『女神の加護を 受けし者は世界を救う』


ゲーム『レティッシラの聖女~女神の加護を受けし者は世界を救う~』。
何度も周回して、推し以外の攻略もした。
お気に入りのスチルやシナリオが頭にある。
アイテムも魔法もあるのに。お金だけを使い、自分の生活に充てた。
私が何の為にここにいるのか?
そんなの私が楽しむ為だと思っていた。
だって、ラノベでも王命が嫌で城から逃げ出してスローライフ。
代役が居て、本来の役目から外れて自由になるじゃない。
チートで誰からも好かれ、可愛いモフモフに囲まれて。
このゲームだって。
現実は違った。
私は誰かを殺していたかもしれない。
もう元の世界では生きられない。人殺しなど許されない。
私は魔法の制御も出来ず、チートにもなれない。

ナゼ、コノセカイニキタノカ。

「マリー。あなたの本当の名は?」
私は顔を上げる。
レジェス先生の後を付いて来て、辿り着いたのは学園の屋上。
自分の情けなさに、目に涙が溢れ。視界が霞む。
零れ落ち、頬を伝う涙は熱を伴い。外気に触れて、冷たくなって地面に落ちた。
「伊井田 真理(いいだ まり)。背が低いけれど、学園に通える年齢。冒険者登録も、読んだ創作の物語に感化された。ごめんなさい。この世界がゲームだと、私の知っている情報だけで楽しく生きられるのだと思った。ごめんなさい。……私の役目。もし聖女になる事を求めるのであれば、責任をとって生贄になる。」
「真理(まり)、それは言ってはいけない。聖女の役割は、そこで終わりではないのをあなたは知っているはずです。」
これはゲームじゃない。
クリアに必要なアイテムが手元にない。
設定の場所になかった。
この世界は滅びてしまうかもしれない。
私は。帰る場所も、家族もいないこの世界で死ぬ。
「ふう。真理……いえ、魔法使いマリー。あなたが選んだのは聖女ではなく、魔法使い。それならば、魔法を教える教師である私は、あなたを立派な魔法使いに仕上げる義務があります。さぁ、涙を拭って。空を見上げなさい。」
渡されたハンカチを目元に当て、少し涙も乾いてきたように思う。
目を上げ、空を見つめる。
地球と同じ。名前は異なるけれど、日が沈み。夕焼け。
「綺麗。」
「この世界を、救う一人に。なってくれませんか?」
この世界を救う一人に。
そう。冒険に。勇者と一緒に魔王を討伐する為に。
ゲームに登場した王子、騎士、神官ライオネル様。そしてレジェス先生。
きっと一緒に来てくれる。
私が、その一人に相応しくなれば。
「なりたいです。私がこの世界に来た意味。もう元の世界に戻る資格もないと覚悟したから。火も、使いこなしてみせる。」
「ふふ。火は使わなくてもいいですよ。私が補佐するので、不足などありません。」
私は、この世界を救う一人になる。