目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、 嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています。

 ――あれ?

 ぼんやりとした意識の中で、私は目を覚まそうとした。
 けれど、まぶたは重く、身体はまるで言うことをきかない。

「……あー……」

 喉から漏れたのは、言葉にならない小さな声。
 その音を聞いた瞬間、嫌な予感が胸をよぎった。

(……声、赤ちゃんじゃない?)

 最後の記憶は、深夜のベッドの上。
 大好きなアニメを何度目かも分からないくらい見返しながら、
「この悪役令嬢、顔が良すぎるんだよなぁ……」
なんて考えて、そのまま眠りについたはずだった。

 なのに。

「まあ……なんて愛らしいお子なのでしょう」

 優しい女性の声と同時に、ふわりと身体が抱き上げられる。
 視界が少しずつ開け、ぼやけた世界の中に、豪華な天蓋と知らない天井が映った。

(……ここ、どこ?)

 そして、差し出された小さな鏡に映った姿を見て、私は固まった。

 絹のように美しく、透き通るような白色の髪。
 宝石のように澄んだ青い瞳。

(……え)

 見覚えがありすぎた。

(これ……私が大好きだったアニメの……)

 ――ルクシア・ノクティス。

 物語の中で、誰よりも美しく、誰よりも嫌われ、
最後には断罪される運命の悪役令嬢。

(嘘でしょ……)

 心臓がどくん、と大きく跳ねる。

(私、転生してる……?
 しかも、よりにもよって……)

 頭の中に、原作の展開が一気に流れ込んできた。
 傲慢な態度、誤解、孤立、そして破滅。

(……無理。そんな未来、絶対無理)

 でも、ふと気づく。

(……今は、まだ赤ちゃん)

 つまり、まだ何も始まっていない。

(だったら……)

 私は、小さな胸の中で決めた。

(嫌われなければいい)

 悪役にならなければ、破滅しない。
 誰に対しても優しく、誠実に生きれば、未来は変えられるはず。

 ――嫌われないように生きよう。

 その瞬間、ふわりと、淡い光が私の周囲に舞った。

「……光?」

 ざわめく大人たちの気配。
 息を呑む音が、はっきりと聞こえる。

「まさか……光属性……?」

 この世界では、
光属性は“世界に一人だけ”と決まっている。

 そして今、その力は――
確かに、私の中で静かに息づいていた。

 けれど。

 誰も、まだ知らない。

 この胸の奥に、
もう一つ、名付けられていない何かが――
確かに、息づいていることを。