父から剣を受け継いだ。
腰に帯を締め、鞘を納める。
常に警戒し、ガーネットを守れるように。剣に手を当て。誓う。
「オリアンヌ、今からでも遅くない。聖女見習いに立候補するんだ。」
父の隣に、母が立ち。
圧力のつもりだろうか。
「聖女になるには自発的な気持ちがなければならない。私は聖女ではない。」
適性があるのは。ガーネットも同じ。
双子の姉に適性がないと神殿が決定を下したのなら、それは聖女ではないということ。
能力が開花される可能性を否定しないとはいえ、学園での扱いは双子の姉。
適性のある私の姉であり、希少な双子だから。
何も分かっていない。
「おい、集中しろよ。普段から無表情だからって、俺には分かるんだからな。」
ここは神殿。騎士見習いとして呼ばれ、任命の儀式。
隣に居たのは王子と、幼い頃から一緒にいるというフリック。
「悪かった。気を引き締める。教えてくれて、ありがとう。」
「おう。」
切り替えの早い男だな。
それくらいでないと騎士として、生きていけないだろうから。
それから何を気に入られたのか、訓練以外の自由時間。
練習に駆り出され、逃げても見つかる。
「いい加減、配慮してくれないか。私は女だぞ。それに、姉さんが気になるんだ。」
「俺たちが守るのは、家族じゃない。」
「おかしなことを言う。お前は、王子の側近になるのだろう?」
「だから?この世界の為なら、王子だろうと。家族同然に育ったユーリスだろうが、見捨てる。」
決意の視線。何がそうさせるのか。
「意外そうな顔だな。珍しい。ふはっ。笑わすな。」
こちらとしては、何を笑われているかも分からない。
フリックは空を見上げ、口を閉ざして目も閉じた。
私も空を仰ぐ。すると穏やかな風が通り抜けた。
「オリアンヌ、君は。いや、関係ないか。……俺は聖女を待ち望む。きっと死ぬとすれば、聖女の為に命を懸けて死ぬだろう。」
予言のような言葉。
「フリック、君の決断力は随一だ。王子ユーリスにとって、救いとなっているだろう。見捨てるなんて言うな。……君は、聖騎士。私もそこに並びたいと願う。」
「聖騎士か、お前が言うと重みが違うな。さ、オリアンヌ、剣を取れ。」
「嫌だよ、何度言わせるのさ。姉さんを探さないと。」
フリックは首を傾げ、笑顔で剣を振り回した。
真横に私がいるのに。避けるのを前提で。
「聞こえないなぁ。俺は、お前の姉を過小評価しない。お前は何を恐れている?」
私は剣を鞘から抜いて、応戦する。
野性的な勘が鋭いのだろうか。
「お前みたいなのに見つかるのが怖い。厄介だからな。」
「あはは。それはそうだな、俺は逃がさないぜ?」
連続の流れるような剣技。フリックの天性のもの。
私は剣で攻撃をかわし、ため息を吐く。
「嫌な予感がするんだ。」
するとフリックは剣を払って、鞘に納めた。
「先に言えよ。手伝わないぞ、俺は。行け。」
「何度も言った。」
不満げな私に、追い払うような素振を見せ。冷めた視線。
本当に切り替えの早さだけは。
フリックに背を向け、走る。
