傷には生活魔法の浄化を使い、水魔法は控えた。
薬を買えるようなお金も持っていない。
塞がった傷が悪化しないように、教会でもらった刺繡練習用の布で覆う。
魔物は懐かないと学んだ。
すぐに大きくなって人を襲うと。
しかしそれは危険を教えるもの。
この行為を大人が知ったら、罰を与えられるだろう。
それでも、この命は生きているから。
お昼のパンを残し、それを与えて食べさせた。
大人しく、攻撃も威嚇もない。
懐いているんじゃないかと錯覚する。
もうこの魔物が私を殺すなら。それでもいい。
いなくても問題はない。
むしろオリアンヌから、双子の貴重性を奪いたい。
それなのに。
私から奪ったのは、オリアンヌだった。
数日で成長した魔物は、私の背丈を追い越していたけれど大人しく。
撫でると甘えるようにすり寄ってきたのに。
私が見ている場で。私より先に来て、待ち構え。
見知らぬオリアンヌに威嚇した魔物。
お父さんから貰った剣。
それを構えたと思ったら、左下に一度振って、勢いをつけて魔物に切りかかった。
確実に仕留めるつもりで。容赦なく。
魔物の首が飛び、一面の血しぶき。
それを浴び、拭いもせずに去っていくオリアンヌ。
血に毒性はなかったんだと知る。
悲しみより生じたのは怒り。
「酷い、オリアンヌ。どうして。そんなに私が嫌い?この子には何の罪もないのに。」
オリアンヌは剣を振るい、鞘に納める。
「お姉ちゃん、帰るわよ。」
私を見ない。
無表情で、去っていく。
その場で泣き崩れた私を慰めてくれたのは、ユニアミだった。
昨日出会ったばかり。
魔物のことを秘密にしてくれて、私に優しくしてくれた唯一の友達。
だと思った。けれど。
共通の秘密はなくなり。私達は、まだ学園に通う年齢でもなく。
彼女は神殿の神官ライオネル様に認められ、料理のレシピを学園に持ってきただけの人だった。
将来は、お母さんの後を継ぎ、優秀な薬師になるだろう。
私にとって魔物は魔物だった。
名もつけず。懐かれても情が湧くわけでもなく、殺されても奪われたとしか思わなかった。
妹の無表情。それに怒りを感じた事はない。
だって同じ存在だから。
双子。ずっと一緒にお腹の中に居た。私の片割れ。
私の感情の欠如。私の中にあるのが、怒りや妬みであるなら。
あなたの中にある感情は何だろうか。
あなたは言った。
『私が守りたいのは、お姉ちゃんだから』
あなたは正しい。
あの魔物は近々、私を殺しただろう。
そして私以外の学生も。
それを分かった上で、魔物の傷を手当てし、毎日のように通って餌を与え育てた。
数日間、私が願ったのは。
願いを叶えてくれる存在。
そう私に優しくしてくれたユニアミでもない。
