私は家に帰り、その日の出来事を母と兄に語った。
子どものように無邪気に、特別な薬剤の本を借りられたのだと。
もちろん見つけた巻物の事は、誰にも告げないようにと口止めをされた。
魔王復活に際し、聖女の足止めのような病の蔓延。その解決方法。
けれど、それでは解決しない。
まだ私に出来る事、しなければならない事がある。
間に合うだろうか。
寒い季節が来る前だからギリギリかもしれない。
まだライオネル様が神官になっていないから、きっと大丈夫。
次の日、私は日課の薬草採取に兄と共に向かう。
アイテムボックスから出しておいた種を、父が亡くなった辺りに植える。
今もなお、焦げ目の残る回復しない木々。
それは不始末ではなく、人為的な魔法の痕跡。
誰かが魔法で火を放った。
その人か、煙を見つけて対応した誰かが水魔法で消火した。
魔力の少なからずある場所、だからこそ薬は育つだろう。
水魔法で潤うこの地は、乾燥しない。失敗しない場所。
お父さん……
「ユニアミ、悲しい顔をしないで。そうだ!前に言っていた魔法の話をしよう。」
手を差し伸べられ、繋いだ手を引かれるままに付いて行く。
少し開けた場所に、光が降り注ぎ。一面の花。
「わぁ。綺麗。」
「座って、さっき見つけた木の実を食べよう。朝ごはん前だけど、母さんには内緒だよ。」
優しい笑顔。
そして、また額にキスを落とす。
そう。私の魔法を封じる行為。
「これはね。詠唱を声に出さず、口を閉じてするんだ。そうすると効力が強まるんだよ。俺の妹、大切な家族。喪いたくないから、女神レイラリュシエンヌ様の加護を求めて。俺の最大限の防御魔法を君に施す。生きて。死なないで。」
お父さんが死んでから、お兄ちゃんの涙を見た事がなかった。
それをこんな場面で。
何をそんなに。そうだよね、不安になって当然。
魔王の復活が予告され、勇者の捜索が始まったのだと聞いた。
私の手元には、ゲームをクリアするために必須のアイテムがあるから。
油断は禁物。気を引き締める。
まだ病の蔓延を防いでいないから。
種が芽を出して、順調に成長すると仮定して。どう配布するか。
紫蘇なら。ジュースにすれば、教会に置けば幼い子供達には行き届く。
大人は。どうすれば。
兄からもらった木の実を口に入れ。甘さが広がる。
美味しい。こんなふうに手軽に食べられなければ。
「お兄ちゃん、もうすぐ入学だね。」
「……ユニアミ、学園には君が通うために。俺は冒険者になったよ。」
冒険者になった。
いつ。何故。
「嫌だ、置いて行かないで。どこにも行かないで。」
「置いて行かない。だけど連れてもいけない。それは、例え学園に入れたとしても離れ離れだ。」
「通えばいいじゃない。だって!…………」
だって学園に魔物が出て。
お兄ちゃん達の学年は大勢が巻き込まれて。
あぁ、ダメだ。回避しなければ。
危険だけど兄を学園に入れなければ、私は動けない。
未来を回避するのは私。
