「オリアンヌ、暇か?」
「暇に見えるか?」
「あぁ、だから聞いている。」
神殿の書物庫。過去に、ここで魔王討伐に関する記述が発見された。
それは魔族による病の蔓延に関するもの。対抗する効力のある薬が書かれた巻物。
その複写を読んでいる最中。
剣を私に向け、不思議そうに首を傾げる騎士フリック。
「はぁ。フリック、少しは巻物を読め。」
「え、無駄だよ。だって読む暇があるなら、少しでも動いた方がマシ。」
無駄ではないだろ。
こっちが首を傾げたい。
「で?暇より、動いていない今は無駄な時間ではないと?」
「一人で動くより、有用な人材を連れてきて戦った方が効率も良い。」
即決力と行動力。それと。
「フリック、あなたの望む聖女はいない。私は聖女ではないし、期待されても困る。」
「オリアンヌ、君には素質があるけれど。俺の望む聖女ではないことぐらい、見ればわかるさ。ほら、気分転換に来いよ。迷いがあるのはお前だ。」
見透かされているとは。
ため息を吐き。
「手加減はしない。傷が増えても、面倒がらずに治せよ。命取りになるぞ。」
「わかった、約束するから早く行こうぜ。ほら、時間が惜しいだろ。」
急かされるようにして、その書庫を後にする。
手には写しの紙一枚。それを懐に入れた。
日々は過ぎ。
学園生活を終え、魔王討伐の冒険が始まる。
活躍の期待された魔法使いマリーは行方知れず。
補填として学園の魔法を教えていたレジェス先生が呼ばれた。
すると。レジェス先生は、ガーネットを推薦する。
周りの誰もが言葉を失った。
私はガーネットに適性が無いと言われて、油断していたんだ。
神殿も適性を否定していなかったのに。
ガーネットは断ると思っていた。
希少な双子と言われて舞い上がっていた両親でさえ、ガーネットを押し留めようとしたのに。
「行くわ。オリアンヌは誰にも渡さない。」
それは私の言葉。
オリアンヌを置いて行くと誓ったのに。
勇者ジークハルトは、私を見ない。彼も決意を新たにしただろう。
王子ユーリス。聖騎士となったフリックと私。
同行するユニアミを遠くから見守るロレイン。
旅は予定が決まったように順調で、魔王の城まで後一歩。
最終決戦の前夜。
「オリアンヌ、寝ないの?」
私一人の見張り場に、姿を現したのはロレイン。
神官ライオネル様が施した結界の向こう側。
「私に殺されに来たの?それとも私を殺す?」
「迷っているよ。オリアンヌ、俺の探し物が見つからない。もしかすると魔王が持っているのかも。」
「……ロレイン。それなら、私はあなたを殺しても意味がない。あなたは私の探している物を持っている?」
「持っているのはユニアミだよ。そろそろ発動する。今回も、違った。揃わなかったんだ。」
私達は繰り返す。
to be continued
