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・【09 プレゼンと】
・
僕は開口一番、まず結論から言うことにした。
プレゼンは結論を引っ張る必要は無い。まず最初に結論という名のテーマを表明してから喋ったほうがいいのだ。
「僕たちの意見は、植民地にせず、友好関係を築き上げたほうがいいと思います。今からその根拠をお話しします」
するとユルシさんだけが拍手してくれた。
他の面々の表情はやや硬い。僕は構わず続ける。
「人間は褒めて伸びるほうです。また多分貴方がたが一番欲しいと思われる料理は心が豊かじゃないと上手く作れないんです」
そこから料理の話をして、さらには垂直農業や魚の養殖など、そういった文化も平和な時代に生まれたものだとプレゼンしていったわけだけども、何だかあんまり響いている感じがしない。
なんというか、話は聞いているけども、どこか私事じゃないというか、いやそういうわけではないんだろうけども、何か言葉が真に届いている感じがしない。
雄二も面持ちからしてそれを察しているようだけども、雄二は基本画像を見せるだけの係になったので、余計なことは言わない。
一応僕は調べた情報をペラペラと、垂直農業なら米を水無しで育てたり、レタスも青い光と赤い光を交互に当てたりするだけで作れますし、確かに使者を送り込んで日常生活を見るだけなら、垂直農業の情報は手に入らないかもしれませんね、みたいなことを言うんだけども、何か、クリティカルヒットはしていないっぽい。
じゃあ魚のほうを語気を強めて言うかと思って、温泉でサバやトラフグ、ウニを養殖したり、ニジマスを内陸地で育てたりとか言っても、何かピンときていない、ピンときていないのか?
すると、グレンさんが挙手してから、
「でも植民地化したとしても一緒では? ならこっちで管理したほうがいいのでは?」
と言い、他のおじいさんがたも同調するように頷いた。
あれ? 最初の料理は心が豊かじゃないと上手く作れないとか聞いていなかったのか? 僕は不安な気持ちが表情に出てしまうと、雄二がこう言った。
「というか圭吾、ずっと俺は思っとることがあったんやけども、俺の言葉はホンマにどうやって翻訳されてるんや」
「えっ、でも一応伝わっていると思うよ、ロペスくんもジェンくんも普通に会話していたじゃないか」
と今、雄二と会話することは若干悪手のように思いつつも、雄二がなんせ喋るので対応していると、雄二が、
「心が豊かじゃないと上手く作れないとか、ホンマに伝わってんのか? どう翻訳されているかとか気にならへん? ずっと圭吾は標準語やから気にせぇへんかったかもやけども、俺はずっと若干変な翻訳されとったら嫌やなとは思とったで」
僕はハッとしてユルシさんのほうを見ながら、
「料理は心が豊かじゃないと上手く作れない、という言葉、どう聞こえていますか?」
と僕が言うと、ユルシさんは小首を傾げながら、
「料理は心が整っていないと上手く作れない、ですけども、違うんですか?」
と言ったところで、僕と雄二は顔を見合わせた。
「近いけども! ニュアンスは合っているけども! ちょっと違う!」
つい叫んでしまった僕。
豊かと整うは微妙に違う。豊かは調子が良いという意味合いだし、整うじゃ平坦というか浮き沈みが無いという意味合いだ。
そうか、微妙にちょっとずつ、翻訳がズレていたのか。
ならば、
「雄二、伝わりやすいように、ちょっと強い言葉を使っていいかな?」
「ええんちゃう? なんとなく緩く伝わっとるから、強めに言うてもええと思うで」
僕は深呼吸してから、語気を強めて喋り始めた。
「植民地化されるということは、つまり戦時中と同じ、ということが地球の考え方です」
厳密には違うだろうけども、ここはズシンと心に響くように、大きめに言っていく。
「戦時中の日本は料理というものが作られませんでした。何故なら心に余裕が無いからです。育てる農作物も全てカボチャになり、豊富な料理は無くなります」
勿論植民地のやり方次第だろうけども、どう植民地化するかもわからないので、ここは強めに出る。
「戦争状態のほうが、科学が発達すると言う人もいますが、それは軍事に関わることばかりです。料理という人間の個に関わる部分はないがしろにされます。貴方がたは地球に何を求めますか? 科学力ですか? いいえ、ここまでの科学力を有していれば地球の科学力などちっぽけでしょう。だからこそ植民地化という戦争状態にすることは辞めて、友好関係を結び、料理を学ぶという形式が良いと思います」
植民地派の方々も少し前のめりになっているような気がする。
