初心者の森。
ここでの火災を最小限に抑える。しかし邪魔はしない。
双子の姉、適性のなかったガーネットが膨大な水の魔法で消火するのを見守る。
幼いマリーは、手のひらを上にではなく。真っすぐ前に向け。
火の魔法を発動させた。
試し打ち。それでも魔力の多さに、炎は木々を呑み込んでいく。
前もって偽の調査の依頼で集めた冒険者たちに、指示を出す。
事前に調査の為、周辺に近づかないように勧告もあった。
被害は最小限。
火災と水魔法での消火。
これは、病蔓延の薬を繁殖させるには必須条件。
なくてはならないイベント。シナリオ通り。
初めて魔力を使い、火災を目にして。
幼い頃のマリーには混乱と恐怖の出来事だっただろう。
倒れたマリーを抱え、ギルドのある町に戻る。
旅館の一室を借り、ベッドに寝かせた。
「本来なら、あなたもこの世界に来られないように遮断する事も可能。ですが、私が選んだのは。この世界にあなたを留める事だった。あの火災で、本来なら多くの冒険者が犠牲になり。その原因が魔法と知った私は、あなたに憎しみを宿した。死して当然と思う事も。……幼いあなたを目にし、生じたのは後悔。出来れば災害を起こす前に、あなたに出会って。何の障害もなく自由に魔法を使ってくれるのなら。……火災によって、結果的に病の蔓延を防ぐ薬が育つ環境が整った。火災による死傷者は回避できる。火災で亡くなった父の敵(かたき)として殺されるなど。俺が許さない。」
何度も繰り返し、記憶さえあれば回避できたであろう最悪の結末。
なんとかしてあげたいと、願うほどに。
マリーは恐怖があろうと魔法を使う事を選んできた。それは純粋さ故。
この世界で生き。本当は帰りたいと願ったのを知っている。
元の世界に。君が帰ることを諦めたのを目にしても、俺は何も言えなかった。
誰かが自分の使った魔法で死んだと、理解したから。
その怒りを買って殺され。それでも。俺が君を願ってしまったから。
俺達を誰が引き合わせたのか。
