目覚めると、そこは自分が普段使用しているベッドの上。
手は震え、全身を伝う汗。熱が奪われるような寒さ。
思い出せるのは、手を伸ばした先に居る婚約者。
自分に向ける婚約者の視線はいつもと同じ。
会場内は静まり返り、王子の吐き出された言葉だけが聞こえる。
私に告げられたのは婚約破棄。
覚悟していた。
あぁ、何をしても。何を言っても無駄なのだと。
そこで私の意識は途切れた。
「お嬢様!あぁ、目覚めたのですね。」
ベッドで身を起こした私を見つけ、慌てて走り去る侍女に問う時間もなく。
私はあの後、気を失ったのだろうか。
しかし何か違和感がある。
汗を拭おうと、手をこめかみに当てると髪の毛先が腕に触れた。
横髪が短い。血の気が引くのが自分でも分かる。
髪を切られてしまった?いつ。どうして。
理解できない状況に言い表せない恐怖。
ベッドから降り、鏡の前に走って向かう。
化粧台の鏡。目にしたのは幼い顔の私。
手を両頬に恐る恐る。指先が触れる感覚。
込み上げた感情に伴う叫び声が、部屋に響いた。
私の部屋に集まった家族、専属の医師、侍女を含めた家に従事する数名。
私を心配し、落ち着くようにと宥め。
お母様が取り乱す私を抱き寄せた。
温かい。まだ生きている。
救わなければ。そう思った。
「ごめんなさい。もう大丈夫です。」
ベッドに運ばれ、そこに横になり。
医師の質問に曖昧に答えた。
今がいつなのか。
触れる感覚はある。夢ではない。
それでもこの現実が受け入れられなくて。
もう一度、目覚めたらまた違う年齢の自分になっているのではないかと。
あの地獄のような場所に引き戻されるのではないかと。
不安と恐怖。
私の背は低く、顔は幼く、髪は短い。
お母様が生きている。
この状況は。きっと女神さまの加護に違いない。奇跡。
私に出来ることは何だろうか。
もう二度と繰り返さない。私の過ち。
流行り病の蔓延に、治療の魔法や薬が作られた。
そう聖女様の癒しによる結果、もうあの悲劇は繰り返さないのだと目にし。
今ならお母様を救える。犠牲を減らせる。