ここから畳みかける。僕らの周りで最近あったことを思い浮かべて、強いワードになるように言葉をまとめていく。
「オブラートに包まず言うと、植民地は愚策です。思考に芯が無いです。何も考えずに植民地化して管理すればいいのでは? では話になりません。これからの種を考えていますか? どんな花が咲くか想像できていますか? 管理すればいいだけでは伸びないですよ、正直脳に膜が張っていますよ、思考が単純過ぎる……と僕が強い言葉が使えるのも、今はまだ対等だからです。対等だからいろんな言葉を使い、いろんな思考を使えるんです。植民地化したら、生きることだけ考えて、人生を楽しくというような思考は無くなり、ある意味枝葉である料理なんて誰も極めようとしなくなります。料理を堪能したいなら平和一択です。つまり友好関係を築く。それだけです」
勿論こんなSF牢屋に入れられている時点で対等とは言い難いわけなんだけども、そういうところはあえて度外視して喋った。きっとそっちのほうが響くと思ったから。
この種族は元々温厚な種族らしい。こうやってビビらせるように言えば、きっとコントロールできるはず。
するとグレンさんが深く呼吸してから、
「確かに、植民地化してしまったら自由に発想することが無くなるかもな……」
正直、この翻訳機というか翻訳は、感情をなだらかにするように作られているんだと思う。できるだけ和を乱さないようにする、というか良くも悪くも、それこそ浮き沈みが無いような言葉が選択されるんだと思う。
だからこそこっちが強い言葉を使えば、その強さが若干弱まり、ちょうどいい塩梅の言葉としてそちらに伝わるのでは、と。
一人のおじいさんが唸り声をあげてから、
「とりあえずまあ、友好関係の方向でいいんじゃないか、こんなにハッキリ言われてしまったらそうなのかもしれない」
グレンさんもすぐに、
「あぁ、それでいいのかもしれない。まあ元々、王様の決定はそうだからな……」
「我々の出過ぎた真似だったのかもしれない」
そんな会話をしながら、そのグレンさんとおじいさんがたは消えた。
その場にユルシさんだけ残り、ユルシさんはパァッと明るい表情になり、
「やりました! 有難うございます! これで見守っているロペスさんやジェンさんも喜ぶことでしょう!」
そこからの展開は早く、僕と雄二は家に戻されて、ロペスくんやジェンくんも中学校で生活することが続行となった。
次の日、普通に登校すると、ロペスくんもジェンくんもいて、雄二も来たところで二人からめっちゃ謝られた。
雄二が、
「まあ別にええんやで、二人が元気なら」
と言えば即座にジェンくんが、
「こっちの台詞ですよ! お二人が元気ならそれが一番です!」
と言ってくれて、相思相愛やね、と、ちょっとだけニセ関西弁でそう思った。
僕たちの日常は変わらず続いていく。
雄二はたまに畠山くんとつるんで、野草の話をしに行くこともある。
やっぱり何事も対話だよね、と思っている。
(了)
・【09 プレゼンと】
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僕は開口一番、まず結論から言うことにした。
プレゼンは結論を引っ張る必要は無い。まず最初に結論という名のテーマを表明してから喋ったほうがいいのだ。
「僕たちの意見は、植民地にせず、友好関係を築き上げたほうがいいと思います。今からその根拠をお話しします」
するとユルシさんだけが拍手してくれた。
他の面々の表情はやや硬い。僕は構わず続ける。
「人間は褒めて伸びるほうです。また多分貴方がたが一番欲しいと思われる料理は心が豊かじゃないと上手く作れないんです」
そこから料理の話をして、さらには垂直農業や魚の養殖など、そういった文化も平和な時代に生まれたものだとプレゼンしていったわけだけども、何だかあんまり響いている感じがしない。
なんというか、話は聞いているけども、どこか私事じゃないというか、いやそういうわけではないんだろうけども、何か言葉が真に届いている感じがしない。
雄二も面持ちからしてそれを察しているようだけども、雄二は基本画像を見せるだけの係になったので、余計なことは言わない。
一応僕は調べた情報をペラペラと、垂直農業なら米を水無しで育てたり、レタスも青い光と赤い光を交互に当てたりするだけで作れますし、確かに使者を送り込んで日常生活を見るだけなら、垂直農業の情報は手に入らないかもしれませんね、みたいなことを言うんだけども、何か、クリティカルヒットはしていないっぽい。
じゃあ魚のほうを語気を強めて言うかと思って、温泉でサバやトラフグ、ウニを養殖したり、ニジマスを内陸地で育てたりとか言っても、何かピンときていない、ピンときていないのか?
