『女神の加護を 受けし者は世界を救う』


初心者の森。
マリーが立っていた場所に、他の者の使用した魔法痕。
それは宇宙船による召喚ではなく。転移の魔法。
誰かがマリーをこの世界に呼んだ。そして過酷な運命を背負わせた。
許さない。見つけ出して、俺が殺す。

「レジェス先生、殺気立ってるねぇ。」
「君は。」
声がする方に視線を向けると、小さな少年。
弓矢を背負い。
「俺は将来、任命されるかどうか分からない勇者候補の一人。ジークハルト。まぁ、形(なり)は子どもだけど。記憶がある分、年寄り臭くなるね。」
そう言って近づき、俺が調べていた魔法陣の痕に触れる。
「ふん。使いの仕業だな。」
「知っているのか。」
詰め寄る俺に、冷静になるよう手で押され。
「殺せないよ、あなたには。肉体がない神の使い。天使の力だ。よく見ろ。魔法陣に似ているけど解読できないだろ。……本来、人は魔法を使えないはずなんだよね。魔術は神に禁じられている。」
その意味は。
何故、そんなことを知っているのか。
魔法について長年研究してきた俺が知らない情報。
しかも魔法の適性が無いジークハルト。
勇者候補に挙がったのは知っている。
「ジークハルト、君も繰り返しの中に居るのか。」
「あぁ。どんなに足掻いても、繰り返す。その結果、見つけたよ。君と同じように守りたい存在を。ずっと探していた“人”だ。あ、心配しなくてもマリーじゃない。これから依頼を一緒に受けるのは俺だけど。彼女にとっても俺は手段でしかない。……さて、どうするか。」
ジークハルトは空を見上げ。睨むように見つめ続ける。
どうするか。この魔法陣がジークハルトの言うように、天使によるものなら。
神の領域。俺には殺せない。この状況を受け入れるしかないのか。
俺に出来る事は何か。
「マリーを、この世界から解放する方法はないのか。」
「するつもりもないくせに。よく言うよ。」
最初に生じた怒りで、追い出しておけば良かったのだろうか。
それでも俺の魔法では限界がある。
「ジークハルト、君はどうするんだ?」
「そうだね。今回は勇者になれるだろう。それなら決まっている運命に従って、魔王を討伐するよ。」
俺に視線を向けたジークハルトの表情は、暗く見えた。
迷いでもあるのだろうか。
「明日、マリーは疑問もなく冒険者登録をする。幼さ。純粋さ。この世界を救うのだと。……残酷な希望を持たせて、吐き気がするね。この物語は佳境だよ。」
ジークハルトが言うように、マリーは純粋。
元の世界で得た知識。読んだ情報。最悪な状況など頭にもない。
だからこそ。
「マリーには火を使わせるな。手に入れようとするアイテムは、今回、本来の持ち主に渡す。……魂。炎の灯。触れて暴走するなど、マリーは知らないからね。」
あぁ、繰り返しの度に。
この世界を救えるのだと。入手して発動させた後は。魔力暴走。
「俺は、マリーを救えるかな?」
「救うのは、この世界だろ。」
「この世界が滅んでも、彼女を救う。俺が命を懸けて。」
「やめろ。言葉には力がある。それが魔法なんだ。……先に言う。俺はマリーを守らない。共に冒険をするのは、マリーが組み込まれたシナリオだから。」
マリーを救うのは俺だ。