「ガーネット、水から出て離れて。魔法を使うから。見ていて。」
まだ全てを奪われていない。
見れば、きっと吸収されるかもしれないけれど。
制御か発動の条件は知るだろう。
本来なら、私と一緒にお母さんから学んでいたはずなのに。
私はゆっくり詠唱を丁寧に唱える。
きっとこの魔法を使うのは、今日が最後。それなら、欠陥のない魔法として譲渡したい。
足元に広がる魔法陣。発動条件は揃った。魔法陣も完璧。
手のひらを上に向け。魔力が手の上で雷の属性を形作っていく。
大きさを、ゆっくり小さくして調整。
それを川に放つ。
「すごいよ!オリアンヌ、さすがね。綺麗だわ。それに、魚もたくさん。ありがとう。」
素直なガーネットの笑顔。
それを向けられるのは私だけ。
お礼を言いたいのは私。
あなたは無意識で奪っていく。私の適性を。
ありがとう。私があなたを守る。命に代えても。
「さっきの魔力量なら、火は通ってないよね。焼こうよ、オリアンヌ。昨日みたいに火を出して。」
火は、昨晩あなたに奪われたのだけど。
思わず笑みが漏れてしまう。
昨日、晩御飯の時に姉さんの前で見せたから。もう使えない。
それにお母さんに手伝っているところを見つかって、家で魔法を使うことを禁じられた。
ガーネットの前で使うこともないだろう。
奪われていない魔法は、機会を見て渡そう。
「駄目だよ。ガーネットは火を起こす練習をしながら、私に教えて。」
「魔法を使えるオリアンヌ、あなたには必要ないでしょう?」
「生活に必要な事が、軽んじられていいわけがない。この世界に存在するなら。」
ガーネットはため息を吐き、口では面倒くさいと言いながら。
足元の木々を拾う。
「オリアンヌ、乾いた枝を拾うのよ。新しいのは煙が出るの。……有害な。」
視線は遠く、初心者の森の方角。
あなたは私の見えないものを視ていた。
その日、初心者の森で冒険者の不始末による火災があったのだと聞く。
冒険者のお父さんも、近くにいた。
一気に燃え広がった炎。
受けた依頼が違えば、お父さんも死んでいたかもしれないと。
数日、雨が降らず乾燥していたのだとギルドで報告された。
亡くなった人の中に、勇者のお父さんがいたのだと知ったのは後の事。
その火災を食い止めたのは、水による魔法。膨大な魔力。
私から学んだ制御の応用をいとも簡単に。
被害を食い止めたのはガーネット。