すると、グレンさんが挙手してから、
「でも植民地化したとしても一緒では? ならこっちで管理したほうがいいのでは?」
と言い、他のおじいさんがたも同調するように頷いた。
あれ? 最初の料理は心が豊かじゃないと上手く作れないとか聞いていなかったのか? 僕は不安な気持ちが表情に出てしまうと、雄二がこう言った。
「というか圭吾、ずっと俺は思っとることがあったんやけども、俺の言葉はホンマにどうやって翻訳されてるんや」
「えっ、でも一応伝わっていると思うよ、ロペスくんもジェンくんも普通に会話していたじゃないか」
と今、雄二と会話することは若干悪手のように思いつつも、雄二がなんせ喋るので対応していると、雄二が、
「心が豊かじゃないと上手く作れないとか、ホンマに伝わってんのか? どう翻訳されているかとか気にならへん? ずっと圭吾は標準語やから気にせぇへんかったかもやけども、俺はずっと若干変な翻訳されとったら嫌やなとは思とったで」
僕はハッとしてユルシさんのほうを見ながら、
「料理は心が豊かじゃないと上手く作れない、という言葉、どう聞こえていますか?」
と僕が言うと、ユルシさんは小首を傾げながら、
「料理は心が整っていないと上手く作れない、ですけども、違うんですか?」
と言ったところで、僕と雄二は顔を見合わせた。
「近いけども! ニュアンスは合っているけども! ちょっと違う!」
つい叫んでしまった僕。
豊かと整うは微妙に違う。豊かは調子が良いという意味合いだし、整うじゃ平坦というか浮き沈みが無いという意味合いだ。
そうか、微妙にちょっとずつ、翻訳がズレていたのか。
ならば、
「雄二、伝わりやすいように、ちょっと強い言葉を使っていいかな?」
「ええんちゃう? なんとなく緩く伝わっとるから、強めに言うてもええと思うで」
僕は深呼吸してから、語気を強めて喋り始めた。
「植民地化されるということは、つまり戦時中と同じ、ということが地球の考え方です」
厳密には違うだろうけども、ここはズシンと心に響くように、大きめに言っていく。
「戦時中の日本は料理というものが作られませんでした。何故なら心に余裕が無いからです。育てる農作物も全てカボチャになり、豊富な料理は無くなります」
勿論植民地のやり方次第だろうけども、どう植民地化するかもわからないので、ここは強めに出る。
「戦争状態のほうが、科学が発達すると言う人もいますが、それは軍事に関わることばかりです。料理という人間の個に関わる部分はないがしろにされます。貴方がたは地球に何を求めますか? 科学力ですか? いいえ、ここまでの科学力を有していれば地球の科学力などちっぽけでしょう。だからこそ植民地化という戦争状態にすることは辞めて、友好関係を結び、料理を学ぶという形式が良いと思います」
植民地派の方々も少し前のめりになっているような気がする。
ここから畳みかける。僕らの周りで最近あったことを思い浮かべて、強いワードになるように言葉をまとめていく。
「オブラートに包まず言うと、植民地は愚策です。思考に芯が無いです。何も考えずに植民地化して管理すればいいのでは? では話になりません。これからの種を考えていますか? どんな花が咲くか想像できていますか? 管理すればいいだけでは伸びないですよ、正直脳に膜が張っていますよ、思考が単純過ぎる……と僕が強い言葉が使えるのも、今はまだ対等だからです。対等だからいろんな言葉を使い、いろんな思考を使えるんです。植民地化したら、生きることだけ考えて、人生を楽しくというような思考は無くなり、ある意味枝葉である料理なんて誰も極めようとしなくなります。料理を堪能したいなら平和一択です。つまり友好関係を築く。それだけです」
勿論こんなSF牢屋に入れられている時点で対等とは言い難いわけなんだけども、そういうところはあえて度外視して喋った。きっとそっちのほうが響くと思ったから。
この種族は元々温厚な種族らしい。こうやってビビらせるように言えば、きっとコントロールできるはず。
するとグレンさんが深く呼吸してから、
「確かに、植民地化してしまったら自由に発想することが無くなるかもな……」
正直、この翻訳機というか翻訳は、感情をなだらかにするように作られているんだと思う。できるだけ和を乱さないようにする、というか良くも悪くも、それこそ浮き沈みが無いような言葉が選択されるんだと思う。
だからこそこっちが強い言葉を使えば、その強さが若干弱まり、ちょうどいい塩梅の言葉としてそちらに伝わるのでは、と。
一人のおじいさんが唸り声をあげてから、
「とりあえずまあ、友好関係の方向でいいんじゃないか、こんなにハッキリ言われてしまったらそうなのかもしれない」
グレンさんもすぐに、
「あぁ、それでいいのかもしれない。まあ元々、王様の決定はそうだからな……」
「我々の出過ぎた真似だったのかもしれない」
そんな会話をしながら、そのグレンさんとおじいさんがたは消えた。
その場にユルシさんだけ残り、ユルシさんはパァッと明るい表情になり、
「やりました! 有難うございます! これで見守っているロペスさんやジェンさんも喜ぶことでしょう!」
そこからの展開は早く、僕と雄二は家に戻されて、ロペスくんやジェンくんも中学校で生活することが続行となった。
次の日、普通に登校すると、ロペスくんもジェンくんもいて、雄二も来たところで二人からめっちゃ謝られた。
雄二が、
「まあ別にええんやで、二人が元気なら」
と言えば即座にジェンくんが、
「こっちの台詞ですよ! お二人が元気ならそれが一番です!」
と言ってくれて、相思相愛やね、と、ちょっとだけニセ関西弁でそう思った。
僕たちの日常は変わらず続いていく。
雄二はたまに畠山くんとつるんで、野草の話をしに行くこともある。
やっぱり何事も対話だよね、と思っている。
(了)



