目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、 嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています。

私がルクシア・ノクティスとして生まれてから、しばらくが経った。

 最近の悩みは一つだけある。

(……みんな、距離が近い)

「ルクシア、今日もよく眠れたか」

 そう言って私を抱き上げるのは、父――アレクシス・ノクティス。
 威厳ある公爵であり、この国でも指折りの実力者……のはずなのに。

「……本当に、可愛いな」

(今、顔ゆるんでません?)

 低い声でそう呟く父の表情は、完全に父親のそれだった。

「あなた、またそうやって見つめて……」

 くすりと笑いながら近づいてくるのは、母――セレナ・ノクティス。
 長い髪と整った顔立ちを持つ、誰が見ても分かる美形だ。

「ルクシアは可愛いの。仕方がないでしょう?」

「……否定はしない」

(即答!?)

 そんなやり取りを、私は腕の中からぼんやりと眺めていた。

 原作でのノクティス家は、冷たく、どこか距離のある家族だった。
 特に父は、娘に対してほとんど関心を示さない人物として描かれていたはず。

(なのに……)

「ほら、ルクシア様。ご機嫌ですね」

 乳母がそう言って微笑むと、侍女たちも一斉に頷く。

「本当に……このお方を見ていると、自然と笑顔になります」
「まるで、光そのもののようで……」

(それ、ちょっと大げさでは……)

 私が小さく指を動かすだけで、周囲がふわりと和む。
 声を出せば、すぐに誰かが応じる。

(嫌われないように、って決めたけど……
 これはもう、“嫌われない”を通り越してる気がする)

 そんな中、父が一つ咳払いをした。

「……そろそろ、魔力測定を行う」

 その言葉に、空気が少し引き締まる。

 この世界では、生まれて間もない頃に魔力の有無と属性を測る。
 それは、将来を左右する重要な儀式でもあった。

(来た……)

 淡い緊張が走る中、母が私の手をそっと包む。

「大丈夫よ、ルクシア」

 その声は、優しくて、迷いがない。

(……怖い、けど)

 原作を知っているからこそ分かる。
 ここが、運命の分かれ道だということを。

 測定用の魔導具が、静かに近づけられた。

 次の瞬間。

 ふわり、と。

 部屋の中に、見覚えのある淡い光が広がった。

「……やはり」

「この輝きは……」

 ざわめきが、一気に広がる。

 世界に一人しか存在しないはずの属性。
 それが、今――私の中に、確かに宿っている。

(……やっぱり、そうだよね)

 私は小さく目を瞬かせながら、胸の奥を意識した。

 この光が、
 これから私をどこへ連れていくのか――

 まだ、その答えは分からない。