私がホームへ飛び出した2秒後に、電車の扉は音を立てて、閉まった。

ぎりぎりセーフ。

ぱっと扉の窓を見ると、無表情の桂が私の視界に入った。扉に手を付いて、こちらをじっと見つめている。

その表情は、氷みたいに冷たくて。似ても似つかないのに、アイツが頭の中をよぎって。

たまらなくなった私は、トイレへと走った。




胃袋の中を空にするまで嘔吐して、落ち着いてから、私は狭い個室の中、本当に頭を抱えてうろたえた。

どうしよう。
何も言わないまま逃げてしまった。
しかも相手は隣の席だし。
今日逃げても明日確実に顔を合わせなければならない。
仮に明日1日休んだとして…、だめだ、お母さんに心配かけるようなことはしたくない。

口の中を濯いで私はトイレを後にした。

どれくらい長い間その場に居たのかはわからないが、家に帰るための電車はすぐにホームに滑り込んだ。電車に乗って、帰路に着いた私の脳を占領していたのは、明日どのように言い訳しようか、そのことだけだった。