川島物語 ~食べ物友達と謎解きな僕~


・【08 隠された事実】


 とある日の放課後を過ごした日の夜だった。
 自分の部屋で、一人で勉強をしていると、急に何か視線を感じた。
 妹が静かにドアを開けてきていて、後ろから驚かせようとしているのだろうか。
 僕の妹はそういう一面があるので、いつでも返せるように机の引き出しの中には道具が詰まっている。
 ここは振り向きざまにクラッカーを鳴らすで決まりだな、と思って僕はクラッカーを後方の妹にはバレないように掴み、イスをくるっと回しつつ、クラッカーを鳴らすと、その視線の人物が怒号をあげた。
「やはり野蛮な地球人! 捕まえて尋問しなければ!」
 僕は僕で目を丸くしてしまった。だって妹じゃないから。
 その人物は見知らぬ人物で顔の輪郭というかつくり的にロペスくんやジェンくんに似ていた。
 僕はその人物に腕を掴まれると、気付いた時にはなんというかSF牢屋みたいな、畳八畳くらいの部屋に僕は座っていた。勿論床は畳ではない。フローリングだ。
 一面はガラスっぽくて、他の三面は白いアスファルト? 天井は自分の家よりは高く、電灯のようなモノは無さそうだけども、明るかった。窓は無いので、ここがどういうところかは皆目見当がつかない。
 そのSF牢屋の中にはドアが一つあり、あとはベッドが二基あった。ドアを開けると、そこは普通にトイレのようだった。洋式トイレでウォシュレットっぽいマークはあるので、ウォシュレットはあるっぽいけども、肝心のトイレットペーパーは無かった(肝心のトイレットペーパー?)。
 僕がここに来てから数十秒後に、なんと突然雄二が目の前に出現したのだ。
「どないなっとんねん」
 と、いつもの低温でツッコむ雄二。
 どうやら本物の雄二らしい。こんな変な喋りのヤツは他にいないので。
「雄二、どうやらロペスくんとかジェンくんの仲間に連れ去られたらしい。顔が似ていた」
「顔が似とるヤツなんて山ほどいるやろ」
「まあそうなんだけどもさ」
「そうなんかい」
「そいつらに腕掴まれたら、もうここにいたのは、合ってる?」
「俺もそうや」
 と言いながら、ベッドに腰を掛けた雄二。そういう備品によく警戒無く触れる(座れる)な。
 さて、ベッドが二基ということはここから雄二と一緒にSF牢屋の中で生活しないといけないということか?
 ということは、
「ここから僕たちはここにいないといけないっぽいけども、口臭大丈夫そう?」
「大丈夫や、クッサい漬物食ってきてへんわ」
「ニンニクをキムチで巻いたモノとか食べてきてない?」
「無いて、今日は冷奴やったわ」
「あぁ、キムチを乗せた」
「それはそれで美味いけども、普通にめんつゆや、てか急にボケ過ぎやねんて、もっと慌てさせろや」
 僕はあんま意味無いと思うけども、つい小声で、
「多分監視されている。会話も筒抜けだと思う。だからできるだけ文化的に会話していると思わせたほうがいいと思う」
「文化的イコール、ボケ・ツッコミってなんやねん。てか最近ロペスくんとジェンくんと一緒になってからボケ減ったわな、圭吾は」
「あんまり意味わかんないこと言わないほうがいいかなって自重していたよ」
「全然今も自重してええで」
「とにかく楽しいと思われなきゃ」
 雄二は周りを見渡してから、
「そういうもんか」
「多分そう。険悪は一番良くないと思う。向こうは地球人のことを野蛮と思っているから」
「ホンマか? 急についてきてもらうとか言われて掴まれただけやで」
「いや僕は妹が静かに部屋へ入ってきたと思って、振り向きざまにクラッカー鳴らした」
「圭吾のせぇやんけ」
「でも”やはり野蛮”と言っていたから、元々野蛮とは思ってそう」
「いや圭吾のせぇやんけっ」
 とさっきより語気を強めた雄二。
