朝の満員電車ほど、タチの悪いものはないと思う。

やたらと大きい声でお喋りしてる学生。新聞読みながらもたれ掛かるサラリーマン。優先座席で電話する老人。

公共の場所だってこと忘れてるでしょ。

案の定10メートル先でいつも乗る電車を見送ってから、私は次の電車を待って乗り込んだ。友達の話によるとこれでもギリギリ学校には間に合うらしい。

すし詰め状態の車内にいらいらする。電車が停車してドアが開閉する度に波のように揺れる人、人、人。

「、い」

もう降りようかな。頻繁に遅刻するわけじゃないし。気分が悪いのも事実だし。

「おい、」

今どこだっけ?あと何駅で学校の最寄?

「おい、あやこ。」

名前を呼ばれてびっくりした。私の知り合いがこの電車に乗ってると思わなかった。
誰かがまた別の誰かを呼んでることはなんとなく聞こえていたけど、私が呼ばれてるとは思いもしなかった。だって声色は明らかに男だし。
キョロキョロと周囲の乗客を見回すけど、知り合いらしき人物は見当たらない。

すると、頭に何かを置かれた。
手?

「後ろだっつの。」

後ろを振り返って、また驚くことになった。