『女神の加護を 受けし者は世界を救う』


珍しい双子として、神殿に呼ばれ。
予告された魔王の復活に、私達への期待はあったのだろう。
適性の検査がなされ、妹オリアンヌは選ばれたのだ。
私に下されたのは。適性なし。
オリアンヌは聖女見習いを辞退した。
それは強制ではなく、奉仕だから。

女神レイラリュシエンヌ様の加護を得るのは、強制されたものではなく自発的な自己犠牲の精神を持った者。
それが聖女。
もしオリアンヌが聖女なら。私は何だ。
もう少し大きくなれば、学園に通い。もっと周りからの比較を受けるのだろうか。
帰りが遅くなっても、誰も心配などしない。
学園の周りを巡る途中、整備が行き届いていないのか壁の綻び。
そこに手を当てると、呆気なく崩れて。
小さな私一人が通れる隙間。それを潜り抜け。
学園の建物の裏側。木々や草が覆い茂る。
背丈ほどの草をかき分け、好奇心にどんどん切り開くように進む。
何か聞こえる。小さな鳴き声のような。
それは小さな魔物。生じたのは恐怖だった。
見た事のない生き物。普段、お父さんが狩って持って帰ってくる食用などではない。
姿は醜く、色は闇を模した毒々しいもの。
しかし訴えるような鳴き声に、違和感。
屈んで、そっと近づいてみる。
覗き込むと、足だろうか。鳥のような細長い足と爪。
いくつもの深い切り傷のようなところから、赤黒い液体。
地面にも広がって、血だろうか。
触れない方が良い気がする。
魔物は暴れる様子もなく、力尽きて死ぬ間際のような弱り方。
独りぼっちで死んでいく。
今の私に重ねた。
手を恐る恐る近づけるけれど、攻撃するような動きも警戒するような素振もなかった。
教会で教わった水の魔法。
傷口を洗い流し、地面は丁寧に水で囲って血を集めるように包む。
害のある毒があると、私が死んでしまう。
押し広げて、この地が汚れるといけない。
どう処理するのが正しかったか、記憶にはあるはずだけど。
教会で学んだ。疫病の知識。病を蔓延させない方法。
吐しゃ物を拭き取った布は燃やす。
この汚れた水を燃やすには。お湯を沸かすときのようにすれば、どうだろうか。
水と違う火属性の魔法を使い、両方維持しつ、少しずつ近づけて。
火力が強かったのか、汚れた水は一瞬で蒸発した。
傷を焼くには火力が強すぎる。
まして。この草木の覆い茂る場所で火を使ったことが今更。
危うく災害を生み出すところだった。
初心者の森の火災、あれの犯人を私にされていたかもしれない。
人が死んだのだと聞いた。
お父さんと同じ冒険者、同じ年頃の子がいると。
誰かが死ぬのは見たくない。
弱い魔物。私が見放せば死ぬ存在。
私が救えるのは魔物。