目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、 嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています。

魔力測定から、数日後。

 ノクティス公爵家の屋敷は、どこか落ち着かない空気に包まれていた。
 廊下を行き交う使用人たちの足取りは早く、声は自然と小さくなる。

(……そりゃそうだよね)

 世界に一人しか存在しない光属性。
 それが、よりにもよって公爵家の娘――しかも、生まれたばかりの赤子だと分かれば、こうなる。

 私は今、母セレナの腕の中にいた。
 柔らかな香りと、一定の鼓動が心地いい。

「緊張している?」

 小さな声で、母が私に囁く。

(してるのは、周りの大人たちだと思う)

 広間には、見慣れない人物が集まっていた。
 正装を纏った騎士たち。
 そして、明らかに“格”の違う存在感を放つ数人。

 ――王族だ。

(早すぎない?)

 原作でも、光属性の存在が公に知られたのはもっと後だったはず。
 それなのに、この世界では、すでに動き出している。

 やがて、父――アレクシス・ノクティスが一歩前に出た。

「集まっていただき、感謝する」

 その声は低く、よく通る。
 公爵としての威厳が、自然と場を支配していた。

「先日の魔力測定により、
 我が娘、ルクシア・ノクティスが――」

 一瞬の、静寂。

「光属性の魔力を有していることが、正式に確認された」

 ざわり、と空気が揺れた。

「……やはり」
「奇跡だ……」
「いや、運命か」

 囁きが重なり合う中、
いくつもの視線が、はっきりと私に向けられる。

(……見られてる)

 好奇。
 敬意。
 期待。
 そして――値踏み。

 その全てを、赤ちゃんの私が一身に受けている。

(これが、光属性の意味……)

 癒やしの力。
 希望の象徴。
 国にとって、失ってはならない存在。

 原作での私は、
この“特別さ”に押し潰されていった。

「……小さいのに」

 ふいに、誰かが呟いた。

「こんなにも、か弱いのに……」

 その言葉に、母の腕がほんの少しだけ強くなる。

「この子は、ノクティス家の娘です」

 セレナの声は、静かで、しかし揺るがなかった。

「誰の所有物でもありません」

 その一言で、場の空気が変わった。

 父もまた、私の方へ視線を向ける。

「ルクシアは、我々が守る」

 その言葉に、胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

(……ああ)

 視線が集まる。
 期待が集まる。
 運命が、動き出している。

 それでも。

 この温もりだけは、本物だ。

(嫌われないように、って決めた)

 でも、それだけじゃ足りない未来が、
もう、すぐそこまで来ている気がした。

 ――光は、祝福であり、呪いでもある。

 そのことを、私はまだ、知らない。