 いやいや、
「だから険悪が一番ダメだから、雄二は許す方向でいこう」
「どんな映画監督やねん、そんなとこまで方向性決めんなや」
「今のツッコミはちょっと攻め過ぎかな、映画監督が方向性を決める人物だと思い過ぎ」
「何でツッコミのダメ出しされなアカンねん、それが険悪になる原因やん」
 雄二がベッドに座ってからちょっと経っても何も起きないので、僕も対面のベッドに座ると、即座に雄二が、
「なに、何も起きないから座って大丈夫だなぁ、ちゃうねんて」
「雄二、気付いていたのかよ」
「気付くわ、何年一緒におんねん」
「前世から?」
「スピリチュアルやなぁ」
 ツッコむというよりも、そういう解釈もあるんだ的な感じでちょっと上のほうを見た。いや普通にボケだよ。
 まあいいか、
「雄二は何してた? 僕は勉強だけども」
「俺は普通に動画見てたわ」
「あぁ、イヌが溝にハマって動けなくなるヤツね」
「中国のSNSちゃうわ」
「そのツッコミもちょっと偏見だなぁ」
「ツッコミの審査やめぇい。今日は審査されに来ましたとか言うてないから、俺」
 と雄二が言ったところで、急にガラス面の奥の壁が開いて、そこから僕を連れ去った人物ともう一人の人物がやって来た。
 雄二のほうを見ると、あの時の感があったので、もう一人の人物が雄二を捕まえた人物だろう。
 僕を捕まえたほうが男性っぽくて、雄二を捕まえたほうが女性っぽい。
 僕と雄二もとりあえず立ち上がって、そのガラス面のほうを向いて立った。
 入ってきた二人のうち女性のほうが男性のほうを軽く向きながら、
「そんな野蛮には見えないけどね」
「ログを見ただろ、ログを」
「あれっていわゆるパーティグッズじゃない? というか最初から私たちだと視認できるはずないじゃない? 誰かと勘違いしていたんでしょ?」
 女性の詰めに男性のほうはぐうの音も出ないといった感じに黙った。
 その二人は僕たちの目の前で立ち止まり、女性は僕たちのほうを見ながら、
「貴方たちがロペスくんとジェンくんと一緒に過ごした少年ね」
 すると雄二が矢継ぎ早に、
「そうや! ロペスくんとジェンくんがおるなら会わせてくれや!」
 と柄にも無くデカい声を出した。
 女性は表情一つ変えずに、
「今はできません。まずはこちらの質問に答えてください」
 僕はちょっとムッとしてしまったので、
「急に連れてくるなんて野蛮なことをした人たちが一方的に質問とはまた野蛮ですね」
 雄二は僕の肩を強めに叩きながら、
「煽んな、アホっ」
 と言ったんだけども、だってさすがにさすがに過ぎるから。
 すると男性のほうが雄二のことを指差しながら、
「ほら叩いた! 野蛮だ!」
 と言うと、女性が溜息交じりに、
「あれはただのじゃれ合いですし、野蛮がどうのこうの言ったのはこちらのグレンのほうです。私は平和的にちょっと来てください、って言いましたよね? 雄二くん」
「でも突然掴んだやん、んで気付いたらここや」
「説明を後回しにしただけです。こっちの科学力を見せつけたあとのほうが合理的でしょ?」
 女性の言い分は乱暴だが理屈はわかる。
 だからここは、
「まあ理解はできます。そっちの男性のほうは全然わからないけども。勝手に人に家に侵入して野蛮呼ばわりだもんなぁ」
 グレンと呼ばれている男性のほうが怒り心頭といった感じに、
「なんだと! 俺のことを理解できないなんて野蛮だ!」
 と叫んだところで、その女性がグレンと呼ばれている男性の腕を掴むと、そのグレンと呼ばれている男性は忽然と消えた。
 女性は一礼してから、
「仕事のできないヤツもいるんです。申し訳御座いません」
 と言った。どうやら女性のほうが偉いらしい。なら僕も女性に捕まえられて来たかったよ。
