ライオネル様から召喚を否定され、それでも希望を捨てずに聖女様を待ち望む。
この世界を救うのは、私ではないから。
未来を知る誰かがいるから。
もしかすると聖女様は、もうこの世界に来ているのでは。
その可能性もある。
予告された魔王復活。それに備え、教育されてきた聖女見習い。
そこから厳選された聖女候補。
私はその中にいた。
けれど、聖女様の邪魔にならないようにしなければ。
自分に出来る限り支えとなれることがあるなら。
学園の入学式。
制服に身を包み、そこでの2年をどう過ごすのか。
気持ち新たにして。待ち望んだ聖女様。そこに姿はなく。噂もなく。
それでも回避された最悪の未来は事実で。
聖女様がいない。
そして目に入ったのは。過去で婚約者だった王子ユーリス。婚約者不在。
側近の騎士フリックと、何故か学園に通うことになった勇者ジークハルト。
未来が変わった。
勇者は学園にいなかった。
見つかったのは2年前。その間に何か違いが。
分からない。
ほぼ神殿で生活し、週一の帰省で町に出、時に長期の休みで領地を巡ることがあったけれど。
もちろん聖女様の情報が得られないかと、情報屋など手を尽くしてきた。
何が起きているのか。
未来は良い方向に変わったのだから、それは良い事。
誰も不幸にはなっていない。それこそ女神レイラリュシエンヌ様の加護。
召喚のない世界。
これは、どこから変えられてしまったのか。
では、誰が未来回避しているのか。
「ユーリス様、この学園では身分の差もなく話しかけても良いと聞いて。これ、食べてください!」
勇気のある人もいるんだな、そう声の大きさに思わず目を向けた。
そこにいたのは、料理レシピを国民に流布しているという女生徒ユニアミ。
そう、過去にお母様が病で亡くなるのを回避した。
病に効果のある薬草を使った料理のレシピを作った人。
「あぁ、君はユミアミだね。ありがとう。立場は学生として同じなんだけど、どうしても毒見は必要なんだ。それでもいいなら、頂くよ。」
「もちろんです!私が入れなくても、誰が悪意を持っているかも分かりませんから。一口でも、食べた感想を下さい。」
私も帰省した際には、彼女のレシピを使用した専属の菓子店から買ったケーキやクッキーを食べた。
とても甘く、美味しかった。
悪意などないだろう。
薬草を使った料理も苦みなく、安価で誰もが食せるように配慮されたと伝え聞いた。
彼女が聖女なのだろうか。
