『女神の加護を 受けし者は世界を救う』


ライオネル様が見習いから正式に、最年少の神官になり。
雪解けの祭りが開催される次期。
神殿では薬草の話題が中心。
あぁ、病の蔓延。誰かが回避したんだと思った。
どの時期に自分がいるのかさえ、分かっていなかった。
自分の年齢と、ライオネル様の年齢差。
ジークハルトが私と同じ、年上になっているとして。
むしろ経験を積むには不利ではない。
10年くらい魔王の復活までに猶予があることになるのだろうか。
聖女の召喚もまだ先。私に出来る事。

レジェス先生から制御の方法を学び、学園を覆う結界を施すことに成功した。
完璧な防御。聖法の一つ。
適性があるから聖女候補にはなっているけれど。
私は相応しくない。
だから聖女見習いには、立候補しなかった。
私以外にゲームの事を知る人がいるのか。未来回避をした者がいる。
その人が、ゲームクリア必須のアイテムを持っているのだろうか。
考えても仕方ない。
聖女様の召喚は将来、確実に行われる。決定事項。
私はレジェス先生と共に魔法の研究に没頭する。
将来、魔王を討伐するなら必要な連携は必須。
私は、勇者に任命されないままのジークハルトと依頼を受けて実戦を増やしていく。

ところが。
勇者に任命されたのは、冒険者ロレインだった。
私は、どうすべきなのか。
明らかにゲームから逸脱した。
私がジークハルトと共に居たから?
転移したから何かバグでも起きているのだろうか。
勇者任命の知らせを受け、約束したジークハルトとの依頼に向かう事を戸惑う。
重い足取り。待ち合わせ場所。
「どうした、マリー。体調が悪いのか?そうなら、今日は俺だけで依頼を受けるけど。どこかで休むか。」
「行くわ!」
ここで一緒に行かなければ、死亡フラグのようで怖くなった。
「無理するなよ。」
優しいジークハルト。
何故。資質はゲームの設定と変わらず。何故、違う人が。
病の蔓延を防止した薬師の息子。料理のレシピを作ったのは妹。
未来回避したのはロレインの妹、幼いユニアミ。きっと転生者。
「ジークハルト、あなたは勇者として冒険に参加したいと思わないの?」
「は?勇者はなりたくないな。けど。行けるなら、魔王討伐に参加したい。あいつを殺すのは俺だ。」
あいつ。まるで、知り合いみたいなセリフ。それは。
「マリー?最近、特に無理をしているように見える。」
無理を。無我夢中。何かに没頭していなければ、余計な事を考えてしまうから。
零れ落ちた何か。無意識の涙。
「あれ、何で。」
次々に零れ落ち、止めどなく流れていく。
ジークハルトが優しく抱き寄せ。
「ほら、無理してる。どうした、何があった。言ってみろ。」
「……帰りたい。」
私は、そう言って口を閉ざす。
そう。帰りたい。自分の家に。自分のいた世界に。
もう帰れない。帰る資格がない。
誰かを殺していたかもしれない無責任な遊び心。許されない行為。