『女神の加護を 受けし者は世界を救う』


「マリー、君を望む人がいる。俺が触れただけで、呪い殺されてしまいそうだ。」
私を望む?呪い?
顔を上げ、目元を拭う。
「今日は、ゆっくり休め。お迎えが来たんだ。」
距離をとって、ジークハルトは私の後ろを見つめる。
振り返ると、そこに居たのはレジェス先生。
「行け、俺が魔法で殺されかねない。殺気に満ちて。ふ。懐かしい感覚に、何故か微笑みそうだ。煽ったつもりはないんだけどな。」
ジークハルトに背を押され、私はレジェス先生の元に走った。
「先生、どうしてここに?はっ。勇者の事で何か。」
「いえ、行きましょう。マリ……マリー、顔色が悪い。ちゃんと寝ていないでしょう。数日、休日を与えます。これ以上の無理をするなら、魔法で眠らせますからね。」
「ごめんなさい。」
何故か怒られてしまった。
体調管理もできないのかと、反省。
頭にそっとレジェス先生の手が触れ、立ち止まる。
視線を向けると、近づいてくる顔。そっと額に触れるキス。
私は目を閉じた。
レジェス先生からの癒しの魔法。
思わず笑みが漏れてしまう。
唇はそっと離れ。目を開けると。レジェス先生の視線を受けたまま。
重なる唇。それは。
「私では、あなたの悩みを解消できないでしょうか。」
キスの後、そう悲しそうな表情で問われ。
私は顔を真っ赤にして。何も答えられなかった。
自分に何が起こったのか。

寮に帰り、ベッドに横になる。
無理をしてきた。その上、理解できない状況に知恵熱。
情けなさと、信じられない程の幸せ。
この世界で生きることを許されたようで。涙が零れる。
優しく触れる。冷たい布?手?
誰かが看病してくれているのかな。
「お母さん……ごめん。」
創作の物語。私が読んだどの話も、転移や転生でその世界で生きる楽しみ。
ワクワクやドキドキを無限に提供し。苦難も乗り越えて、ハッピーエンドを約束された王道。
これは現実。きっと帰れない。
帰りたい。これはゲームじゃない。
誰かを殺していたかもしれない。その罪悪感。
炎が自分を焼き尽くすような熱、息苦しさ。
自分が受けるべき罰なのではないかと。
誰かの為に死ぬ?そんな聖女みたいな高尚なものじゃない。
逃げ道として、決まった未来に少しでも自分が生きた証。
霞んだ視界。
「真理、あなたは私が守る。」
あぁ、私はあなたと生きたいと願う。