 女性は改めてといった感じに口を開き、
「というわけで、こちらの質問に答えることは可能ですか」
 僕と雄二は顔を見合わせてから二人で頷き、僕が、
「どうせ答えないと話が進まないんでしょう? 答えますよ」
 と言うと、女性はそのまま質問を始めた。
「まずはジェンさんの病気を治して頂き感謝しております。地球人外だとわかったあとも文化の追求を手伝ってくれていたようで。見返りは何ですか?」
 すると雄二が割って入るように、
「見返りなんてないわ、友達だから当たり前やろ。というかロペスくんとジェンくんはどこや。二人にも来てもらいたいわ」
 僕はこういうことを言うことにした。
「そうですね、見返りはロペスくんとジェンくんに会わせてください。それぐらいのことはしたと思うのですが」
 女性はうんうん頷きながら、
「観察通り、主は圭吾さん、貴方のほうですね」
 僕は即座に、
「違うね、雄二がエンジンで僕が操縦。つまりは一心同体の親友って感じかな」
 雄二はちょっと照れ臭そうに、
「そんなんハッキリ言葉にせぇへんでええわっ」
「いやしたほうがいいんだよ、この状況。多分できるだけ言葉にしたほうがいい。あんまニュアンスを過信しないほうがいい」
 女性はほほうと顎をあげながら、
「なるほど。相性良さそうですね、それに私たちが別で観察していた人間よりも賢そうだ。ちょうどグレンもいなくなったところで、私からお願いがある」
 僕はできるだけ平常心で、
「それは貴方がたの総意ですか、それとも今の言いっぷり的に貴方独自のお願いですか」
 女性はフフッと笑ってから、
「そんなこともわかるんだね、賢いね。だからこそ。まっ、私やロペスさん派の願いかな? 勿論ジェンさんも。貴方たち二人のプレゼンで植民地派の連中を説き伏せて、友好関係派の勝ちにしてほしいの」
 雄二がデカい声で、
「植民地って! アカンやん!」
 僕は一息ついてから、
「なるほど、一枚岩じゃないんですね」
「その通りです。ちなみにさっきのグレンは植民地派。私は友好関係派のリーダー、ユルシです」
 雄二は唇を震わせながら、
「アッカンわ……重荷やん……どうないしょう、圭吾……」
「別に普通に僕たちがプレゼンを担当すればいいんじゃない?」
「んな簡単に言うなやっ」
「だって他に観察していた人間はあんまだったんでしょ? で、リーダーのユルシさんが、僕たちがいいと言ったんだから、そこの選別眼を信じていいんじゃないかな?」
 女性、いやユルシさんは嬉しそうに微笑し、
「いいね、すごくいいね。じゃあ他に言うことある?」
 僕はすかさず、
「まずロペスくんとジェンくんを連れてきてください。一応の確認として、ユルシさんが友好関係派のリーダーなのかも聞きたいので」
 ユルシさんはしっかりと頷いて、
「わかったわ、ロペスさんとジェンさんも弁明したいでしょうし、今からその二人を呼び入れるわ」
 と言いながら、腕に巻いている機械の液晶を押すと、ワープしてきたようにロペスくんとジェンくんが出現し、開口一番ジェンくんが、
「ゴメンなさい! こんなことに巻き込んでしまって! おれたちもちょっと騙されていて! こうやって友好関係を築いていくんだと思ったら、まさか植民地派なんて”まがい物”がいるなんて! ロペスくん! 本当に知らなかったのかい!」
 ロペスくんはどこか曇った表情で、
「ぼくも知りませんでした、ぼくがちゃんと決めたはずなのに、きっと参謀のアダワさんが裏切っていたんだと思います」
 この言い方は、と思い、
「もしかするとロペスくんが王様なの?」
 ロペスくんはうんとしっかり頷き、
「そうです、今はぼくが王様です、でもまさかです」
 雄二はユルシさんのほうを見ながら、
「この人が友好関係派のリーダーということはホンマか?」
