クズにはクズのやり方で

「大丈夫よ。私ももう覚めちゃった。あれ見たら、酔っている人じゃなくても現実に戻るわよね」

 吉岡さんは京極綾人の方へ指をさして、微笑んでいた。

 タクシーの窓を閉めて、吉岡さんは帰っていた。

「そりゃそうですよね」

 私はタクシーに乗っていた吉岡さんを見て、一人でポツリと呟く。

「……あの? 前にお会いしたことありますよね?」

 後ろを振り向くと、京極綾人が眼鏡をくいっとあげて、私の顔を見上げていた。

 え? 覚えてるの。私のこと。

 いやいや、気のせいだよね。

 あのバーで話したくらいでと思い、私じゃないよねと京極綾人の声掛けに無視した。

「いやいや、あなたに声を掛けたんですよ」

「うん?」

 後ろを振り向いた私は首を傾げて、京極綾人に問い掛ける。

「……私ですか?」

「あなた以外、ここにいませんよ。覚えてます? 僕のこと」

 なんだ、この人は。

 今さっき、彼女と別れたんだよね。

 話すのは私じゃなく、彼女さんを追いかけて話さないといけないんじゃないの?

 私は心の中で思った。

 京極綾人は表情を変えなかった。

「…あ、はい。覚えてますけど」