『女神の加護を 受けし者は世界を救う』


目覚めると、そこは自分が普段使用していたベッドの上。
手は震え、全身を伝う汗。熱が奪われるような寒さ。
思い出せるのは、手を伸ばした先に居る婚約者と聖女。
仲睦まじく寄り添い。自分に向ける婚約者の視線は鋭く、怒りの表情で。
声を張り上げて告げる。婚約破棄と、断罪の言葉。
否定する間もなく、そこで意識は途切れた。
一体、自分の身に何が起こったのか。

「お嬢様!あぁ、目覚めたのですね。」
ベッドで身を起こした私を見つけ、侍女が歓喜の表情で駆け寄る。
婚約破棄された私に。まだこの家にとって、私の価値などあるのだろうか。
あんな断罪を大勢が目にし、噂もあっという間に広がっただろう。
「そうだわ、皆に知らせなければ。主治医も呼んで……」
取り乱し、慌てて走り去る侍女に問う時間もなく。
私はあの後、気を失ったのだろうか。
しかし何か違和感がある。
汗を拭おうと、手をこめかみに当てると髪の毛先が腕に触れた。
横髪が短い。血の気が引くのが自分でも分かる。
髪を切られてしまった?いつ。どうして。
理解できない状況に言い表せない恐怖。
ベッドから降り、鏡の前に走って向かう。
化粧台の鏡。目にしたのは幼い顔の私。
手を両頬に恐る恐る。指先が触れる感覚。
込み上げた感情に伴う叫び声が、部屋に響いた。
……私は時を遡ったのだ…………