 ロペスくんは困惑した面持ちをしてから、
「それがもうよくわからないんです、みんな友好関係派だと思っていたので、友好関係派のリーダーというものが、そもそもわからないです」
 確かにそういう受け答えになるだろうなという感じだ。
 まずロペスくんもジェンくんも嘘をついていないだろう。
 そして、
「まあユルシさんが友好関係派のリーダーということも本当かな、何故ならロペスくんとジェンくんを呼んだから。友好関係派じゃなかったら呼ばないでしょ。ロペスくんとジェンくんが隙を見て、この部屋に入ってきたわけじゃないし、信じていいと思う」
「ホンマかぁ……」
 とちょっと懐疑的だけども、僕がそう言ったので信じてくれた、みたいな顔になった。
 さて、
「プレゼンをするという話ですが、それはちゃんと聞いてくれる態勢なんですか?」
 ユルシさんはコクンと首を縦に振り、
「それは必ず席を設けます。正直圭吾さんや雄二さんの所作により、迷っている植民地派の方々もいます。そもそも我々は温厚な種族で、植民地にするにしても酷い縛りをする予定ではありません。とはいえ何をやり出すかはわからないというところが本音ですね。だから友好関係で決定させてほしいんです」
「ならスマホを僕たちにください。プレゼンのために調べますから」
「わかりました。貴方たちの部屋からとってきていいですね?」
「あと普通に中学校へ行きたいので、昼は帰してください」
「それは大丈夫です。この空間は時の進みが遅いので。そっちの一日はこっちの一時間にも満たないでしょう」
 雄二が愕然としながら、
「なんやそれっ」
 と言ったわけだけども、むしろ僕は、
「じゃあ好都合ですね、しっかり決着つけよう、雄二」
「ホンマ圭吾は動じへんなぁ」
「雄二だってどちらかと言えばそうじゃん」
「いやいや、俺は普通や」
「畠山くんにも普通に会話できるくせに」
「あれは同い年の人間やん、年上のヤンキーなら無理やで」
 ユルシさんは急に一礼したと思ったら、
「ではプレゼンはとりあえずこちらの時間で二時間後でお願いします」
 多分反射で雄二が「早いなぁ」と言ったわけだけども、それはスルーされて、ユルシさんは消えて、ジェンくんの「ちょっと待」まで聞こえたけども、ロペスくんとジェンくんも消えてしまった。
 あくまで主導権はユルシさんが持っていて、ロペスくんは王様とはいえ、そこまでの権限はまだ無い感じ? 子供だから?
 さてさて、ということは大人を説き伏せないといけないらしい。
 とりあえず僕と雄二がベッドに座ると、そのタイミングで、ベッドの上にそれぞれのスマホが転送されてきた。
「頭にスマホが降ってきてたら嫌やったな」
 と雄二が言ったので僕は、
「ノット軽口」
「ええやん、それくらい」
「さて、なんというかちゃんと調べてプレゼンしたほうがいいね」
「というかやねんけど、プレゼンは穏便にいったほうがやっぱええんか?」
「まあ向こうの出方によるけども、最初は下手に出たほうがいいかもね、何を言い出すかわからないから」
「そうやなぁ」
 そこから僕と雄二でいろんな情報を集めて、スマホのメモで文章を作成していった。
 雄二のスマホのほうがちょっとデカいので、雄二のスマホで資料画像を表示させることにした。
 僕がメモの文章を読む係だ。さて、一応準備ができたので、喋りの練習や画像を出す練習をしていると、時間がきたみたいで、さっきの男性(グレンさん)や長老のようなおじいさんがた三人や、ユルシさんもきた。
 おじいさんのうち一人が、
「ではプレゼンを頼むよ」
 と腰掛けるような素振りを見せると、床からイスが生えてきて、そこに座った。
 同じ要領で全員座ったので、早速僕と雄二でのプレゼンが始まった。