玉ができた時、後ろから雪を踏む音が聞こえて服を引っ張られた。
「うわっ…!」
後ろに尻もちをついてしまって腰を擦りながら振り向くと小さな女の子がこちらを見つめていた。
「ど、どうしたのかなっ…?お母さんは…。」
そう訪ねると女の子の後ろからお母さんらしき女性が走ってきた。
「ご、ごめんなさい!ほら!行くよ!」
「いやっ…!大丈夫ですよっ…!」
お母さんは女の子を連れて行こうとして手を握っているけれど一向に動く気配はなくずっと私の服を握っている。
「…一緒に遊ぶ?」
私がそう一言だけ聞くとゆっくりと女の子は頷いた。
樹くんと紘くんも遊ぶ手を止めてこちらを見ていて、女の子がそう答えたのを見るとこちらに歩み寄ってきた。
「名前は?」
「…葵。」
「葵ちゃんか。よろしくね。」
紘くんは葵ちゃんを持ち上げると頭を優しく撫でた。
「…葵ちゃんのお母さん。葵ちゃんと少しだけ遊ばせてもらってもいいですか?僕たちも少ししたら戻らなきゃいけないのでそれまで。」
樹くんが葵ちゃんのお母さんに笑顔で聞くと涙を少し浮かべて頭を下げた。
「あ、ありがとうございますっ…。」
「…葵ちゃんのお母さん。廊下にベンチがあるので少しそこで休まれてくださいっ…。顔色が少し悪いような気がしますっ…。」
顔色が少し悪くて目の下にクマがてきている葵ちゃんのお母さん。
「ごめんなさい。ありがとう。」
葵ちゃんのお母さんはそう言って1歩歩き出すとふらっと体が横に傾いた。
「危ないっ…!」
危機一髪の所で樹くんが受け止めるとお母さんはハッとした様子で立ち上がった。
「無理に動かない方がいいですよ!」
「ベンチまで付き添いますねっ…。」
「ありがとう…。」
ベンチに座ると力が抜けたように背もたれに体を預けた。
「先生呼んで来ましょうか…?」
「いえっ…、大丈夫ですよっ。ありがとう…。」
「全然大丈夫ですっ…!…お隣失礼してもいいです
か…?」
「ええ、もちろん。」
先程よりは明るい笑顔にほっとしながら隣に座らせてもらう。
葵ちゃんは喘息持ちでたまに長期入院することがあるらしい。お父さんは単身赴任中で寝泊まりしているのはずっとお母さん。
夜も葵ちゃんの体調が悪くならないか心配で起きている事が多いとお話してくださった。
「入院している間はずっと不安で…。」
「でも、お母さんが体調崩しちゃったら大変ですよっ…。しっかり寝てくださいねっ…。」
「うん。ありがとう。優花ちゃん。」
お母さんはそう言うと中庭で樹くんと紘くんと一緒に雪を丸めて遊んでいる笑顔の葵ちゃんを見て微笑んだ。